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Anekumene  作者: 線香花火
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腹ペコジョニー

今年で二十歳を迎えた彼は路傍でさまよっていた。

昨日の夕飯でとうとう有り金をすべて使い切ってしまっていたからだ。

ある事件をきっかけにこの国の雇用というのはかなり減ってしまった。

その波は彼にまで届き、決して高くはなかった給料の仕事を彼は失ってしまった。

昨日から何も食べていない彼にとって周りの景色は悪魔の外見を模していた。

年老いたマスターが営む古ぼけたカフェ、料理の最中なのか一軒家から漂ってくるにおい、そのすべてが彼の食欲を刺激し増幅させた。

(もう駄目だ。死んでしまう)

立っていることさえつらくなってきた彼は体の体重をすべて預けるように電柱に片手をつ

いた。

『地域復興課 アネクメーネ調査部 人員急募』

その電柱には一枚のチラシが張ってあった。彼の頭の中にアネクメーネという聞きなれない単語が反復された。

しかし、そんなことよりも彼の目を引いたのはその詳細だった。

『経歴、年齢、性別不問。日給1万。即日採用。問い合わせ番号・・・・・説明会9月8日場所・・s』

あまりの良物件に逆に怪しさが満ち溢れていた。

詐欺、ブラック企業など様々なネガティブイメージが廻った。

しかし、彼が冷静な判断を下すには余裕と糖分が少し足りなかったようだ。

そして残念なことに説明会というのはちょうど今日開かれるらしく迷っている暇もなかった。

彼はすぐさまポケットに入った雑多な小銭から十円玉を取出し、チラシに記された番号に電話をかけた。



「お待ちしておりました。佐倉誠様」

佐倉誠とは彼の名前である。

チラシに書いてある通りに来た場所には約30階相当にもなる超高層ビルが建っていた。

その玄関では受付嬢が愛想よく笑顔を振りまいていた。

「17階会議室で室長がお待ちです」

元気のない誠は首だけの返事でそれに答えた。

久しぶりに乗ったエレベーターをぎこちなく操り17階についた。

5階会議室はどこだろうと長い廊下の中をさまよっている中、誰かにポンと肩をたたかれた。

後ろを振り向くと長身の男が一人、貼り付けたような笑顔をたたえていた。

「君、新人でしょ?会議室はあっちだよ」

優しい声音で告げられ、誠は彼が指を指したほうを向く。

「ありがとうございます・・・」

誠の声は彼に届かなかったが、会釈したことで彼に感謝の意は伝わったらしく満足げな様子で去って行った。


会議室を開けると誠は目を見開いた。

というのもパッと見た感じでも200人は超えてそうなほどたくさんの人が会議室を埋め尽くしていたからである。

その全員の視線が一斉に注がれて誠は一瞬ひるんでしまった。

その人たちの服装を見る限り誠と同じ境遇の人がほとんどのようだった。

しかし、中には何人かきっちりとしたスーツを着用している者もいる。

誠はあいている席を探すのが面倒だったので後ろのほうで立っていることにした。

大勢の目の前にはスーツを着こなした男性が姿勢よく立っている。

何も言わなくてもこの人が室長なのだろうと誠は察した。

コホンと室長が咳をする。

私が入室したことでできた微妙な空気を整えた。

「今日は来ていただき・・」

言いなれたようにその男の口からはスラスラと最初の挨拶が延べられる。

落ち着いた声が広い室内にしみわたっていく。

男性がほんの少しだけ間を作る。

その間のおかげで全員が男性の言葉に耳を傾けるようになった。

ここからが本題なのだろう。

誠は次の言葉を聞き逃さぬよう耳を研ぎ澄ました。

男性はゆっくりと口を開く。



「あなた方には、私のため国のため明日から、文字通り命を懸けて戦ってもらいたい」


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