A New Hero
――人類は知らないという事を恐れる。暗闇が恐ろしいのは、そこに何があるかを知ることが出来ないからだ。他人が恐ろしいのは、それが何を考えているかを知ることが出来ないからだ。地震が恐ろしいのは、それがいつ起きるのか知ることが出来ないからだ。死が恐ろしいのは、その果てに何が待っているのか、それを知ることは永遠に無いからだ。
けれども人類は必死に考えた。自らに圧し掛かる恐怖から逃れるために、そこに何があるのかを知ろうとした。ありとあらゆる事象の正体を知ろうとした。そこに生まれたのが神であり悪魔であり、精霊であり怪物だった。彼らの存在を不可知の地平線に埋め込んで、必死に乗り越えようとしたのである。
だが、最早そんなものは必要でなくなってしまった。科学という統一不変の学問が、神や悪魔が領分としていた事象を次々に解き明かしてしまったからだ。太陽が燃えているのは核融合反応によるものだし、月が光るのはその太陽の光を跳ね返すため。科学の手にかかれば、不可思議の海は一瞬にして埋め立てられてしまう。その中で、人類は自らが生み出してきた神々を捨て、科学こそ人類最大の武器と決めたのだった。
不可知を恐れる人類を支え続けた幻想物は、今や文化遊戯の小道具に過ぎない。世界の根幹を司っていた神精霊も、人類を震え上がらせた悪魔怪物も、今やただひたすらにこねくり回されて創作物の一部にされるのがオチだ。彼らがかつて持っていたはずの威厳など、最早これっぽっちも残っていない。
それでも彼らは生きていた。世界から追い出されそうになっても、彼らは生きたいと願っていた。自分の生まれた意味を果たしたい、そう願っていた――