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1-25 決闘の後始末

 俺は倒したナシータを肩に担ぎ上げながら、立会人の下へと歩いていった。


 彼は何か信じられないものでも見ているように、こちらへと視線を向けてくる。その隣では馬鹿王子がプルプルと脂肪満載の身体を震わせている。

 スライムみたいだな、メタボスライムか? いや王子だからプリンスメタボスライムか?? 長いからプリメタスラだな。うん。




「さぁ、勝負はつきました。契約魔法を完成させてください」


 決闘の際に活用する契約魔法は、事前に用意した証書の魔方陣部分に敗者の血を一滴たらす。

 そして勝者はその証書に己の魔力を込めることで終了となる。



 つまり、まだ決闘は本当の意味で終わっていないのだ。


「ま、まて! まだ勝負はついていないのではないか? 立会人が宣言をしていない」

 プリメタスラは慌てて声をあげる。

「だからこうして、はやく宣言してくれと頼んでいる。さっさとしてくれ」


「……う、うむ。勝敗は決した」

 そう言って手元から証書を取り出した。

 それを聞いてプリメタスラは神官を睨みつける。


「この証書に敗者の血を……」

 神官はプリメタスラに血を求めた。

 だが俺は気づいた。神官が胸元を指差すしぐさをしていたことを…。


「クッ…。これで良かろう」

 プリメタスラ先ほどまであれほど嫌がっていたのに、あっさりと了承した。

 そして胸元から小瓶を神官に投げ渡した。

 


<あれは、あの王子の血じゃないね>

(分かってる。きっと誰かの血を事前に抜いて用意してたんだろう)



 全く呆れたものだ。神官とグルになって負けたことから逃れようとするなんて…。

 見苦しいにも程がある。




 このままだと、決闘をした意味がなくなってしまう。

 でも俺たちだって手を打ってある。いつまでも嵌められてばかりじゃない。




「それは間違った手順です! それ以上動かないでください」


 プリメタスラから受け取った小瓶の蓋を開けようとしたその時、こんな声がした。


 声を上げたのは神官服の男性だ。彼はスチュアート領内で暮らしている神官だ。


 決闘に参加することを決めた時に、ジョージに頼んで別の神官を連れてきてもらったのだ。

 

 この神官には通常手順と違ったり、怪しい動きをしたら声を掛けて欲しいと伝えてある。



「な!! 貴様はなんなのだ?」

 立会人を務めていた敵神官は、制止するように声を掛けられて混乱しているようだ。


「私はこの地に滞在していた神官です。あなたが行っている手順は、正当なものではない。きちんとこの場で敗者から血を抜いてください」

 凛とした彼の声に、この場は静まりかえった。


 敵神官はいくら待っても馬鹿王子から血を抜こうとしない。



「あの~、早くしてくださいませんか?」

 俺は早くプリメタスラたちと一刻も早く離れたい。その一心から催促の言葉を送る。このプリメタスラは本家のはぐれメタ○とは違って逃げようとしないスライムだ。



「う、うるさい。大体こんな決闘は余興だ。無しだ無し! 私は体調が悪い。いま血を抜かれたら死んでしまう」

 なんか、さんざん喚いている。

 血を抜くって言ったって、一滴証書に垂らすだけだぞ?

 死ぬわけ無いだろうに…。



「では、私が代理で抜きましょう。回復魔法も使えるので死ぬことは無いでしょう」

 ジョージが連れてきた味方神官が逃がさないとばかりに、王子に近寄ろうとする。



「私に危害を加えようと言うのか? 王族である私に…。お前たち、私を守れ!」

 メタボスライムは仲間の取り巻きスライムを呼びだした。騎士たちが10名だ。というかかなり強引だな。味方神官さんも目を見開いて、びっくりしている。


 命じられた騎士たちは、一斉に武器を構えて臨戦態勢だ。

 まさか、この場にいる全員を皆殺しにしようと? いや、それにしては戦力がお粗末すぎる。きっと俺が勝ったのは計算外だったんだろうな。ナシータで勝負は終わると思っていたんだろう。


 だがここは黙ってみていられない。さすがに味方神官ではこの状況で強行は出来ないだろう。




 ……しょうがない。



「神官殿。このような場合は敗者に対して手荒にしてしまってもかまいませんか?」

「…仕方ありません。審判神もこのままではお怒りになってしまいます」


「分かりました。ジョージ! 囲ってくれ!!」


 俺の指示にジョージは意図を察してくれたようで、魔法を発動させるために集中をしている。そして俺は王子たちに向かって宣言する。

 

「決闘を汚した愚か者たち、痛い目にあいたくなければ武器を捨て地に伏せろ! さもなくば……」

 俺が降伏勧告をしている間に、ジョージが魔法を完成させた。


 ―――ブゥオオオオーーーン!


 轟音と共に火の壁が王子たちの背後に立ち登る。優に3メートルは超えそうな火の壁のせいで俺まで熱さを感じた。

 つーか、凄いなジョージ…。



「さもなくば、死ね!」

 俺は、言葉を発してからゆっくりと王子たちのほうへ、歩き出した。






「相手は一人だ! 魔法を使える者は後方から叩き込め! 残りは私と共に隙を見て斬り殺すぞ!!」

 いつぞやの一人だけ豪華な甲冑の隊長格が指示を出す。


 魔法を使うために下がった人数が5人。残りは俺へと斬りかかる為に距離を詰めてくる。

 

 俺は先程の決闘では使わなかった身体強化で、足に魔力を多めに込めて循環させた。きっと奴等は俺が身体強化を得意とする近接型とは思っていないだろう。

 足に魔力を感じると、溜めを作らずに姿勢をそのままに前方へと飛び込んだ。


 ゆっくりとした歩調からの、急激な加速で俺は地を駆ける。



 俺の急激な動きの変化に対応できなかった前衛5人を置き去りにして、そのまま後方の魔法使い達へと接近する。

 魔法使いの何人かは、魔法を放ってきた。水球や土槍だ。


 俺は【好都合領域コンビニエント・エリア】でそれらを逸らす。背後から、何人かの悲鳴が聞こえてくる。俺を追ってきた前衛たちに都合よく当たったようだ。

 


 こいつ等は俺とナシータとの決闘を見ていないのだろうか? 

 この程度の魔法で攻撃してくるとは、頭の悪い奴等だ。



 俺はコーメーの【亜空間】から手斧(トマホーク)二本を両手に取り出した。

 そのまま魔法を放ってきた者を斬りつける。

 

 一人目は右腕を二の腕辺りからばっさりと…。

 二人目は左足を拗ね辺りからザックリと…。

 三人目は両手を手首からスパンと…。

 ……切り上げた。


 四人目を仕留めようとしたところ、残りの二人は逃げようとしている最中だった。

 背を向けて走り出しているので、そのまま手斧を投げる。

 二本とも背中に当たって、二人はそのまま倒れた。



<相棒! 後ろだ!!>


 コーメーから、注意を促す声が聞こえたので急いで振り返った。

 どうやら隊長格の騎士は魔法を耐えきったらしい。もしかしたら、甲冑に魔法耐性でもあったのだろうか?見た目だけじゃなくて高性能な甲冑なのかもしれない。

 奴は俺に対して吶喊して向ってこようとする。


 俺は亜空間から【三日月の斧(クレセント・アックス)】を取り出す。ウェンキッシュから貰ったこの斧を、実戦で使うのは初めてだ。

 思いっきり振りかぶって、隊長格の騎士に投げつけた。


 豪華甲冑はその自慢の防御力で受け止めようとしている。避けようともしない。



 ――――――スパンッ!!



 斧に触れたかと思うと、相手は何の抵抗もなく甲冑ごと真っ二つになった。上半身だけがストンとずり落ちた。

 そして斧はそのまま地面と平行に、飛んで行ってしまったので、慌てて魔力を込めて手元に引き戻した。


(コーメー、サンキューな。)

<いいってことさ。相棒だろう?>



 どこか、嬉しそうな感情がコーメーから伝わってくる。本当に感情豊かな精霊だ。


 …にしてもウェンキッシュは危ないものをくれたもんだ。

 対人だと、あまり使わないほうがいいかもしれない。

 ま、これから気をつけよう。


 それよりも……。




「ひ、ひぃぃぃいい!」



 プリメタスラがようやく逃げようとしている。


 プリメタスラは体が重くて思うように動けない。


 プリメタスラは転んだ。


 プリメタスラはジョージに捕獲された。




 うん。これで終わりかな?

 そーいえば敵神官は随分とおとなしくなったな。

 何してるんだろう?



 俺は途中から存在感のなくなった敵神官に目を向ける。

 彼は味方神官に証書を渡している最中だった。



 俺たちは、プリメタスラを連れて神官たちのところへと集まった。



「では殿下、血をいただきます」

 先ほどとは打って変わって、敵神官が進んで血を抜きに行った。心変わりでもしたのだろうか??


「ふ、ふざけるな。これではレモニア殿と結婚できなくなるではないか。貴様の言う通りに今まで色々と手を回してやったのに。ふ、ふざけるな!」

「殿下、何をおっしゃっていますか。神官である私がそのような企みなどしようはずがありません…」 


 うお、あの敵神官はあっさりと裏切りやがった。

 ちょっと哀れだなプリメタスラ…。というよりもあの敵神官がプリメタスラの腹心で一緒に色々とやってきたと思っていたが…、どうやら王子は利用されただけのようだな。

 と、言うことは黒幕はあの敵神官なのかな? プリメタスラに取り入って何かやっていたんだろうな。分からんけど…。



「それに、あなたには失望しました。結局あなたには我等が神の祝福は無かったのでしょうね…」

「この薄汚い狂信者め! お前が妄信する神など、私は信仰などしておらん」 


「………それは我が神を愚弄していますね」

 

 俺は急激に溢れるプレッシャーを感じた。なんだ? 信仰する神について触れただけでこの変わり様は?


 敵神官は目を見開くと、懐からナイフを取り出した。


 何の変哲も無い普通のナイフだ。刃も10センチ程しかない。あれで何をしようというのだろう。


「もういいです。我が神を陥れる発言は死をもって償ってもらいましょう…」

 敵神官は取り出したナイフで右手首を突き刺した。

 ビュッ! と景気良く血が飛び散った。


 その凶行に、俺たちは反応することが出来なった。


 そして彼の足元に血の池が出来ようとしている……。

 

「えっ? 自殺??」

 俺は目の前の出血量が想像以上に多いことに驚き、間の抜けたことを言ってしまう。


<相棒、あれは良くない。離れたほうがいい>


 ん? コーメーはアイツがやろうとしていることが分かるのか? まぁ、ここはアドバイスどおりにしよう。


「みんな、離れろ!!」

 俺の声に皆従ってくれた。プリメタスラたち以外はだが…。



「ふん。何をするかと思えば…。もういい。お前等アイツを殺せ!」

 プリメタスラは比較的軽傷の護衛に指示を出す。一応回復魔法である程度の怪我は治ったとはいえ、片腕無い人とかいるんですけど。 人使い荒すぎじゃんね??



「クククッ。喰え。」

 敵神官は一言呟いたかと思うと、血溜まりがギュルンと回転しながら宙に浮いた。サッカーボールくらいの球体になったそれは、近づいてきた護衛の一人に突っ込んでいった。


「な? なんだ??」

 ぶつかった護衛は、血の塊を拭おうとして身体をまさぐるが、血はいっこうに離れていこうとしない。

 まるで鳥もちのようにくっついている。そのまま血は護衛の顔まで移動すると目や鼻・口・耳といった箇所から体内へと侵入しているようだ。


「グゥ、クハッ! なんだ? 俺の中に血が入ったのか?」

 当の本人は状況が分からずに、頭を振っている。

 そして…

 

「なんか、気持ち悪いな…。―――ん? 腹が痛い…。 痛い痛い、イタイイタイイタイイタイイタイ」

 急に身体を掻き毟るような動きをして、護衛は叫びながらひざ立ちになってしまう。


「おい、大丈夫か?」「何が起きているんだ?」「回復魔法をかけてやれ」

 他の護衛たちが叫ぶ、彼に駆け寄っていく。その中の一人が回復魔法をかけたようだが、依然として叫び声はとまらない。ダメージを負っているわけではないのか?




(コーメー、何だあれは? 知っているのか??)


<似たような魔法を見たことがあるよ。確か水魔法と錬金術の複合技だ。自分の血を媒介にして、意思をもったスライムのような【魔法生物マジック・クリーチャー】を生み出して使役するんだ>


(なにそれ、やばそうだな。それに聞いたことがない)

<オイラも見たことがあるのは、千年位前だね。当時でもかなり珍しかったよ。今でも使い手がいるなんて…>



 俺はコーメーは目の前の現象について、意見を交わしている時にそれは起こった。


「イタイ、イタァァァアァアアア……」


 一際大きな叫び声をあげた護衛はその場で、直立不動になった。そして…




 ―――ボォン!!




 爆発した。


 文字通り、爆発だ!!!


 彼の周囲にいた他の護衛たちは、爆発したモノを全身に受けている。

 血だったり、肉片だったり………。

 何と言うか、物凄い絵だ。 きたねぇ花火だ…。 


 だが、呆気にとられている彼等を更なる悲劇が襲う。

 彼等に付いた血がもぞもぞと動き出したのだ。


「ぅう、うわぁぁああ」「な、なんだこれ」「助けて! 助けてーー!!」


 叫びながら逃げ惑う彼等の身体には、先程まであった大量の血は無くなっている。

 さっき爆発した男と同じように顔のあらゆる箇所から、体内に侵入したようだ。



「みんな、逃げるんだ! 巻き添えをくらうぞ!!」


 俺は、この状況が連鎖していくものだと判断して、家族を非難させる。レモニアを先頭にしてスチュアート家の面々がこの場を去っていく。

 この場には、敵神官とプリメタスラとその護衛が数人。そして俺とジョージが残った。


「ジョージ、お前も下がれ!」

「いや、私も残ります」


「――っ! 勝手にしろ」





 ―――ボン!

 ―――ボン!

 ―――ボン!



 言い争っていた俺たちを余所に、また爆発が起きたようだ。

 音の方を向くと、どうやら血肉を浴びた護衛たちも爆発してしまったようだ。

 

 幸いなことに今回は飛び散った肉片を浴びたものはいないようだ。

 飛び散った肉片はそのままに、血だけが敵神官のほうへと集まっていく。


 先ほどまではサッカーボール程度の大きさだったのに、集まった血はかなり大きくなっている。子供一人は覆い隠せそうなほど大きくなった。



「ククククッ! さあ準備は整いましたよ」


 敵神官が邪悪な笑みで、そう呟いた。




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