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第二章②

 夕日で僅かに赤みがかった天井が目に映った。ツンとした臭いが鼻腔を刺す。


「気が付いたか」


 遥の視界に見下ろす形で蝋嶋、楽市、安倍川の顔が入る。


「お前が倒れたって蝋嶋から聞いて、心配で来てみたが……無事で何よりだ」


「そこのテーブルに置いてある果物は好きに食べて良いからね。お見舞いの品だから」


「お見舞い?」


 起き上がって周囲の様子と自分の姿を確認する。どうやらここは病院の病室らしく、自分も青色の患者服に着替えられていた。辺りを見渡しても他にベッドや入院患者が見当たらない事から、個室だと思われた。


「わたしは一体……」


「気を失ったお前を救急車でこの病院へ運んだんだ。医者に言わせると、大した事はないらしいが、念の為に一晩入院するようにとの事だ」


 遥も念の為、蝋嶋に聞く事にした。


「先輩、わたしの家の屋根から庭に落とされた、あの女性の遺体は誰の物なんですか」


 蝋嶋は眉間に皺を寄せ、楽市と安倍川の顔からも笑顔が消える。


「まだ遺体が発見されてから一日と経っていないから詳しい事は分からないそうだが、遺体が着用していた服と、それに付いていた髪の毛から、舞姫鈴蘭である可能性が高いらしい」


 やはり、鈴蘭は死んだ。だが、六泥と錦縁が死んだ時と同様に、悲しみも、恐怖も感じてこない。そんな自分自身に対する苛立ちすらも。遥は、改めて自分が薄情な人間である事を実感する。


「失礼します」


 機械的な声が聞こえて来たと思うと、扉が開いて、筑摩知織刑事が病室に入ってきた。筑摩は真っ直ぐ遥のベッドに近寄る。


「具合はいかがかしら?」


「普通です」


 筑摩の顔から笑顔がこぼれた。


 だが遥には分かっていた。筑摩がここへ来たのは、ただの見舞い等ではない。仕事の為だ。


「さて、刑事さんがご登場した事だし、オレ達はそろそろ御暇するとしよう」


「じゃあね、印藤さん」


 楽市と安倍川はそう言うと、病室から出て行った。


「俺も帰る。筑摩さん、後はよろしくお願いします」


 筑摩に一礼をし、遥にも一瞥をくれると、蝋嶋も二人の後を追う様に病室を後にする。


 その、最後の蝋嶋の一瞥が、遥の心を大きく揺らがせた。



 筑摩は聴取を始める前に、自分の不手際で錦縁を死なせてしまった事を謝罪した。昨日、図書室で初めて会った時はその機械的な声のせいで何となく取っ付きにくい感じがしたが、実際に腹を割って話してみれば彼女もまた、堅実で温厚な人物である事が分かった。別れ際に、必ず犯人を捕まえてみせるとも、約束してくれた。蝋嶋が彼女を頼り、情報を求めたのも納得出来た。


 聴取が終わって数時間が経ち、就寝時間になった。寝る前にシャワーでも浴びておきたかったが、入院中の身である。早くて明日には家に帰れるのだし、今日一日位は我慢をした方がいいだろう。


 数十分前に看護師から鎮静剤を打たれたせいか、目を閉じるとすぐに遥は深い眠りに落ちた――


 

 夕日で緋色に染まった道を、遥の視点は進んでいた。


 この道には見覚えがあった。どんな日でも、どんな気持ちでも、小学校の六年間、毎日の様に歩いた道だ。また行く日が来るとは思ってもみなかった。この道を歩く時、彼女はいつも憂鬱な気分だったから。


 視点が突然背後に向いた。そこには、初めて出会った時と同じ格好をした笑顔の親友が立っていた。


 彼女は笑顔のまま遥に両手を伸ばしてきた。そして、凄まじい力で彼女の首を絞め始める。


 苦しい……やめて鈴蘭。


 遥の想いが届いていないのか、鈴蘭は首を絞め続ける。


 ……もしも仮にアタシが、どんなに酷い姿形になったとしても、アンタだけはずっと、アタシの友達でいてくれるわよね?


 遥はようやく、鈴蘭がもうこの世の者でない事を思い出した。一人で死ぬのが寂しいの?それなら……


 突然、鈴蘭は驚愕の表情を浮かべて後ろへ吹き飛んだ。遠くへ、遠くへ――

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