第三章⑥
今日で全てが終わる。
明け方で、まだ誰も居ない学校の廊下を遥は急ぎ足で行く。丁度この日は殺人事件の影響による休校日が終わった日だった。二日休んだだけだったが、あらゆる物が全て新鮮に感じられる。
本当に今日で全てが終わるのかどうかは疑問が残ったが、とにかく、蝋嶋を信じる他はない。
図書室の前に来た時にはもうすでに、蝋嶋季士と筑摩知織が居た。
「おはようございます。先輩、筑摩さん」
「おはよう。よく眠れたか」
蝋嶋の声は、いつもの重みがなく澄んでいた。それに対し、隣にいる筑摩はそわそわして落ち着きがない。
「蝋嶋くん、本当にその人が犯人なの?」
遥だけでなく、刑事も半信半疑の様子である。
「あなたの推理は確かに筋は通ってるだろうけど、物的な証拠なんて何一つないじゃないの」
「大丈夫ですよ筑摩さん。俺の分析によると犯人は、とても臆病者ですから。コイツを腕にいきなり掛けてやるだけで、あっさりと犯行を自供してくれるでしょう」
蝋嶋はポケットから重厚そうな手錠を取り出して、二人に見せた。先日の高級車といい、この人は一体何者なのだろう。
「印藤」
ポケットに手錠をしまうと、蝋嶋は言う。
「この事件の犯人は今、この図書室の中に居る。覚悟はいいか」
「そうでなくては、わたしは今、ここには居ません」
「よし、その言葉が聞けて安心した……筑摩さんはここで、奴が図書室から逃げ出さないように見張っていて下さい。ここからは、俺と印藤だけで行きますので」
高校生二人に犯人逮捕を任せても大丈夫なのか、筑摩は迷っている様子だったが、「何かあったら大声を出すように」と、とうとうそれを許可した。
「それでは、行くとしよう……」
蝋嶋は両手で図書室の扉を開け放つ。
そこで待ち受ける犯人は一体誰なのか。遂に、全ての扉は開かれる。
次の話で犯人が判明します。ぜひ最初から読み直して、感想に自分の推理を書いて下さい。