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第三章④

 楽市獅子の自宅は高級住宅街にあり、辺りの家の例に漏れず彼の家も、厳かな構えの一軒家だった。


 家の前の道路に車を停め、小さな門を押して家の敷地へ中へ入る。


「もしも楽市先輩が犯人で、襲い掛かって来たらどうするんですか」


「後は野となれ山となれ」


 それだけを言って、蝋嶋はインターフォンを押す。


「野となれ山となれって……」


 急いで車に戻ろうかと思ったが、その時には楽市獅子がちょこんとドアの隙間から顔を覗かせていた。ドアにはチェーンが巻かれている。


「おはよう」


 蝋嶋は軽い口調で楽市に声を掛ける。だが、目は一切笑っていない。その点は楽市も同じだったが、蝋嶋とは違い、口調は軽くなかった。


「……今さっき、あの刑事から電話があったよ……安倍川の奴が死んだそうじゃないか」


「その事で俺達はお前に話を聞きに来た」


 楽市の目に、若干の変化が生じた。


「安倍川はナイフで身体を滅多刺しにされて殺されていたが、それでも、何とか暫くの間は生きていたんだそうなんだ。犯人の名前を言うには十分な時間な」


「安倍川先輩は死の間際、偶然現場に居合わせた麻生先輩に、楽市先輩、あなたの名前を言ったそうなんです。犯人だと」


「要は俺達は今、お前が犯人じゃないかと疑っているんだ。そんな訳でお前から事情を」


 いきなり、楽市は家のドアを閉めようとしたが、すぐに止まる。蝋嶋がドアの隙間に足を入れ、それを阻止したのだ。


「自分から疑われる様な真似はするな。もしも自分の潔白を証明したいなら堂々としていろ」


「……チッ……分かったよ」


 楽市はまたドアを少し開かせたが、チェーンを完全に外そうとはしなかった。数日前、まだ在りし日の鈴蘭が、彼の根は小心者であると言っていた。


「麻生から俺達二人に、安倍川の訃報の電話があったのは今日の十時頃の事だ。おそらく安倍川はその辺りの時間帯に殺されたものと思われる。お前はその十時頃、何処で何をしていた?」


「サミィを病院へ連れて行ってた」


「サミィ……猫か」


 ドアの隙間から茶色の一匹の猫が、楽市の足に頭を擦り付けているのが見えた。目に見えて分かる不良と可愛らしい猫。ミスマッチ過ぎる。


「つまり、動物病院に行ってたって訳か」


「証人だっているぞ。獣医のムラカミ先生がオレの事を覚えてくれてるハズだ」


 その口調には絶対の自信が含まれていた。おそらく嘘は吐いていない。


「……なぁ蝋嶋、印藤。さっきお前等、安倍川を発見したのは麻生だって言ったよな」


「…………」


 楽市の口から出る次の言葉は、簡単に推測出来た。


「あの女の言う事、100%信用しているのか?もしかするとあの女が皆を殺した犯人で、お前達を騙してオレに罪を擦り付ける気かもしれないぜ」

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