僕は根暗な奴の真似をしてふふ、と笑った。
夢を見ていた。
霞掛かった街を
朽ちたビルから見下ろしていた
音も 風も 光も
何もかもが死んで
静かに 穏やかに
亡骸は分解されていく
此処に生きた人の事
僕が此処にいた事
伝うものが絶えた今ではもう
全て無かった事
悲しみも喜びも
曖昧になって解けていくなら
愛することや紡ぐことの罪も
きっと赦されていくのだろうか
ぼんやりと目を覚ませば
仄明るい部屋に朝焼けの匂い
遮断しきれずに潜り込んだエンジンの音と
遠く飛び立っていく鳥の鳴き声
シャツを捲くって左手の傷をなぞる
時が止まったみたいに胸に蔓延る痛みと
何度刻んでも歪に塞がっていく傷
見られたくなくて伸ばした前髪が視界を滲ませて
根暗な奴の真似をしてふふ、と笑った
僕を殴るアイツらが怯えながら幕を下ろすその時
僕は安堵してゆっくり目蓋を閉じるんだ
そうして最後には安らかな無が訪れる
世界が息を引き取ったその後があの夢のようなら
それはとても、素敵なこと
ベッドサイドに置いてあるオマモリで赤い線を引いて
僕は根暗な奴の真似をしてふふ、と笑った。