第8話: 永遠・愛・憎しみ
しばらく時が経ってからも、相変わらず寛哉は私の傍にいてくれた。 どういう関係なのかなぁと考えてみても、『恋人』とも違うし、『友達』でもない。 なんだろう? でも、友情のようなものはあるような気がする。 ただ・・・私はやっぱり『男』としては見ていなかった。 一緒にいることは、とても自然で、二人は案外似ていて、意思の疎通もあって、何も問題ないかのように日々が過ぎていった。 どういう関係なのだろう。
半年が過ぎようとした頃、ふと、寛哉が居酒屋で私に言った。
「お前って、やっぱりそのままなんだな。」
「へ?」
「へ?じゃねーよ。そのままなんだな、って言ったんだよ。」
「そのまま・・・?どういう意味?」
「俺さ、お前のこと会ってすぐにわかったような気がしてたんだ。 だけど、心のどこかで、こんなやついるわけねーって思ってたのも事実なんだ。 それで、半年経った今、やっぱり、そのままなんだ、って思ってさ。」
「ん?言ってる意味がわかんないよ。」
「お前みたいに生きれるやつってそういないんだよ。」
「えー?どういう意味?私は普通に生きてるんだよ。・・・そりゃぁ、酷いことしでかしてしまったのは事実だけど・・・嘘をついては生きていけなかったし。 でも、だめだよね。」
「そういうことだよ。みんな、嘘もつけば、自分にいいように生きてるんだ。世の中って案外そんなもんだぞ。 だけどさ、お前は、なんつーか・・・真っ直ぐにしか生きねーだろ?だから、人も傷つけるし、自分が一番傷つくんだよ。 だけど、本当はみんなそう生きれたらいいと、どこかで思ってんじゃねーのかな。 それをさ、本当なのか?こいつ、マジでこんな生き方なのか?って、俺の中でも信じ切れなかったところがあったんだよな。」
えぇーーー?! 何?半年も私のこと疑っていたわけ? どういうことよ!! ふと、そう思ったけど、どうやら、けなしてるわけでもないみたいだし。
ま、いっか。
「私はさ、ずっと前から私で、今も私で、これからも私だよ。 何も変わらないし、いつも変わらない。 嘘つかないで、思ったこと言って、間違ったら謝ってさ、そのままで生きてるんだよ。それだけのちっぽけな人間だよ。」
「すげーな。お前といると、俺は案外きたねぇ人間かもな、って思うときがあるよ。」
ふと、寛哉の顔に、いつもとは違う表情が見えた気がした。
「ずっと、いてくれよ。」
「永遠なんて、ないんだよ、寛哉。 有り得るとしたら、最後まであきらめずに通した結果、永遠だったんだ、ってことだけ。 結婚式で、『永遠を誓いますか?』『はい、誓います』って言ってて、すぐに別れちゃうじゃん。 永遠なんて、最後まで行かないとわからないものなの。だから・・・『ずっと一緒にいる。』なんて、今の私には到底言えないよ。」
「そうだな。 そうかもな。」
寛哉といると、私は落ち着いていることができたけど、この半年だって、毎日が穏やかなわけじゃなかった。
別れた夫が、例の彼に慰謝料を請求したり、私にも請求してきたり、その他、娘のアルバムを全部返すように言ってきたり、その都度私は落ち込み、泣き続けたりした。
請求されたお金は、私も払ったし、彼も払ったようだった。 彼には、払わないように、払ったら、恐喝になってしまうから、それだけはやめるようにと私の親が言ったのも聞かず、払ったようだった。
そして、その後、彼は、別の女性と結婚するのにお金がなくなってしまったらしく、私にその分を請求してきた。
もう、その頃の私は、脅しだとか、裏切りだとかに無感情になってはいたのだけど、それでも心が破裂しそうなぐらい苦しかった。 だって・・・自分の命よりも愛していると思っていた彼から、今度は夫と同じように恐喝のようなことをされたのだから。
メリットとしたら、彼を、きちんと忘れることができるかもしれない、という事実だけ。
もし、傍に寛哉が居なかったならば、私はとっくに命を絶っていただろう。 それぐらい、周りのバッシングも、元夫の仕打ちも、そして・・・彼の仕打ちも打撃だった。 心は、寛哉といるからといって、健全ではなかったけど、それでも救われたのは事実だった。
人って一体なんなんだろう?
憎しみとか、愛とか、よくわからなくなっていた。
私は・・・どれだけのことを元夫からされても、顔面骨折を負って、顔が若干変形しても、目の後遺症を負っても、それでも元夫を憎むことだけはできなかった。
喜んで暴力も受けたわけではないし、壮絶な結婚生活を楽しんだわけでもなくて、それは辛いものだったけど、そのことがなかったら、今の私にはなっていない。 それら全てが、私を創ってくれているのならば、受け入れて、そして、元夫の幸せを、楓の幸せと共に祈りたいと思っている。
でも、そういう思いで生きる人ばかりではないのだな、って、知ることは、辛いけど、仕方のないことなんだ。
そう、割り切るほかには、何も術はなかったんだ。
昔から、友達に、
「なんであんたは都合のいい女になんのよ?もっと、自分を大事にしなよ!」
って、付き合う人、付き合う人のことを言われたっけ。
そうだよね・・・
私って、なんでこんな風になってしまったんだろう?
苦しむような道を選んでしまうのは何故なんだろう?
寛哉といる今が、一番楽だよ。
そう、そうだ。
その他のことを避けたら、寛哉といる自分が、一番楽に生きてる。 不思議だな・・・