第6話: 屍
私の頭には、生きるということよりも、死へ向かうことばかりで溢れそうになっていた。 どうやったら死ねるか?
首を吊る? 入水? 飛び降りる? 手首を切る? 薬? ・・・・見つからない。 そして、結局は楓のことが頭に浮かんで、自殺はダメだ。と、考え直す。 その繰り返し。 これ以上、彼女を苦しめてしまうような事を私が増やしてはいけない。
ならば、どうすれば命は終わるか? 病気になればいい。 でも、すぐには死ねないだろう。
毎日、食事は喉を通らず、お酒とタバコに依存し、睡眠はといえば、毎日殆ど眠ることができない日々が続いていた。
『このままこの状態が続けば、いつかは死ぬかもなぁ』ぼんやり考えていた。
私、生きてるけど、生きてないみたい。 屍だ。 呼吸だけして、それだけ。
あの修羅場から、どのくらい経っただろう。 もうどれだけ、人と話していないだろう? ふとテレビのスイッチを点けたら、今日が大晦日だということがわかった。
「ふうん、大晦日だったんだ・・・」ふと声を出していた。 すごく久しぶりに聞いたのは、テレビの中の声と、私の独り言。 なんか、滑稽だな。
ふと、どうしようもなく、誰かと話をしたくなった。 私をどこのだれかもわからない誰かに、思い切り、全てを話したい。 究極の孤独感に、何かに対する恐怖感に、居ても経ってもいられなくなってしまったのだ。
誰でもいい。
やっとのことで調べたのは、出会い系サイトのようだった。 書き込んでみると、すぐに返信が来て、話しをすることになった。 話してみると、会うことになり、渋谷に向かった。
そして、それが黄緑マンで、その後、アイツと出会ったのだ。
狂いたかった。 狂ってしまえたら、感情を失えるのではない? そうなれば、私はこの苦しみから逃れられるのでは? それだけで良かったんだ。 もう、自分を生きていないようなこの状況ならば、いっそのこと、全ての記憶を消してしまい、どうしても生きていかなければならないのならば、感情を奪い去って欲しい。 楽になりたい。
自分のした事の重大さは、よくわかっているつもりだけど、でも、苦しさに耐えられない自分もいた。
でも、私の心は、自分が思っているよりも頑丈に出来ているらしい。 どれだけの苦しみを感じても、心が壊れてしまいそうな哀しみの中にいても、楓を失ってから感じる、子宮の痛みを抱えても、それでも心は『哀しみ』という感情をしっかりと感じていた。 それ故、苦しい。
生きることも、死ぬこともままならない状況を、どうしたらいいかわからなかった。