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第2話: 急展開

街を、私はそいつから一歩下がって歩いていた。

「なんで、そんなに後ろにいるの?」

そいつは言った。 

「なんとなく・・・」

私は答えた。

「来いよ!」

ぐっと、私の手首を引っ張った。 そして、二人は手を繋いで、もうすぐ年が明けそうな街を歩いた。 私は・・・男の人と手を繋いで歩くのは、これが初めてだった。 28年間生きてきて。

取り止めもない話を二人、歩きながらした。


「あれ?どうして、目が腫れてるの? 殴られた?」 冗談まじりにそいつが言った。

「その、目の白いところに赤い点ができるのって、殴られて直りかけになるんだよな〜。 格闘技でもしてんの?」

そいつは、続けてそう言った。

「うん、3週間前に殴られた。 っていうか、殺されかけた。」

そいつは、酔っ払っているはずなのに、急に我に帰ったように驚いた顔で私を見た。

「何があったんだ?」

「いろいろよ。」

そういうと、たった数十分前に会ったばかりの私を、ぎゅうっと抱きしめてくれた。 力の限りに、ぎゅっとぎゅっと。 私は、無意識に、涙を流していて、その涙を止めることができなかった。 そして、私も背の高いそいつの腰に手を回していた。 何も知らないそいつと抱き合っているのに、私はなんだか、久しぶりに眠りにつけそうな予感がしていた。


少し歩いて、ホテル街に辿り着き、私たちはどちらからともなく、一軒のホテルに入った。


ホテルに入るなんて、そうそうない。 ホテル・・・と言っても、所謂そういうホテルだ。

物見遊山で、私はそちらこちら見てまわっていた。

「ほぉ〜こんな風になってるんだ。 え?これは何? ん??どうなってんの?」

「言えよ。」そいつが言う。

「ん?言え? 何を? 私は、この人生で、こんなとこそう入ったことないのよ。」

まじめに答えた。 そいつは・・・真面目な顔をしていたのに、突然笑い出した。

「お前・・・天然?」

「ちょっと・・・失礼だね。でも・・・よく言われるなぁ。」

二人で爆笑した。

そして、二人でシャワーを浴びて、そのまま、一つになった。 キスをしたときのように、あまりにも自然で、あまりにも安らげて、私は何年かぶりにぐっすりと眠ることができた。 一瞬だけだけど、幸せだった。


明け方目が覚めた。 そして、すぐ横に寝ている『そいつ』を私はまじまじと観ていた。 酔いも覚めた頭で、目で見るそいつは、なんだか格好良かった。

「ふーん、かっこよかったんだね。」

ふと、言葉に出すと、そいつは、眠そうに目を覚ましてしまい、私を見た。

「なんだよ・・・まだ夜中だろ?」

「もう、お日様が出てきたよ。」

「ふーん・・・」

それだけ言うと、私の肩を引き寄せ、また優しく私を抱いた。 そんな・・・一夜で二度なんて。 それだけでも驚く私にはお構いなしに、愛してくれる。

そして、何度も愛してくれた。

なんだか・・・このまま、何も考えずにいたかった。 そのことが、何よりも心地よかった。


朝10時。 チェックアウトの時間が来た。

「どうする?これから?」

そう聞くそいつに、私は何も言えないでいた。

「俺、彼女いるんだ。 それなりに付き合ってるけど、どうなるかはわからない。お前は?」

「・・・孤独な女よ。 誰もいない。 独りぼっち。 だから、あなたが気が向いたら、どうにかして。」

そう言って、携帯NO.とメールアドレスを教えた。

「無理しなくていいからさ。 私は、今日のことだけで、かなり救われた。 あと何日かは行けそうだよ。」

笑って、そこから立ち去った。


うん、少し生きていけそう。

なんとか、生きていけそう。 もうちょっと待ってみよう。 死ぬことはもうちょっと先でもいいか。


前を向いて、とは言えないけど、立ち止まろうという気持ちになっている自分がいた。 それだけで、前進してる気分になっている私がそこにいた。



2日後、『そいつ』からメールが入った。

「会おう」

驚いた。 まさか、連絡してくるなんて思ってもみなかったから。 あいつ・・・絶対私となんて会わないほうがいいに決まってる。 

そう咄嗟に思った私は、返信をしないまま放っておいた。

「なんで連絡しねーんだよ。 メールして来い! じゃなかったら、携帯NO.入れとくから、電話して来い!」

そう書いて、送ってきた。

心が、ちょっとだけ動いた。 ばかだねぇ。 もうすぐ死ぬやつにこんなメール入れて。

でも、返信を押している私が居た。

「彼女に悪いっしょ?」

それだけ送った。

「うん、悪い。 でも、もう少しお前のことを知りたい。 だから、悪いけど、もう一度会ってくれ。」

ふー・・・

どうしよう。 彼女からそいつをとるつもりなんてさらさらない。 あの日、幸せな気持ちを一瞬もらったのは絶対的な事実だ。 だけど、幸せな二人を引き裂くようなことは、できない。 私は、知ってしまったのだから。

「会ってどうするの? 彼女に気の毒だと思う」

「会ってくれ」

そのやり取りが、しばらく続いた。

「わかった。 会って話そう。」私は、ようやく、了解した。


待ち合わせは、とある駅のロータリー。 時間通りにそいつは現れた。

「よぉ。ちょっと久しぶり!」

私は、手だけ上げた。

「乗れよ」

車に促した。 私は・・・ちょっと彼女の席に座ることに躊躇したけど、まさか後ろの座席に座るのも不自然なので、助手席に腰掛けた。

「お前、可愛いな」

な、何?急に。

「えっ?何?」 そいつを見た。

「なんかなぁー、すげぇ可愛いよな。」 ・・・笑ってる。 ばかにしてるのか? 

「なんか・・・馬鹿にしてるの?」

「はっはっはー」 ただ笑ってる。 何?こいつ?

「俺、お前みたいな奴に会ったの初めてだよ。」

意味わかんない。 どういう意味なんだ? ・・・ま、いっか。


車を、郊外も郊外、ずっと走り続けて、ど田舎?ってとこまで走ってきていた。 なんか、気持ちいい。 道の駅とかいう、建物があって、大きい駐車場があって、そこに車を停めた。


「でさ、なんだったんだよ。」

何?またこの急な質問。しかも、こんなど田舎に連れてきといて。

「何の話?」

「この間のだよ。お前、目に赤い点があったじゃん」

「あー・・・覚えてたんだ? 何でもないよ。」

と、だけ答えた。

「何でもないわけねーだろ。何があったんだよ。」

「言いたくない」

「そっか」少し、沈黙が続いた。


「っつーことで、俺たち付き合うか」

はぁ? なんで、『っつーことで』なわけ? 意味わかんない。


「どういうこと? 彼女がいるんでしょう?」

「うん、別れた。 付き合ってる意味をよく考えたけど、なかった。 きっと、お互いだよ。 だから、付き合おうぜ。」

意味、ますますわかんない・・・

「それで、すぐ私が『うん』って言うと思ってんの?」

「思ってないよ。ゆっくり行こう」

言葉を失った。


読めない男だ。

この先、どうなるんだろう・・・

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