数年後
ユリハは温情で、宮での任務を解かれてディークの領地の、南の守りへと移された。
あちらの領地のことは、維心も話に聞く程度しか知らない。たまにこちらへ訪ねて来る神が居るので、あちらにも神の国があることは分かっているものの、知れば関わらねばならず、そこまで責任を持たされるのが面倒で、前世から干渉せずに来たからだ。
しかし、いろいろな事で関わる必要が生じて来て、今ではあちらの事も相談を受ける事になり、視察に出る事が多くなって来た。地は知っているようだが、あえて何も言わなかった。間違いなく、あちらも地が管理していて、そして維心は、やはりどの神よりも気が強く、間違いなく地上の王だった。碧黎は知っていたのだ…維心が全ての神の中で、特別に生まれた存在であることを。なので維心の守る地の側に留まり、見続けていたのだ。維心は、望まぬその位置に、ため息を付くばかりだった。
どこかに、我を凌ぐ力の持ち主は居ないのか。
維心は責任の重さを、前世以上に感じなければならず、いつもそう思っていた。
「月以外に、主を押さえられる神は居らぬ。」碧黎は、維心の問いに答えた。「言ったであろう…主はわざわざ我が作った類稀なる命。その気質も、全ては我の望んだもの。もちろん、個の感情までどうにも出来ぬゆえ、それは主が後から形造ったものであるが、主に張り合える者は居らぬ。同じように我が作った、月か維明ぐらいのものよな。」
維心は、つぶやくように言った。
「維明…」維心は、現世では己の息子である維明を思った。「では、我の皇子は、我と同じ能力を持っておるのだな?」
碧黎は頷いた。
「そう。あれの分身として主を作ったゆえの。言ったであろうが…あれがあまりに早くに知能を持ち過ぎて生まれてこなんだから、痺れを切らして主を作ったのだ。その維明が、転生を望んで主達の子として、記憶を持たずに生まれ出た。あれはの、主のこれからを想うて、自分が力になれるならと転生することを選んだのだ。維月ならば、死なずに主と同じ命を生み出せるゆえな。ちなみに、前世の主達の子である将維は我が作ったのではない。なので、主にそっくりであるにも関わらず、あやつは主より力が少し劣るのであるの。」
維月が、横から言った。
「ですがお父様、将維は維心様の血を引いておるのに…そのようなこと、あるのでしょうか。」
碧黎は維月を見た。
「維月、今も言うたように、将維は我が作ったのではないからよ。維心の遺伝子は、確かに完璧であるが、しかし生物とはわからぬもの。我が手を貸したのではないのだから、全てに完璧などありえぬのだ。維心は我が全面的に手を貸して作り出した命であるから、欠落しておるものなど何もないわ。そういう命なのよ。」
維月は、維心を見た。維心は、ため息を付いた。
「…つまりは、我は前世以上にまた面倒になる訳よな。聞いた所、あちらの地はこちらより広く大きい。神の数は少ないが、それでもまだ平定されておらぬ世であることは確か。我は、今生ではあちらをも平定する責を負うのか。」
碧黎は頷いた。
「本当なら、将維にでもやらせようかと考えておったのだがの。将維はやはり、普通の神なのだ。主の気性とは違う。主は、生まれながらの王であるから…地上全体のの。転生したなら、あちらも少しずつ任せて行こうかと思うて。此度のレイティアがこちらへ参ったのも、偶然ではない。あれは、大氣が促したものだ。我らが作った命、全てが穏やかに暮らせる世を作ろうと申してな。維心を、あちらに縁付けるには、こうするよりなかったのだ。まさかこんな風になるとは思ってもみなかったがな。あやつと関わることで、十六夜と維月の先々に関わるとは思うてもなかった。」
維月は、維心の手を握った。維心は、維月を見て微笑んだ。
「…仕方がない。出来るところまでやってみようほどに。前世でのやり方は通用せぬ。我は恐怖で皆を抑えていたゆえ。しかし、今生では維月が居る。我を助けてくれる…我の心をの。」
碧黎は頷いて言った。
「そうよ。十六夜も居る。前世は、主は独りきりで平定したのだからの。此度は十六夜と維明が付いておる。疲れて帰った主を迎えるのは維月。前世より、遥かに恵まれておるわ。安心するが良い。」
維心は、頷いた。たった一人孤独に戦った前世より、此度は確かに恵まれている。何より維月が居る…我は、出来る。
「やってみようぞ。」維心は、顔を上げた。「それが、我の存在意味であるのなら。己の意思で転生したのだから、出来る限りのことはする。」
維月が微笑んで維心の身を寄せる。維心は、微笑んで維月の肩を抱いた。
「父上。」
そこへ、幼い声が割り込んだ。維心と維月が振り返ると、そこには維明が立っていた。あれから6年、他の神より格段に頭が良く、早くから話し始めた維明は、今では教師も舌を巻くほどの博識で、小さな体ながらも、宮の者達に一目置かれていた。
「維明。どうしたのだ。」
維心が問うと、維明は言った。
「おじい様がいらしておると聞きました。我は、お話をしたいと思って参りました。」
声は幼いが、言葉はしっかりしていた。維心が碧黎を見ると、碧黎は笑って手を差し出した。
「おお、我の優秀な孫であるな。これへ。」維明は、微笑んで碧黎の所へ行った。碧黎は抱き上げた。「さて、何を聞きたいのだ。主は頭が良いゆえ…話しておって楽よの。まるで維心の子供の頃を見るようよ。」
維心は眉を上げた。
「我の子供の頃、主は接してこなんだ癖に。」
碧黎は笑った。
「接してはおらぬが、見ておったからの。主は生まれて半年で言葉を発して、それからもそれは利口で回りの者が困っておったわ。当然よの。誰より優秀であるのだから。」と維明を見た。「主は同じよの。ほんに利口よ。」
維明は、恥ずかしげに下を向いた。
「おじい様…今日はこれと言って聞きたいことがあって参ったのではありませぬ。ただ、お話をしたいと思ったので。」
抱き上げられているのも、恥ずかしいらしい。碧黎は立ち上がった。
「そうか。ならば庭でも歩きながら話そうぞ。」と、維明を降ろした。「ではの、維心、維月。我は孫の世話に忙しいゆえ。」
維明は、維心と維月に頭を下げると、碧黎について出て行った。碧黎は、今では維織の世話と維明の世話が楽しくて仕方がないらしい。孫は可愛いというが、それはあのような生命体であっても変わらないようだ。
「…維明は、幸せそうで、良かったこと。」
維月が、それを見送りながら言った。維心が微笑んでそれに並んだ。
「叔父上は、我のために転生して来てくれた。今生では、我ら両親と、祖父母にも可愛がられ、幸福であろうと思う。前世があのような生であったゆえ…今生が幸福であればよいと我も願う。」
維月は頷いた。
「はい。私も、維心様そっくりの維明が可愛くて仕方がありませぬの。将維の時もそうだったけれど。ですが維明には、今生では私以外の誰かと幸せになって欲しいと願っておりまする。」
維心は苦笑した。
「ほんにその通りよ。我の一番危惧するところよな。叔父上の性格から言って、将維のように絶対に手にしたいと乞うことはないであろうが、我慢させるのは忍びないゆえ。誰か、あやつの想う者が出来ればの…しかし、元は我であるしなあ…。」
維月は笑った。
「複雑でありまするわね。ですが、私が愛しておるのは維心様だけでありまする…何人同じかたが現れても、それは変わりませぬわ。この維心様という命を愛しておるのですから。」
維心は微笑んで頷いた。
「わかっておるよ。維月…共に世を平定して参ろうぞ。」
「はい、維心様。」
維月は、空を見上げた。十六夜と、三人で…。
維心も同じように空を見上げた。十六夜と、三人で生きて行く。再び黄泉へ逝くことがあろうとも、変わらない。いつまでも、未来永劫共に。
維心は、新たな地を遠くに見て、そう決心していた。
次からは、新たな地を臨みながら維心達の戦いなどが始まります。続・迷ったら月に聞け4は、11月1日から連載開始予定です。それまでは、少しお休みして「ディンダシェリア」の方を落ち着かせてしまう予定です。その代わりと言ってはなんですが、迷ったら月に聞け~別ルート特別編 http://ncode.syosetu.com/n5240bu/を、10/9から急遽始めることにしていたのですが、ディンダシェリアに手間取り、先に延びる事になりました。なるべく急いでアップ出来るよう努めますので、もうしばらくお待ちくださいませ。9/23




