表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/37

皇子

維心は、やっと自分の寝室、奥の間へと帰って来た。維月が、維心を待って起きていて、慌てて駆け寄って来た。

「維心様!レイティアは無事でありましたか?」

維心は頷いた。

「ほんに疲れたわ。」と、維月を抱いて寝台へと歩いた。「斬られはせなんだが、襲撃のショックで産気づいての。我は襲ったユリハというヤツを牢へ繋ぎ、治癒の龍達に命じて産所を整えさせ、今出産の真っ最中よ。生まれるのは明け方ぐらいかと言うておった。」

維心はそう言いながら維月の襦袢に手を掛けて、首筋に唇を寄せた。維月は、突然に立ち上がった。

「まあ!なぜにすぐに私にお知らせくださいませぬの!ならばついていなければ!」

維心は維月を引っ張って座らせて、首を振った。

「なぜに主が付く。他の宮の王ではないか。それに、主に出来ることなどない。あちらには、夫が付いておるわ。」

維月は、維心を見た。

「でも…何かしてあげられるのでは…」

維心は尚も首を振った。

「何もない。だいたい、邪魔になるだけぞ。せっかく夫と二人で乗り越えようとしておるのに。この宮の治癒の者達は優秀であるし、主には何もすることなどない。生まれた時、祝福してやればよいのよ。夜が明けるころであるから。」と維月を引っ張って寝台へ引き込んだ。「まだ時間はある。邪魔をしよってからにあやつらは…良いところであったに。」

維月は困ったように維心を見た。きっと絶対行かせてくださらない。仕方ないから、生まれるまで待とう…。

維心はやっと思いを遂げ、満足して眠りについた。


日が昇って来る頃、侍女が小さな声で声を掛けた。

「王。」

維心は、目を開けた。

「何ぞ。」

「レイティア様のお子がお生まれになられました。皇子であられます。」

「わかった。」

維心は、隣りで眠る維月を見た。これを知らせれば、きっととても喜ぶのだろうな。維心は維月に口づけて、維月を起こした。

「維心様…?」

「維月、起きよ。」維心は優しく言った。「レイティアに、子が生まれたぞ。」

維月はパチッと目を開けた。

「まあ!どちらでありまするか?」

「皇子ぞ。」維心は答えた。「見に参るか?」

維月は喜んで起き上がった。

「はい。まあ、楽しみだこと。きっと美しいお子ですわよ。」

侍女達がわらわらと入って来て、着替えを持って来た。二人はさっさと着替えを済ませると、連れ立って客間の方へと向かった。

一方レイティアは、初めての子を慣れない様子で腕に抱いていた。ディークが、それを見ている。

「なんと小さいのだ。力加減が難しいことぞ。」

ディークは笑った。

「大丈夫ぞ。我と主の子であるのに、そうそうやわではないであろうて。」

レイティアは、微笑んでディークを見上げた。

「名は?どれにするか決めたか?」

ディークは頷いた。

「主と決めた中から、我はやはり、リークにすることにした。」と、レイティアからリークを抱き取った。「我の世継ぎぞ。次は、主の世継ぎを作らねばならぬの。忙しいことぞ。」

レイティアは、ふふと笑った。

「そうよの。我も、早く世継ぎを生んで育て、その子に譲位して主とゆっくり共に暮らしたい。離れて別々の国を治めておるのは、やはり寂しいものよ。」

そこへ、維心と維月が入って来た。維月が満面の笑みをたたえてレイティアを見る。

「レイティア!おめでとう…こちらが皇子?」

レイティアは頷いた。

「リークぞ。」

維月は、ディークからその赤子を抱き取った。金髪にブルーグレイに瞳…間違いなく、二人の血が混ざりあった結果の色だ。しかも、赤子であるのに相当に美しい顔立ちだった。

「まあ…これは大きくなったら、回りの国の皇女達が大変ね。こんなに美しい皇子だなんて。」

維心も横から顔を覗き込んで頷いた。

「ほう。女は姿が美しいのを好むと聞いておるから、おそらく維月の言う通りであろうの。」

維月は、レイティアにリークを返した。

「では、この子はディーク様の城の跡継ぎになるのね。」

レイティアは頷いた。

「そうだ。我の方では、男が王座に就くことはないゆえな。我の兄は、遠い国へ養子に出たと聞いている。我は、その兄に会ったことはないがの。」

ディークはリークを見た。

「効率的ではないか?どちらでも跡継ぎになるのであるから。しかし次はどうあっても女でないとの。これほどに苦労して生むのに、また男であったらレイティアは報われぬ。」

レイティアはそれを聞いて笑った。

「まるで主が生んでおるようだと思うたわ。我より苦しげな顔をして横におるゆえ、早よう生まねばと…。」

維月が何度も頷いた。

「そうなの!私もそうだったわ。維心様がそのように隣りに居られるから、おかわいそうで。」

レイティアは驚いたように言った。

「維心殿も?そうか、男はそうなのかの。」

維心もディークもばつが悪そうにしていたが、維月が首を振って否定した。

「いいえ。レイティア、それが違うのよ。私は前世で人だった時も子を生んだけど、一人で回りをこちらで言う治癒の者に囲まれて、子を生んだわ。夫なんて後から来て子を見るだけ。そして、帰って行くのよ。私はそのあと子を連れて自分で帰るだけだったわ。まるで我がことのように傍に居てくださるなんて、維心様が初めてだったの。だから、これって愛情の深さと、そのかたの気立ての良さによるのではないかしら。私は、とても大切にしてくださっていると思って、愛情が深くなって今に至っているのよ。」

「なんと。」レイティアはしげしげとディークを見た。「ディーク…主、そのように我を想うてくれるのか。」

ディークは気恥ずかしそうな顔をした。

「いや、その…なんと申せば良いものか。」

明らかに困っている。維月はふふふと笑った。

「きっと、とてもレイティアが大事なのね。良かったこと…レイティア、今はとても幸せなのね。」

レイティアは、嬉しそうに微笑んだ。

「ああ。我は幸福ぞ。ディークを愛しておるゆえの。こうしてディークの子を生むことが出来て、どれほどに嬉しく思うておるか。主の気持ち、少しは分かるようになった。」

維月は頷いた。

「ええ。」

女同士は分かり合って楽しそうだが、男同士は蚊帳の外のようで、とても居心地悪かった。でも、レイティアが自分を愛して幸福だと言っているのを聞いて、ディークはとても嬉しかった。しかし維心は、維月の意識から自分が離れているのに耐えられないタチなので、維月をグイと引っ張って自分に引き寄せた。

「さあ、子も見たことであるし、戻ろうぞ。祝いの品も選ばねばならぬであろう?」

維月はパッと明るい顔をした。

「まあ、そうですわ!楽しみにしていてね、レイティア。維心様はとても力のある王だから、珍しいものをたくさんお持ちなのよ。」

レイティアが、維心を見て微笑んだ。

「そうか…龍王であるものな。楽しみにしておる。」

それはそれでプレッシャーだったが、維心は何でもないように軽く頷いた。ディークが言った。

「維心殿、レイティアが落ち着くまで、しばらくこちらに滞在させていただくことになったが、臣下達が知らせを受けてどうしてもこちらへ参ると聞かぬでな。今日中には来るかと思うが。」

維心はまた、頷いた。

「良い。世継ぎであるし、臣下の気持ちも分かる。それに主、ユリハのことも処分せねばなるまい。レイティアと子のことは心配要らぬ。我の守りの中で何かあることはない。主は責務を果たせ。」

ディークは堅い表情で頷いた。

「感謝する。よろしく頼む。」

維心は踵を返した。

「ではの。」

そして、維月を連れてそこを出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ