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義務

レイティアも、子が出来ぬことはなぜなのかと思っていた。もう、一年以上三日に明けず炎嘉の元へと通っているのに、なぜか自分には全く懐妊の兆がない。

その間に、維月は龍王の子を生み、その子も育って来るようになってしまった。

さすがに、臣下達も困っていた。王がやっと気に入りの男を見つけ、せっせと通っていらっしゃるのですぐに子も、と思っていたにも関わらず、まだ世継ぎが出来る様子はない。

ついに、重臣筆頭のメイアが、レイティアの前に進み出て言った。

「王。相性と申すものもございます。もしかして、炎嘉殿と王とは、こと子の出来る出来ないの相性がお悪いのではないでしょうか。もしくは、炎嘉殿に子種が無いということも有り得まする。どうか、他の男もお増やしになられることをお考えくださいませ。」

レイティアは、口をつぐんだ。我は子を生む道具か。

しかし、確かに跡継ぎを成すのは王の義務だ。母上も、そうやって自分を生んだ。最近では、炎嘉も気が進まぬことが多くて、訪ねても語り明かすことが多かった。どうやら、炎嘉は維月以外を腕に抱くことに嫌気が差しているようだった。レイティアも、そんな炎嘉と無理に褥へ入る気にもなれず、そのままになっていたのだ。

レイティアはため息を付いた。義務…これも義務か。

「…主に、何か心当たりはあるか?」

メイアが、それこそ嬉しそうにレイティアを見上げた。王が、前向きになってくださっている。

「はい。実は、ここより東の王国の王が、男であるのはご存知であられまするか?」

レイティアは頷いた。

「そう言えばそうよの。会うたことはないが。」

メイアは頷いた。

「それが、大変に見目の良い王で。王であるので、気もなかなかに強く、あれならばお相手として不足はないかと思われまする。」

レイティアは、何でも良いと手を振った。

「そうか。ならばそれを夫にすれば良いのか。」

メイアは頷いた。

「はい。王さえご承諾くださいますれば、あちらがここへ通ってくださるということであるので、良いのではないかと。お子は、女ならばこちらで、男ならばあちらで世継ぎとするということで、大変に面倒のない良いお話ではないかと思いまして。」

レイティアは、どうでも良いか、と頷いた。

「我は良い。だが、我に他に夫が居ってもあちらは良いのか。」

メイアは、飛び上がらんばかりに喜んで頷いた。

「はい。それは認識の違いであるからと。あちらにも、他に妃が居られまするし。しかし、子が出来ずこのお話が参った次第でありまして。」

レイティアは苦笑した。どこもままならぬの。

「わかった。では、そのように手配せよ。」

「はは!」

メイアは嬉々として出て行く。レイティアはどうでも良いわと、自室へ戻った。


「王。あちらは、この話を受けると言って参りました。」

こちらでは、レイティアの国の東、山向こうの国の重臣筆頭が、王、ディークに向かって言った。ディークは黒髪にブルーグレイの瞳の、それは美しい顔立ちの王だった。しかし今はその顔に、不機嫌な色をたたえていた。

「…主らが勝手に決めてきおったことであろうが、ラズ。我は別に望んでおらぬ。」

ラズは、慌てて王を見上げた。

「王、しかし妃のユーア様にお子が出来ぬ今、どうしても他に妃をお迎えにならねばならなかったのでありまする。」

ディークは横を向いた。

「あれも主らが勝手に連れて参ったのであろうが。」

そう、なので通うこともなかった。なので臣下達は困り果てて、お気に召さぬのならと大層美しいと評判の、隣国の王を探して来たのだ。あちらは、常に傍に居ることは嫌がるので、そこはこちらにとっても都合がよかった。ディークも、女に傍をうろうろとされるのは好まなかったからだ。

「王、あちらは、女王であられるので、城を出ることは出来ませぬ。なので、お気が向かれた時だけ、通われたら良いのです。女の国であるので、他に夫も居るよう。なので、お世継ぎさえ出来ればそれで良いのですから。」

ディークは、ため息を付いた。女とは言っても、隣国の王。あちらが受けると言って来たからには、こちらも無下には出来ぬな。

「わかった。で、どうすれば良いのだ。」

ラズは、パアッと明るい表情をした。お受け下さる!

「はい!では、これからのご予定をご説明いたしまする。」

ディークは、再びため息を付いた。もう何でも良い。こんな騒ぎだけ、何とかしてくれたらの。


維月は、里帰りに迎えに来た十六夜に抱かれて、空へと舞い上がっていた。

「十六夜、お願いがあるの…。」

十六夜はフッと笑った。

「炎嘉か?」

維月は驚いた顔をした。

「え、どうして分かるの!」

十六夜は声を立てて笑った。

「あのなあ維月、オレはお前と生まれた時から一緒なんだぞ。分からねぇことなんてねぇよ。炎嘉がずっと見送ってるのを、お前が何度も振り返って心配そうにしてたのは、知ってるからな。だが、いくら落ち着いて来たとは言っても、維心に炎嘉の様子を聞くことは出来なかったろう。だから、オレに頼もうとするはずだって思ってたんだ。」

維月はホッと息を付いた。

「もう、ほんと十六夜には、隠し事なんて出来ないわね…そうなの。どうしていらっしゃるかと、心配で。今生では初めてだったでしょう?最初は嬉しそうだったけど、時が経つほどお辛そうで…おかわいそうに思ったわ。残して行くのが気がかりで。」

十六夜は頷いた。

「手にしたら余計につらいもんなんだろうよ。あいつは分かってるんだと思ってたが、やっぱりそうじゃなかったか。とにかく、寄ってみよう。連れてくよ。」

維月は頷いて、十六夜と共に龍の領地南の砦へ向かって飛んで行った。


炎嘉は、いつもの執務も終わり、部屋で物思いに沈んでいた。すると、大きな気が舞い降りて来るのを感じた。これは、女の気。だが、レイティアではない。愛おしい気…維月の気だ!

炎嘉は、大きなバルコニーに飛び出した。そこには、十六夜に抱かれてちょうど降ろされるところの、維月が立っていた。

「炎嘉様。」

炎嘉は、急いで駆け寄った。

「維月…!よう参ったの。十六夜…?」

「維月が来たいと言うからよ。ちょっと寄っただけだ。維心が憤死するから、夕方には帰る。それまでなら、一緒に居てもいいぜ。だが、手を出すなよ。ここは維心の領地だ。今頃、維月が南に着いたのを気取ってるから、ぴりぴりしてるはずだからな。とにかく遠くまで気配を探って着いて来やがるからよ~。」

炎嘉は、頷いた。例え体を合わせなくても、会えるだけでいい。これほどに嬉しいとは。

「維月…会いたかった。主が愛でておった木に、花が先日咲いたのであるぞ。見せたいと思うておったのだ。」

維月は微笑んだ。

「まあ…楽しみだわ。」

炎嘉は維月の肩を抱いて、庭へ出ようとバルコニーを出て行った。十六夜は、そっとため息を付きながら、それを見守っていた。

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