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炎嘉の様子は、明らかに違った。

維月が来た瞬間から、炎嘉は維月以外をその目に映すことは無くなった。他のことを考えることも無く、ただ一心に維月だけを見て追っている。いつもなら隠していようとすぐに気取るレイティアや他の神の気も、全く気付かぬようだった。維月は、特に変わった対応をしている訳ではない。共に話して、共に散策し、そして同じように体を重ねていた。それでも、それを見てしまった。炎嘉はレイティアに対しては、あれほどに余裕なく求めたりはしない。そしてあのように腕に抱いて眠ったりはしない…。

決定的に違うのは、いくら自分が聞きたいと思っても、決して口にしなかった言葉を何度も口にしたことだ…愛している、と。

炎嘉は、何度も維月に愛していると言い、そして維月にも思うていなくても良いから同じように言えと乞うていた。

自分に対しては、一度もあんなことはなかった。

レイティアは、初めてこれが想いの有無の違いなのだと知った。亮維が言っていた…想いが無くて朝を迎えたら、辛くなると。自分はそんな扱いをしたくないと…。

これが、そうか。

レイティアは、胸を押さえた。なんと辛いものか…。炎嘉は、数か月を共に過ごした自分のことは、やはり最初の言葉通り愛してはいなかったのだ。自分が、勝手に惹かれ、勝手に炎嘉の想いも自分にあると思っていただけで。最初から、何も変わってはいない。我は、愛されてはいない…。

帰らなくてはと思いながら、結局は維月が早々に来た迎えの軍神達に連れられて、輿で帰って行くまで見送った。炎嘉はそれは寂しそうに、輿が見えなくなってもまだそこに立ち尽くして維月の去った空を見ていた…。


その日、レイティアは、何もなかったように炎嘉に会いに来ていた。炎嘉はいつもより気乗りがしないようで、気だるげにレイティアを見た。

「すまぬの。今夜はあまり気分が良くないのだ。日を改めぬか。」

レイティアは、ハッとした。炎嘉が同じように、維月を想って報われぬ想いで苦しんでいるのを悟ったのだ。何も、辛いのは自分だけではなかった。

「…主も同じか、炎嘉。」レイティアは、炎嘉の手を握った。「同じように、苦しいのか。いや、恐らくは亮維も、将維も同じなのだろう…そうか、我だけではないのだな。」

炎嘉は、驚いたようにレイティアを見た。あのように、男女のことなど何も知らなかったレイティアが、分かるというのか。

「…そうよ。いくら想っても、報われぬ。維月は慈愛の月。深く包み込むように、求める我らを拒む事はない。こちらの想いを汲んでくれる…だが、それでもそれは慈悲ゆえのこと。あれが愛しておるのは、維心と十六夜だけなのだ。分かっていながら、止める事が出来ぬ。愛する気持ちを、抑える事は出来ぬ…。」

レイティアは、涙ぐんで頷いた。

「今の我には分かる。主らの申す事が我が事のようにの。我とて、同じなのだから。」

炎嘉は、レイティアを見た。レイティアが自分を愛しているのは感じていた。だが、愛してやることは出来ない。前世のように誰も愛していないなら、愛しているふりは出来ただろう。しかし、今の自分の心には維月が居る。愛してやまない維月が…。

「すまぬ。」炎嘉は言った。「主にそのような想いをさせてしもうて。恐らく維月も、これと同じ気持ちなのだろうて。愛してやりたいのに、己の心が思うようにならぬ…。しかしレイティア、我は主を厭うておる訳ではないのだ。まだ維月の記憶を留めたいだけで…主を抱く気になれぬ。それだけなのだ。」

レイティアは頷いた。恋とは、かくもうまく行かぬもの。想い合うとは、なんと難しい事か…。

その日、二人はただ語り明かした。


居間でいつものように維月と並んで座っていた維心は、ふと言った。

「…そういえば、もう長くなるというのに、レイティアに子が出来る様子はないの。」

維月は、そう言われてみて確かに、と思った。炎嘉は前世、妃の数にしては子が少なかったが、それは順番に巡る時期が悪くて子が出来る時期に当たらない形になっていたのではないかと推測された。だがしかし、世間で言われているように女好きな訳ではなかった炎嘉なので、おそらく通っても、ただ共に過ごすだけで愛し合うのに至らなかったことも多かったのではないかと思われた。

しかし、維月は今生碧黎と陽蘭に育てられ、父からそれはたくさんのことを教わっていた。父は、維月をそれは可愛がり、共に散策したり、遠くへ抱いて連れて行ったりと、その度にいろいろな話を聞かせてくれたものだ。その中に、子の話もあった。維月は、維心を見た。

「…維心様、確かに傍目に見るとそうであるのですが、事、神の子のことに関して、私は父に聞いておることがございます。」

維心は、驚いたように維月を見た。

「今生は、碧黎に育てられたのであったな。ならば主は、我の知らぬことも教えられておるやもの。どういうことか?」

維月は頷いた。

「子と申すものは、授かりものと申すように、人の子であれば神にも何とか出来ようものですが、神の子となるとそうは行かないのでありまする。」維月は、思い出しながら言った。「私と十六夜の子でも分かるように、己の意思など関係ございませぬ。あれほどに出来なかったのに、何か世に必要となればすんなりと出来る。維心様とのお子も、そうでありましたでしょう。私の意思とは関係ない所で出来てしまいました。」

維心は頷いた。叔父上が転生して来ようとして、ここを選んだのであるな。

「では、炎嘉とレイティアには必要でないと申すか。」

維月は首を振った。

「そうではありませぬ。縁と申すものでありまする。子を成す強い縁の元に出逢った二人であれば、望まぬとも簡単に出来てしまうもの。ですが、あの二人は、我らが作り出したもの。炎嘉様は望んではおられなかった。なので、どんな縁が繋がっておるのかも、私には分かりませぬが、もしかして、子を成す縁はまだ、ないのではないでしょうか。」

維心は、考え込むような顔をした。

「炎嘉は、前世でも子は少なかった。我にも分からぬが、そうなのかも知れぬの。主とは、どうしても切れぬ縁があっての…今も見えておるが、炎嘉が主を想うあまりに作り出したものであろうが、繋がっておる。ほれ、神威が言うておったではないか。我らが大氣に縁を切られた時、記憶が無うなって、なのに我と炎嘉には新しい縁が繋がっておったと。元に戻った時、それは元からあった縁と繋がってより濃くなった。困ったものよ…炎嘉が想うのが、主でさえなければ、我はどうあっても仲を取り持つように尽力致すのに。」

維月は、袖で口を押えて下を向いた。炎嘉様…見送りの時に、お寂しそうにいつまでも見上げていらしたのが、忘れられない。どうしたらいいの…でも、私はこれ以上誰も受け入れることは出来ない。維心様をお苦しめすることは、絶対に嫌だから…。

「ほんにままならぬことでございます。」維月は、小さくため息を付いて言った。「私など…ただ月として生まれただけでありまするのに…。」

維心は何度も頭を振った。

「何を申す。我は前世より、主がまだ月として覚醒しておらぬ時から愛して来たのだぞ。月であるから愛しておるのではない。主だから愛しているのだ…維月よ。だから、主は我を特別に想うてくれておるのではないのか?」

維月は、維心を見上げた。いつの時も一生懸命愛してくれた維心様。私だって、ずっと愛して来た。

「維心様…誰よりも愛しておりまするわ。私は、本当に十六夜と維心様しか望まぬのです。なのに…。」

維心は、維月を抱き締めた。

「わかっておるよ。だからこそ、我は少しぐらい離れても大丈夫なのだ。それは心が騒ぐが、昔のように怒り狂うほどではない。ずっと共であるから…我の維月と。」

維月は、維心の左手の指輪に触れた。

「私の維心様…。」

「そうよ。」維心は嬉しそうに維月に頬を寄せた。「我は主のものよ。」

維月は維心に唇を寄せ、抱きしめた。維心はそれを幸せそうに受けて、長い間そのまま抱き合っていた。

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