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大氣の見たもの2

維月は、ひたすらに十六夜と共にいた。大きく育って来ていた維織も、昼間は十六夜に話し掛けた。

「お父様…我はこのように大きくなりましたのに。お父様に見てもらいたいの。」

維織は人で言うと五歳ぐらいの大きさだった。それでも、十六夜は目を開けなかった。

維月は、十六夜に口付け、自分の愛情を十六夜に感じて欲しいと必死だった。愛しているのに…十六夜も幸せにしているのだと信じて疑わなかったのに。十六夜は、一人どれ程につらかったのか。維月は泣いた。泣きながら、毎日十六夜から離れなかった。

その日、いつものように、維月は十六夜が眠る寝台に乗り、休む準備をしていた。そして十六夜に身を寄せると、その唇に口付けた。その日はなぜか離す気にならなくて、深く長く口付けていると、微かに、十六夜がそれに応えた。維月は驚いて十六夜を見た。

「…十六夜?」

返事はない。気のせいだったのかと、再び口付けると、また十六夜が、今度はしっかりと維月に応えた。維月は十六夜を見た。十六夜は、小さな声で囁くように言った。

「…維月…そこに居るのか…?」

維月は涙が溢れて来るのを感じた。そしてボロボロと涙を流しながら、頷いた。

「居るわ。十六夜…愛してるわ。愛してるわ…ごめんなさい…。」

十六夜は、うっすらと目を開けて維月を見た。

「維月…オレも愛してる。お前だけを…。」

「十六夜…!」

維月は飛び付いて噛みつくように十六夜に口付けた。十六夜はそれを抱き止めて、維月をしっかりと抱き締めた。ああ、維月だ…。夢にまで見た、維月が手の中に居る…。

それから、維月は維心と相談し、しばらく月の宮に居ることにした。維心が、度々子を連れて月の宮へと通う形になった。しかし来た時も、昼間は共に過ごすが、夜は必ず十六夜の所へ戻るようにした。嘉韻とも、そんな風に昼間過ごす事で共に居るようにした。そうするうちに、日に日に十六夜は口数も増えて行き、明るくなった。親子三人で、それは幸せに過ごしていた。

しかし、数ヵ月後、それは突然にやって来た。考えないようにしていたこと…レイティアの事だった。

十六夜が維月を手に幸福そうにしているのを遠くに見て、それは苦しんだのだろう。愛されない虚しさ…それはくしくも亮維がレイティアを受け入れない理由として語った事であった。

それがこれほどのこととは、レイティアは知らなかったのだ。

レイティアは優秀な軍神であり、王だった。手にした刀を抜き、突然に宮の中から奥宮の者達を手当たり次第に斬り捨てて行った。

蒼が駆け付けてすぐにそれを押さえ、嘉韻が斬り捨てた時には蒼の妃は二人…桂と、悠が、斬られた後だった。

華鈴の部屋は昔炎嘉が使っていた対なので、離れていて無事だったのだ。維月の部屋へと向かう道筋の部屋ばかりだったので、間違いなく最後には維月を狙っていたのだろう。不死であることも、レイティアにはもう、分からなかったのかもしれない。

そして、宮は重苦しく、暗い雰囲気になった。

十六夜は再び月に戻り、維月は龍の宮へと戻り、二人は月から話すものの、地上で会うことはなくなった。


「これが、我の見た全て。」大氣が言った。「このままでは、このような道を歩む事になる。先程申したであろう?女の恋情とは恐ろしいものよ。」

十六夜は、起こるだろう未来に暗く沈んだ。蒼まで巻き込む事になる。愛せないなら、最初から同情などで妃に迎えるべきではないのだ。維心は正しい…斬り捨ててでも望まぬ女は側に置かない。そうすることで要らぬ恨みを育てぬのだから。では、亮維はどうか…?果たして、亮維が娶ることで、うまく行くのだろうか。

十六夜は、碧黎を見た。

「親父、どう思う?もしかして亮維が娶ることも、これと同じようなことを生むんじゃないのか。亮維はレイティアを愛せないと言った。だから、レイティアに想う気持ちがあるのなら、相手は出来ないと言って断ったと聞いている。それは正しいんじゃないのか?余計に苦しくなって、結局は攻め入って来るようなことになるんじゃ…。」

碧黎と大氣は顔を見合わせた。碧黎が言った。

「…その通りよ。こうしてなると決まっておるような事を無理に変えようとするとき、必ずそちらへ向かおうと修正しようとする力が働くのだ。我らがそのようにして思うように世を作って行ったゆえ、分かることであるが。主らとて、我が無理に変えようとすることに抗ったであろうが。ゆえに今がある。」

十六夜は頷いた。そして立ち上がって、空を見上げた。

「もっと、違う方向から深く考えなきゃならねぇ。オレは、絶対に維月から離れたくない。大氣が見た通り、あんなことになったら、オレは自分の意識を消滅させようとするだろう。オレにとって、絶対に避けたいことだから…取り戻せないなら、消えてなくなってしまいたいと願う。」

碧黎は、黙って頷いた。十六夜は窓の方へ歩いた。

「維織を頼む。龍の宮へ行って来る。」

十六夜は、今見た未来を現実にしない為に、意を決して飛び上がった。


龍の宮では、維心が亮維を居間へ呼んだところだった。維心は、断固とした口調で言った。

「主にすれば不本意であろうが、レイティアを娶るのだ。我の命ぞ。」

維月が、黙って袖で口元を押さえて亮維を見ている。亮維は、表情を変えずに言った。

「王の命には従いまする。」

一切何も言わない。おそらく、分かっていてこんなことを言うのだから、理由があるのだろうと思っているのだろう。そしてそれは、愛せないことも分かっているだろうということだ。維心は、亮維の様子にため息を付いた。

「…先見の才があるものが、先を我らに示しての。」維心は言った。「このままでは、あやつはここに攻め入ろうとする。あちらでは、男を略奪する世であるからの。既にあちらの軍神の数人が侍女や他の宮の侍女に扮して潜んでおる。我に、あやつらを皆殺しにするのは雑作ない。だが、そんなことは起こらぬ方が良いのだ。」

亮維は、下を向いたままだった。

「命が懸かっておるのだと言われれば、致し方のないこと。我にはあれを愛することは出来ぬだろうが、妃にすることは出来まする。それで良いのなら、構いませぬ。」

維月は同じように下を向いた。神の王族は気ままにはなれぬ…これがそういうことなのだ。維心が頷いて書状を遣わせるために巻物をしたためようとした時、十六夜の声がした。

「…それじゃあ解決にならねぇんだ、維心。」維心は驚いて顔を上げた。「同じことになるんだ。」

十六夜は、大氣に見せられた維心にあの先のことを話した。維月も黙って聞いている。話し終わった時、維心は巻物を置いた。

「…つまりは、同じ道を行くということか。」と維月を見た。「やはり亮維を完全に手にしようとレイティアがここへ攻め入り、我が迎え撃ち、主がそれを止めて妃に迎え…」

十六夜は頷いた。

「おそらくな。だが、オレはそうなった時には絶対に妃には迎えねぇ。見殺しにする。オレには、維月以上に大事なものなんて無いんだよ。」

維心は険しい顔をして十六夜を見た。

「それはつまり、我や亮維があちらを殺し尽した事を後に知った維月が、今度は主ではなく我らを厭うようになる可能性があるということよの。」

亮維がパッと顔を上げた。維心が自分を見ている。厭われるなど…今まで、一度もなかったのに。そんなことになったら…。

亮維は、小刻みに震えた。考えたくもない。そんな未来は、この手で消し去ってしまわねばならぬ。

「どうすれば良いのでしょうか。」

亮維が、維心に言った。維心はため息を付きながら椅子に深く座った。

「困ったことよの。まるで昔の碧黎のように、己の思う方向へ行くように、どう転んでも大丈夫なように考えねばならぬのよ。もっとも、大氣が申すには今すぐあちらへ攻め入って、我が根絶やしにすれはもうこんなことは起こらぬということらしいが。」

亮維は、頷いて立ち上がった。

「では、そのように。」

十六夜が目を丸くする。維月は慌てて亮維を止めた。

「何を言うの!維心様でもそれはちょっとと言っていたらしたのに!」

亮維は維月を見た。

「我らの幸福を壊そうとするものなど、殺してしまうよりない。あちらはこちらを殺すつもりで掛かって来るのだぞ。先に攻め入って何が悪い。」

維心は苦笑した。確かに我はそう考える。しかし、維月の手前、それはどうかと考えるようになったのに。

「そう考えるのが、神の世の普通ぞ、維月。だが、我は主の手前このように考えるようになっただけでの。昔、世が戦国だった頃、我はそうやって回りの宮を制圧して行った。なので今の世がある。それだけは真実であるぞ。」

維月は納得いかないようだったが、頷いた。確かにそうだろう。今は平和だけど、それは維心が作ったからであって…昔からこうだった訳ではない。だが、他に方法があるのなら、そちらを選んで欲しい…。

維月はそう思っていた。

「とにかく、皆が納得できる方向に考えよう。維月、お前もな。」

維月は頷いた。レイティア…ここへ招いても、きっと来ないだろう。亮維や維心に拒絶されて傷付いたこの宮へ、来るはずなどないのだ。どうしたらいいのだろう。

四人は、時を忘れて話し合った。

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