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夢の続き

レイティアは、月の宮に部屋を与えられた。

蒼は事の次第を見ていて知っていたが、何も言わなかった。ただ、この先どうなるのだろうと、そればかりが気になった。

十六夜は、まだ月で気が付かない維月を気遣っていたが、一日でも通わねばならないのは神の世の理だった。なので、その日はレイティアの部屋で夜を過ごした。

まだ夜も明けきらぬ間に月へと戻った十六夜は、後悔の念でいっぱいだった。だが、あんな時どうしたら良かったのだ。維月はまだ何も知らないまま、月で気を失っている。だが、少しずつ気を取り戻しているのは感覚でわかった。維月に何と言えばいい…。

十六夜は、ひたすらに悩み、苦悩した。

三日目に維月は、意識を取り戻した。十六夜は、ホッとして維月に言った。

《維月…気分はどうだ?》

維月は答えた。

《私は大丈夫よ。死なないって便利ね。維心様は?戦はどうなったの?レイティアは?》

十六夜は、胸を締め付けられるような気がした。維月に、言わねばならない。どちらにしても、人型になったら下に降りて知ることになる…。

《維心が、お前に起こったことを見て我を忘れて激怒して、あいつらを嬲り殺そうとした。だから、オレはそれを止めようと…。》

維月は、口ごもった十六夜を気遣うように言った。

《十六夜が、止めてくれたのね。維心様、龍だから。とても激しくて、私でも手におえない時があるもの。大変だったでしょう?》

十六夜は、思い切ったように言った。

《レイティアを娶ると言って。》十六夜の声は、涙声のように震えていた。《維月、オレはレイティアを娶った。お前に相談もなく、オレは…。》

維月は、少し黙った。そして、言った。

《…じゃあ、レイティアは、今月の宮に居るのね?》

十六夜は頷いたようだった。

《そうだ。》

維月は、それから数分間、じっと黙っていたが、言った。

《ありがとう…皆を守ってくれて。十六夜は、優しいから。きっと私の代わりに維心様を止めてくれると思っていたわ。》

《維月…。》

十六夜のホッとしたような声に、維月は笑った。

《さあ、私の気も満ちたわ。維心様にこうして無事なのをお知らせしなければね。じゃあ、またね、十六夜。》

十六夜は、なぜか違和感を感じたが、頷いた。

《ああ。待っているだろうから…。》

維月は、龍の宮へ戻って行った。


それからしばらくして、十六夜は龍の宮の王の居間を訪ねた。あれから、維月は月にも戻らないうえ、月に向かって話し掛けもしない。こちらから話し掛ければ答えるものの、前のように自分から話し掛けて来ることがなかった。

十六夜がいつものように居間へと入ると、維心が一人居間に座っていた。そして、十六夜を見て居心地悪そうに横を向いた。

「…十六夜。」

十六夜は、維心に聞いた。

「維月は?」

維心は横を向いたままだった。

「ああ…維月は、子の世話に参っておる。乳母に任せぬのは、前世のままよ。」

十六夜は、そこに維月の残り香のような、気の残留のようなものを感じた。今の今まで、ここに居たのではないのか。

「維心…維月は、どうしたんだ?ここに居たんじゃないのか。どうして突然に出て行った?オレが来るのは分かったはず…」

そう。月同士なのだから、片割れが近付けば気取ることが出来る。維月には、自分が来るのが分かったのだ。分かったから…。

「…分かったからか。」十六夜は、言った。「維月はオレに会いたくないから、ここから出たのか。」

維心は、十六夜を見た。

「十六夜、時間をやれ。維月も理解しようと努めておるのだ。だが、まだ感情の整理がついておらぬ。月から戻った時には我がどんなに慰めようとも奥の間に篭って出てこなんだのに。ずっと我が付ききりで居て、今はかなり落ち着いて来ておるのだ。ゆえ、時間を。突然の事であったゆえ、維月も己の感情に振り回されておるのよ。」

十六夜は、衝撃を受けた。やはり、そうか。オレが、レイティアを相談もなく娶ったから…。例えあれから一度も通っていないとは言っても、妃である事実は消えない。維月は、なので里にも帰って来れないのだ。そんな現状を目の当たりにせねばならないから…。

十六夜が黙っているのを見て、維心は言った。

「すまぬ。我があのように我を忘れてしもうたゆえに、主は止めようとして…。だが、神の世の理を思って見てくれ。本来なら、我に仇なした種族など、根絶やしにされたのだぞ。鳥を見よ。それが、あれで済んだのは、主が娶るという特殊なことがあったゆえぞ。そうでもなければ、殺すのが当然。他の神への示しがつかぬからの。」

十六夜には、わかっていた。龍に仇なすなど、あってはならないことなのだ。それを、遠い国で知らぬとはいえ侵攻して来た種族に、甘い顔などしては神世が納得すまい。わかっていたからこそ、自分は…。

「…わかってる。」十六夜は、踵を返した。「維心、もう維月はこっちへ帰って来ないかもしれない。いくら割り切ったといっても、月の宮にはレイティアが居る。嫌でも思い出すだろう…。もし、このままオレ達が会わなくなっても、お前はオレに維月の様子を教えてくれ。」

維心は、ためらったような顔をした。

「十六夜…維月もわかっておるのだ。大丈夫、そのうちに元に戻ろうぞ。」

十六夜は首を振った。

「維月の性格は、オレが一番知ってるさ。頼んだぞ、維心。何かあったら、お前がオレに言え。手を貸すから。」

維心は、十六夜を見上げた。

「十六夜…。」

十六夜は、空へと飛び立った。

そしてそのまま、十六夜と維月は会うことも話すこともなくなった。


「…終いぞ。」碧黎の声に、皆はハッとした。そうだ、これは維織が見たと言った光景…。「我が見たところ、これは予知夢ぞ。何も知らぬ維織が、ここまではっきりと主らの言うことまで夢に見ることは出来ぬ。戦の残虐な場面まで見ておる…これは、我の力で封じておく。維織がもっと大きくなってから解放しようぞ。」

維月が涙ぐんだ。維心が、維月の肩を抱く。十六夜が、伏し目がちにじっと考え込んでいた。

維心が、沈黙を破った。

「…ようはこうならぬようにすれば良いだけのこと。レイティアの軍神達は、宮に潜んでおるものも顔は覚えておる。あれらを捕らえて、レイティアに問いただし、攻めて来るようならこちらへ来る前に我が龍身で力を見せて抵抗する意思を削げば良いのだろう。簡単なことぞ。」

「そう簡単には行かぬぞ。」

違う声に、皆は振り返った大氣が、こちらを見ていつの間にか立っていた。

「なんだ。ここのところ他の神を見回って来ると出て行って、戻っていなかったではないか。」

碧黎が言うのに、大氣は肩をすくめた。

「ここが一番おもしろいわ。なので戻った。それより碧黎、維織は我と同じ能力を持っておるの。我も先見をする。遥か先までは見えぬが、二、三年ぐらいなら見える。普段は先に分かるとおもしろうないから、見ぬようにしておるがの。我も同じものを見た…そして、抗うもの達も見て来た。だがの、成功したのはほんの一握りぞ。未来など、そうそう変えられぬものなのだ。」

十六夜は言った。

「だが、オレが何としてもめとらなかったら?」

大氣は言った。

「変わる。だが、主にそれが出来るか?一番成功する率が高いのは、先に攻め入って維心があちらを根絶やしにすることぞ。維心なら一人でも可能であろう。」

維心は下を向いた。いくら自分でも、まだ攻め入っても来ていない種族を根絶やしにする命など出せぬ。

維月が言った。

「では、どうしてもレイティアは攻め入って来るというの?」

大氣は頷いた。

「来る。あのな維月、我もやっと知ったが、女の恋情ほど怖いものはないの。あやつはどうしても亮維か、それともそれに似た男が欲しいのだ。我も気になって見て来たが、今は己の良心と戦っておる最中ぞ。直に恋情がそれを征するであろうがの。」

維月は維心を見た。維心は顔を上げた。

「亮維に、一度でもあやつをめとらせる。」維月はびっくりして何か言おうとしたが、留まった。「犠牲を出さずに済むのは、それしかない。」

十六夜が何か言おうとした時、維月が何かを抑えるように口を押さえた。苦しげに下を向く。維心が慌ててその背をさすった。

「どうした?気分が悪いのか。」

「…はい…今朝から少し悪かったのですが、申し訳ありませぬ。」

十六夜は、ハッとしたように碧黎を見た。碧黎は険しい顔をして維月を見ている。そして、言った。

「…維心の子が宿っておるの。ひと月ほど前であろう。」

大氣は頷いた。

「ちょうど我がこれを先見した頃ぞ。やはり時は動いておるようだの。」

維心は驚いて維月を見た。欲しいと願っていた自分の子…維月はまだ待てと言っていたのに。では、これは運命の子なのだ。維織と同じく…。

「…早急に亮維に申し渡す。」維心は言って、立ち上がった。「王の我の命には従わねばならぬ。亮維には事情を話し、人命のためと言おう。」

維月はもう、何も言わなかった。十六夜も黙って頷いた。維月と離れる未来など、見たくはない。あんなことになったら、オレは狂うかもしれない…。地上の全てを滅したいとまで思うかもしれない。自分には、その力がある。

維心は、維月を抱き上げ、一日早く龍の宮へと飛び立って行った。

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