捜索
捜索は難航していた。
維織は赤子で気が少なく、またその少ない気を使っていると考えられるので、気を読んで探す事が出来ない。
日が暮れて暗い中、月の宮の広く入り組んだ庭の中を、小さい姿を目視に頼って探すのは、かなり困難だった。こちらが声を上げて呼んでも、答えるということが分からない。その上、知らない姿や声には、怯えて逆に逃げてしまうかも知れなかった。
花火大会は中止され、軍神達の維織を探して飛び回る姿が、維心の打ち上げた光の玉が明るく輝く下見えた。
レイティアは、その大きな光の力強さに驚いていた。龍王の気は、確かに大きく強いようだ。維月が大切にする夫だけはある…。レイティアはそんな風に考えていた。
軍神達の多い手前を避け、もっと遠くまで行っていることを前提にレイティアは光の届かないもっと先へ飛んで探していた。あの維月と十六夜の子なのだ。気が強く、通常考えられない距離を飛んで居てもおかしくはない。
レイティアが奥の茂みをかき分けていると、奥から微かに気配がするように思った。
「…維織?居るか。」
小さな声が、微かに聴こえた。
「う~…。」
レイティアは、慌てて走った。そして、奥の低い木を回り込むと、そこに茶色の髪の、十六夜によく似た顔立ちの赤子が、じっと横たわって居るのが見えた。
「維織…!」
気を失いかけている。レイティアが慌てて気を補充しようと手を伸ばすと、ものすごい力で気が吸い込まれる感覚を覚えた。これは…もしかして、実体を失いかけて暴走しようとしている。こちらの気を根こそぎ持って行かれてしまう…!
「あ~…。」
維織は、微かに目を開けてレイティアを見た。誰かを呼んでいては助からない。だが、死なない程度に気を補充して運ぶことは、到底出来そうになかった。維織は、力なく目を閉じた。レイティアの脳裏に、国の臣下達がよぎった。我はここで命を落とす事は出来ぬのに。
維織はますます気の力を失って行く。
「しっかりせよ!」レイティアは、とても赤子を見殺しには出来なかった。「今、助けてやるゆえ。」
レイティアは手を伸ばした。気が一気に抜き取られて行く。目眩を覚えながら、それでも維織を抱き上げようとすると、その手を誰かの手が掴んだ。
「やめよ!」レイティアは驚いてその顔を見た。龍王か…?いや、違う。だが、そっくりではないか。「…我がやる。主は知らせよ。」
レイティアは首を振った。
「こやつには加減が出来ぬ!全て気を食らわれるぞ!」
相手は頷いた。
「分かっている。しかし我には背負うものがない。主とは違う。どうも我は探し物には縁がないようぞ。」と、維織を抱き上げた。「父が、運が良ければ我を戻してくれようぞ。早く行け!」
レイティアは、気を失って膝を付くその男を見ながら、飛び上がった。
「必ず戻る!」
相手は頷いて、その場に倒れた。レイティアは必死に飛んだ。早く…!早く助けを…!
「亮維!!」
維月は、駆け付けた場所で悲鳴のような声を上げた。亮維は維織を腕にそこに倒れて、維織はその頬を叩いて泣いていた。十六夜が維織を抱き上げ、維心がすぐに傍に降りて手を翳す。
「…大丈夫、まだいける。」と、下に向かって大きく気を放出した。「戻せる!」
気の勢いで、亮維の体が大きく跳ねた。亮維は何か変なものを飲んだかのように、激しくむせかえって目を開いた。
「…運があったの。」
亮維は、力なく呟いた。維月は涙を流して亮維を抱き締めた。
「ああよかったこと!ありがとう亮維…維織は助かったわ。こんな危険な事を…。」
亮維は微笑んだ。
「そこのレイティアがやろうとしておったこと。王にこのような博打はさせられぬゆえの。我は大丈夫ぞ。」
レイティアは、ホッと胸を撫で下ろした。何という力…我では恐らく戻れなかった。気が尽きるのがこの男より早かったであろうから、時が間に合わなんだであろう。
維心が答えた。
「ようやったの。生まれた時に維月でも死にかけたほどの気の吸収の勢いであったろうに。よくぞ持ちこたえた。」
亮維は首を振った。
「我らは父上と同じ。簡単には死に申さぬ。」
亮維は、今死にかけていたのに、もう立ち上がった。そして、レイティアを見た。
「礼を申す。主が迅速に父上を呼んで来ておらねば、死んでおったであろう。」
維月も頷いた。
「ありがとう、レイティア。私からもお礼を。」
レイティアは、軽く頭を下げた。
「…必死であっただけのこと。お役に立ててよかった。」
維織は、十六夜の腕の中で安心したのか眠っていた。その目には、涙の跡が残っていた。
「ほっとけないのが、よくわかった。目を離せねぇ。困ったもんだよ。」
一同は、そこを離れて、宮へと向かって飛んで行ったのだった。
次の日、亮維が龍の宮へ飛び立とうとしていると、レイティアが歩み寄って来た。
「もう、帰るのか?」
亮維は頷いた。
「此度は維月も暇がないようであるしの。我も宮の軍神達を放って置く訳にも行かぬのよ。」
レイティアは、自分が亮維の事情を知っていることを、亮維が知っていることに驚いた。亮維はふっと笑った。
「兄上から聞いたのだ。主から見たら、我らも維月の夫の一人ということであろうが。」
レイティアは弁解気味に言った。
「悪気はなかったのだ。主らの常識など我には分からぬ。しかし、少しは分かって参った…こちらは、女が何人も夫を持つなど特殊よの。我らの方の男がそうであるように。」
亮維は頷いた。
「そう、不名誉よの。だから隠す。月は特殊であるから、父と月だけならまあ、世もそんなものかといった感じであるが、それ以上はおかしい。だが、分かっておっても抑えられない気持ちというものもあるのだ。我らはそれを承知で望んでおる。我慢せねばならぬことは、我慢せねばの。」
レイティアは、亮維を見た。黒髪に深く青い瞳は、将維や龍王と変わらない。強い気も、そして、命をとして子を守る心も…。
「頼みがあるのだ。」レイティアは、亮維を見た。「少し、良いか?」
亮維は眉を上げたが、頷いてレイティアについてそこを出て、庭の方へと向かった。




