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戸惑い

十六夜は、あの時レイティアがこちらを見ていたのを知っていた。そして、ナディアがレイティアに話して聞かせていることも、その内容も逃さず聞いていた。まさかレイティアの国で、王族がそんな風に育てられていたとは知らなかった。

恋がなんたるかなど、十六夜も知らなかった。維月を想う気持ちがそうだと、いつ知ったのだろう。維月と共に居たいと望み、維月が自分を望む事が嬉しくて仕方がなかった。維月が生まれた前世から見守り続けて、そして、ついに触れあう事が可能になり、愛し合った。誰よりもかけがえの無い維月…。愛することも、恋することも、全て維月から知った。維月のほかに、欲しいものなど、前世、今生通してもなかった。だから今さらに、他の誰かを恋うることなどあるはずはない…。

蒼に、レイティアとナディアが話していたことを話したが、レイティアが愛情を知らずに生きてきた事を悩んでいるのかと思うと、同情した。

それはきっと、誰かを愛してみなければ、わかるはずのない感覚だと、十六夜にはわかっていたからだった。

「十六夜。」

維月の声が呼ぶ。十六夜は顔を上げた。

「維月。維心は落ち着いたのか?」

維月は頷いた。維心は、未だ不安定だ。維織と十六夜と、維月が共に過ごすのを納得はしているのに、自分には子を生んでもらえないと、心の底ではつらいようだった。出来ないのなら自然の摂理なので仕方がないが、それを調節出来るとなれば話は別なのだ。

その上、レイティアが現れ、十六夜を望むということは、維心のことも望む可能性があり、それを維月が受けるのではないかと、そんな疑念まで持っていた。もちろんこちらでは維心の立場の方が断然上なのだから、あっさり断ることが出来るのだが、維月の気持ちがそうだと知りたくないと、沈んでいたのだ。

維月は決してそんなことはないと、維心を安心させるために向こうへ行っていたのだ。

「そんなこと、あるはずはないと分かってもらえたみたい。本当に困ったこと。私をまだ信じて頂けないのね。」

維月は困ったように笑う。十六夜は維月に手を伸ばした。

「維心の気持ちはわかる。お前にはっきりそんなに愛してないと言われるようで怖いんだよ。だが、こうして長く生まれ変わってまで一緒に居るのに、あるはずはねぇよな。」

十六夜に引き寄せられて、維月は頷いた。

「明日はレイティアと話して来るわ。こればかりは私にもどうしようもないけど、少しは気持ちを聞いてあげないとね。男を完全に守る対象だと教えられて来て、しかも劣っていると思い込んでいて…混乱しているのだと思うわ。対等に思えないで来たようだもの。」

十六夜は頷いた。

「あいつは、物みたいに思ってるようだった。お前しか対等に思えないみたいだから、お前から話してやるといい。」

十六夜の胸に身を寄せながら、維月は頷いた。でも、愛する気持ちなんて、作ろうとして出来るものでもない。それが自然に生まれるならいいのに…。

維織が、今日はもうここに居ない。維月は十六夜に問うた。

「そういえば、維織は?」

「ああ、おふくろの所だ。」十六夜は言った。「乳母が連れに来た。何でも、花火を見せてやるんだと。今日、庭で月の宮の子達が花火大会をするんだってさ。」

維月は笑った。

「まあ。私達も見に行く?」

十六夜は頷いた。

「そうだな。行くか。」

二人は立ち上がって、そちらへ向かったのだった。


維織は、乳母に抱かれていた。陽蘭は侍女達に着替えを手伝われに出て行っていたのだ。乳母も維織の準備があり、維織の着物を取りに維織をベビー籠の中に入れると、そこを出た。

維織は、籠の中から外を見た。暮れて来た日がオレンジ色になって美しい。赤子ながら、それを見て維織は美しいと思っていた。そして、それをもっと近くで見たいと手を上げた。

維織から出た小さな光は、籠の上部を壊した。隙間が開いたのに維織自身が驚いたように目を丸くしたが、それも一瞬のことで、すぐによろよろと飛び上がると、危なっかしくそこを出て、ふわふわと漂うように左右に揺られながら、外に向かって泳ぐように出て行った。

維織は、ただ夕陽を目指していた。


「陽蘭様!」

陽蘭が準備を終えて手鏡を見ていると、乳母が駆け込んで来た。その顔は青く、冷や汗を流している。陽蘭は驚いて乳母を振り返った。

「どうしたの?維織は?」

乳母は必死に言った。

「籠の中にお入れして、維織様のお着物を取りに出た隙に、維織様が籠から出られて…!」

「ええ?!」

陽蘭は慌てて立ち上がった。碧黎も立ち上がる。そこへ、十六夜と維月が入って来た。

「お母様?お顔色がお悪いですけれど…。」

維月が気遣わしげに言う。碧黎が言った。

「維織が居らぬ。」と、外に足を向けた。「探しに参る!」

「ええ?!」

維月は慌てて隣の部屋へ駆け込んだ。そこに置いてあるベビー籠は、上の所に小さく穴が開いていた。十六夜がそれを見て言った。

「あいつ、気を使えるようになったんだ。」と、外を見た。「オレも行く!」

十六夜が飛び出して行く。しかし、維織はまだ本当に赤子で、気が少ない。気をたどって探すのは、困難だった。目視に頼るしかない…。

「私も行くわ。」陽蘭は言った。「維月は蒼に知らせてから、軍神達に出てもらうよう頼んで。急がないと、気を使いきってしまったら…!」

陽蘭は居ても立っても居られない様子で、すぐに飛び立って行った。維月は蒼の元に走った。まだ赤ちゃんの維織が、気を使いきるのは時間の問題だ。加減が分からない…気を使いきると、僅か数分で死んでしまう。

涙を浮かべながら、蒼の居間に駆け込むと、叫んだ。

「蒼!維織が外へ出てしまったの!助けて!あの子はまだ気が少ないのに…!」

蒼は事態を悟ってすぐに叫んだ。

「すぐに軍へ知らせよ!維織を探せ!」

維月はそれを見て自分も行こうと踵を返した。蒼はその背に言った。

「オレは軍神達の動きを指示するからここに居る。将維にも炎託にも出てもらうから、安心して。」

維月が頷くと、入り口から声がした。

「我も行く。」維心がそこにいた。「維月、案ずるな。」

維月は維心の顔を見ると、なぜかホッとして涙が出た。

「維心様…。」

維心は頷くと、サッと出て行った。維月もそれについてそこから飛び立った。


ナディアがレイティアの部屋に入って来て、膝を付いた。

「王、維月様のご息女がお一人で外へ出てしまわれたよし。軍神達が命を受けて庭を捜索し始めております。我も今から加わりまする。許可を。」

レイティアはサッと立ち上がった。

「我も参る!まだほんの赤子ではないか。命に関わることぞ!」

ナディアは頷いた。

「はい。南の庭でありまする。」

レイティアは腰に刀を挿すと、窓から外へ出て飛び立った。世継ぎの子…何が何でも助けねばならぬ。

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