2.女になった俺。
運がよいのか悪いのか、カルテナの森に入るとすぐに、あの魔獣が現れた。
紫色で、蜥蜴によく似た魔獣だ。
口から吐き出す紫色の液体に触れたら、呪われる。
景気よくそいつらは現れて、俺たちはコアを探して切っていく。
液体を吐かれる前に、殺す。
そのつもりだったけど、油断したのか、グラシアは背後の奴に気がついてなかった。
口が開く。
(呪いが再びかかれば、呪いは解けるかもしれない)
そんな考えが一瞬過ったが、俺は頭を横にふり、駆けだす。
グラシアは俺のために、呪いにかかったんだ。
あの時ちゃんと、殺していれば。
「このやろう!」
俺は剣を被り振り、そいつを叩き切った。
安心していたところ、
「カミロ!」
背後から声がした。
振り返ると、紫色の魔獣がすぐそばにいて、その後ろではグラシアが剣を振りかぶっていた。
魔獣を切る音と、俺が紫色の液体を全身に浴びるのは同時だった。
「うう」
紫色の液体は蒸発していく。
同時に俺の体が変化する。
手が小さくなった。それから胸が膨らみ……。
俺の黒髪が伸びる。
「カミロ!なんで、そんな胸が!」
「がはは!カミロ、そのデカパイがお前の趣味か?」
俺は、呪いを受けて女体化していた。
しかもかなり胸の大きな……。
「私が女性だった時より、胸がおっきいね。すごい。触っていい?」
「だ、」
口から出た声が甲高い。
胸を触られるのは嫌だ。
だけど、グラシアなら。
「うお!やわらかいなあ。カミロ、すげぇじゃねーか!」
「アリシオ先輩!」
俺とグラシアの声は同時だった。
しかし、彼女の声には怒声が含まれいてる。
「その手、切り落としてもいいですか?アリシオ先輩?」
「グラシア?何、怒って。お前も興味あれば、さわ」
「触らない。絶対に!」
え?グラシアは俺の胸に興味ないの?
え?
「ふう。こんな展開は予想してたけど、残念よ。女の子のカミロになんて興味ないわ」
「ギエム先輩!?」
「まあ、あなたにとってはいいことじゃない?これで告白できちゃうじゃない。お付き合いも可能だわ。私はとても残念だけどね」
「ギエム先輩。何を言っているんですか?こんな呪い、解くに決まってますから!」
「カミロ。え?呪い、解きたいの?カミロ、可愛いよ。初めて会った時みたい」
「そうだ、そうだ。カミロ。そのむね、」
「アリシオ先輩は黙って」
グラシアのアリシオ先輩に対する態度がものすごい怖いんだけど?
和気あいあいしていたよな?
「まあ、とりあえず戻るわよ?分隊長が首を長くして帰りを待っているだろうし」
「そうだな。そうしようぜ。カミロ、後でシャワー一緒に浴びようぜ」
「浴びるわけありません!カミロは私と浴びるので」
「は?グラシア?」
カミロは私の手を掴むと、ぐいぐいと歩き出してしまった。
「グラシア、カミロ!後始末はちゃんとつけるわよ。また戻ってきたい?」
「すみません」
「ごめんなさい」
俺があやまり、グラシアもそれに続く。
隙あれば俺に近づいてくるアリシオ先輩を牽制しながら、俺たちは倒した魔獣を一か所にまとめたり、そのコアを集めたりした。
魔獣のコアを放置していると、他の魔獣がそれを吸収して強化されたりするから厄介で、倒した魔獣のコアは壊れていても集めないといけない。集めたコアには魔力が含まれていて、魔法具などで使えるのだ。
ちなみに俺たちの中で魔法を使えるのは、分隊長だけだ。
分隊長がかなり強力な魔法を使えるので、俺達が魔法使えなくても問題ないって第四部隊は魔法を使えないものが集まっている。でも分隊長は戦闘に参加しないから、本当俺たちの隊は肉弾戦ばかりだ。
平民のほとんどは魔法を使えない。
魔法の元となる魔力は、血に連なり、貴族のほぼ全員が魔法を使えるくらい、魔力が高い。
平民でもまれに魔法を使うものがいるけど、そういう特別な人はすでに王宮の魔術師協会に見いだされ、立派な魔術師になっている人が多い。
「分隊長から預かった火の筒で、魔獣の体を燃やすわよ」
魔獣にしか効かない火があって、それを筒に詰めることができるのが俺たちの分隊長だ。
呪いの魔獣の体を集め、その筒を使って火を放てば、あっという間に燃えて、煙に変わる。
「さあ、戻るぞ」
「アリシオ先輩。カミロに触らないでください」
「いいだろう。減るものじゃないし」
「つまんないわね」
俺の右側にはグラシア。
なぜかアリシオ先輩が俺の左側に来ようとしていて、グラシアに怒られている。
森に来るまで、あんなに仲良さそうだったのになあ。
「ああ、つまんないわ。本当」
俺の背後では、ギエム先輩が悪態をついていた。
馬を駆り、俺たちは来たときと同じように戻る……。
俺だけは姿が違うけど。
☆
「可愛いわあ。やだ。女の子欲しかったのよね」
「……いいんじゃないか」
家に戻った俺に対する両親の言葉はこれだ。
ちなみに、グラシアの時と同じで、呪いは解かない方向になってる!
理不尽、なぜ?!
なんていうか、俺、別におっぱい大好きでもなかったし、なんていうか、理想がグラシアだったから、別に巨乳の趣味がない。
しかも自分の乳に興奮するわけないし。
なんていうか、おしっこするのもなんていうか、難しいし、ああ、もう嫌だ。
久々に家に帰ったのに、なんか体は女になってるし、全然休めなかった。
翌日、騎士団にいくとすぐにグラシアがやってきた。
「……何かあったら頼ってよ。私、女の子だったから、なんでもわかるから」
「う、うん。ありがとう。だけど、俺は絶対に元に戻るつもりだから」
「なんで?こんな可愛いのに」
「え?いや」
グラシアが目をキラキラ輝かせてそう言って、決心が揺らぎそうになった。
だって、グラシアが男のままだったら、俺が女であったわけがいいわけで。
「カミロ。惑わされないのよ。頑張って呪いを解きましょう。私が手伝うわ」
「ギエム先輩」
そうだ。
俺は男に戻る。
そしてグラシアも!
「グラシア。君の呪いも解いて見せるから!」
「う~ん。カミロの呪いが解けたら、考える。それでいい?」
「うん!」
よかった。
女のままじゃ、絶対にグラシアに勝てない。
だって、男の時も男のグラシアに勝てなかったんだ。
今の俺は、本当、非力。
情けない。
だけど、どうにかして男にもどれば、グラシアも元に戻ることを考えてくれる。
それは本当に助かる。
「カミロ。あの魔獣を探すために、その体で強くなる必要があるわ。男女の勝手は違うと思うけど、私が教えてあげる。その代わり、男になった時は、ご褒美くれるかしら?」
「ご褒美?」
「カミロ。だめだから。そんなこと聞かないで。ギエム先輩、カミロに変なこと吹き込まないでください」
「変なこと?なぜ?」
ご褒美が変なこと?
「カミロ。まずは元に戻るために魔獣を探すことを考えるから、決闘はお預けだよ。その代わり、私がカミロを鍛える」
「あらあら。私が鍛えてあげるって言ってるのに」
「私がします。ギエム先輩」
「つれないわね。まあ、いいわ。女のカミロには興味ないし」
そういってギエム先輩はいなくなる。
「大丈夫。カミロ。私が色々教えるから」
「ありがとう」
嬉しいけど、なんか複雑。
男女の役割が逆転している感じ。
まあ、俺は今女なんだけどさ。
「よし、二人ともそろっているな」
アリシオ先輩の姿が見えないと思ったら、どこかに行っていたみたいだ。
っていうか、誰か一緒にいる?
え、あ?
「ブルーノ殿下」
グラシアがそう言って、俺はやっとアリシオ先輩の背後の人物が誰なのか、気が付いた。
俺もグラシアの隣で慌てて頭を下げる。
現れたのは第二王子であるブルーノ殿下だった。
アリシオ先輩は平民だけど、街にお忍びで降りていたブルーノ殿下を助けたことから、仲良くなったって聞いたことがあった気がする。
なんていうか二人並ぶと、全然ちぐはぐなんだけど。
「畏まらなくもいい。今日はアリシオの話を聞いて、面白そうだから来てみたんだ」
そう言われ、俺たちは顔を上げる。
ブルーノ殿下は顔が整っている。
銀髪に青い瞳の絵に描いた王子そのものだ。
ギエム先輩と同じ銀髪、だけど印象がちがう。
アリシオ先輩みたいな筋肉達磨的な感じじゃなくて、バランスよく筋肉がついている。
すっきりしていて筋肉の付き方が理想的だなあ。
俺もそうなりたい。
早く男に戻りたい。
「おお。君!なんてまあ。カミロという名だったかな?」
「は、はい。殿下」
なんか急に近づいてきたぞ。
ブルーノ殿下。
「可愛いね。本当。可愛い。そうだ、護衛騎士にならないか?」
「は、はい?」
「ブルーノ殿下。恐れ入りますが、カミロは女性化してその、あまり戦える状態ではありません。なので」
グラシアがすぐに傍にやってきて、殿下に申し出てくれる。
ありがたい。
男だったら、即答なんだけど、今の状態でとても殿下を守る騎士なんて無理だ。
平民が護衛騎士になるなんて、夢のような話だけど。
「じゃあ、君も一緒にきて。それならいい?」
「え?」
驚いた声は俺と、グラシアから同時に出た。
「ははは!面白いこと考えるな。俺もいいか?」
「君は駄目。絵柄がよくない」
「絵柄?」
なんだ、それ。
「あの、殿下。私たちは平民でして、とても殿下の騎士に相応しい身分ではありません」
グラシアは本当に嫌なんだな。
俺は男だったら、すぐに頷くんだけど。
だって護衛騎士だぜ?花形。
でも今はだめだ。
女のまま護衛騎士になる。弱いのに。
だからグラシアまで巻き込んで。
無理だ。絶対に。
「大丈夫だって。私がいいって言えば可能だよ。君たちの隊長のダルミロにも話を通しておくから。じゃあ」
「殿下!?」
グラシアと俺は必死に殿下に呼びかけるが、無視して元来た道を戻っていく。
一人で。
殿下を呼び止めるなんて失礼なことできないから、俺たちは諦めるしかない。
「諦めな。あいつは一度決めたら引かない。ああ、残念。カミロの立派な乳を拝めなくなってしまう」
「アリシオ先輩」
グラシアの先輩を呼ぶ声は低かったが、アリシオ先輩は気にしていないようだ。
「カミロ。触らせろ」
「嫌です」
触られても減らないけど、なんか、嫌だ。うん。




