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「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」  作者: つむぎ


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8/12

8

翌朝、学園の中庭は爽やかな陽射しに包まれていた。だが、その空気とは裏腹に、クラウディオの胸中は重く沈んでいた。


昨日の夜会以来、何もかもが変わってしまった気がする。


そして今、彼の視線の先にはリリエットの姿があった。


「リリエット」


意を決して呼びかけると、彼女は歩みを止め、ゆっくりと振り返った。


その瞳がクラウディオを捉える。


けれど、彼女の視線は冷ややかだった。呆れたような、それでいて失望を滲ませた目。まるで、どうして今さら、という気持ちをそのまま映しているかのようだった。


クラウディオは無意識に息を詰める。こんなふうに見られたのは初めてだった。


「……少し話がしたい」


「話?」


リリエットは僅かに首を傾げ、溜息をついた。


「昨日はダンスをありがとう。楽しかったわ」


クラウディオの眉がぴくりと動く。


「……それだけか?」


「それ以上、何かある?」


淡々とした声。その態度の変化に、周囲の生徒たちも興味をそそられたのか、ちらちらとこちらを窺っている。


クラウディオが、婚約者であるリリエットに話しかけること自体が珍しかった。ましてや、彼女の方が冷たい態度を取っている状況は、誰もが初めて目にするものだった。


「……昨日のことだけど」


どうにか言葉を続けようとしたが、ふと気づいた。リリエットは、僅かに身を引くような仕草をしていた。


――違う。


よく見れば、彼女は胸元を両手でそっと覆うようにしている。


クラウディオの心が、どくんと跳ねた。


――昨夜、俺は……。


記憶が鮮明に蘇る。


昨日、ダンスの最中、無意識に彼女の胸元に視線を落としていたことを。


それまで見向きもしなかった婚約者を、別人と勘違いした途端に、舐めるように見つめていたことを。


――最低だ。


昨日のリリエットの態度が冷えていたのは当然だ。彼女はずっと自分に誠実であろうとしていたのに、自分は彼女の本質を見ようとせず、ようやく意識した途端にそんな視線を向けてしまった。


気づけば、リリエットの唇が動いた。


「クラウディオ様、私はあなたが私をどう思おうと構いません。でも……せめて、誠実でいてほしかったわ」


クラウディオは何も言えなかった。


リリエットは、もう一度だけ短い溜息をつくと、ゆっくりと踵を返した。


クラウディオは、その背中を見つめるしかなかった。


周囲の視線が痛いほどに突き刺さる。昨日までなら、こんな状況になったとしても、どこかで気にも留めなかったかもしれない。だが、今は違う。


何よりも、彼女の冷めた態度が胸を締めつけた。


本当に、このままでは――彼女を失ってしまう。


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