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昼下がりの学園の回廊を歩くクラウディオの背中を、リリエットはそっと追いかけた。何度も誘いを断られてきたことは分かっている。それでも、今日は久しぶりに話しかけてみようと思った。
「クラウディオ様」
彼は足を止めたものの、振り向くことなく「何だ」と短く応じた。
「今度、劇場で新作の演目が上演されるのをご存じ?」
「……ああ」
「私、それをとても楽しみにしているの。もしよかったら、一緒に行かない?」
息を詰めて彼の横顔を見つめる。少しでも、いつもと違う反応が返ってくることを願った。しかし、クラウディオはほんの一瞬間を置いただけで、何の迷いもない声音で言った。
「遠慮する」
「そ、そう……」
期待していたわけではない。それでも、実際に冷たく断られると胸の奥がきゅっと痛んだ。
「では、また」
それだけ言い残し、クラウディオは歩き去っていった。リリエットは手のひらを握りしめ、落ち込む気持ちをなんとか振り払おうとしたが、足元に影が落ちるのを感じて顔を上げると、セシルがそこに立っていた。
「もう、お兄様のことばかり考えていたって気が滅入るだけよ」
セシルは呆れたようにため息をつきながらも、優しい眼差しを向けてくれる。
「リリエット、気晴らしに私の友人たちとの茶会に来ない? みんな気さくな人たちばかりだから、きっと楽しいわ」
「……茶会?」
「ええ、たまにはお兄様のことを忘れて楽しんでみるのもいいんじゃない?」
セシルの誘いに、リリエットは少しだけ迷ったが、考え込むよりも気分転換になるかもしれないと思い、うなずいた。
茶会の席には、男女混合で数人の生徒たちが集まっていた。一学年下の子爵子息やその友人たちで、リリエットにとっては初対面の相手ばかりだったが、彼らは皆、気さくで親しみやすかった。
「はじめまして、クラウゼヴィッツ嬢」
「はじめまして、皆さんとお会いできて光栄です」
軽く挨拶を交わすと、すぐに和やかな雰囲気に包まれた。学園内の何気ない話題、授業での失敗談、興味のある趣味のこと。会話が次々と弾み、リリエットはいつの間にか自然と笑っていた。
そして、茶会の終わりが近づいた頃、一学年下の子爵子息が少し興奮した様子で切り出した。
「実は僕、最近商会を立ち上げたんだ。服飾関係のね。近々、夜会でうちの商品をお披露目したいと思ってるんだけど、どうかな? 皆にうちの服を着てもらえたら、すごく華やかになると思うんだ」
「お披露目の場として夜会を使うのね? それは面白そう」
セシルがすぐに興味を示し、周囲も賛同の声を上げた。
「華やかなドレスを着る機会は多いけれど、商会の新作となると、また違った楽しみがあるわね」
リリエットも、ふと心が惹かれるものを感じた。
「私も……ぜひ参加してみたいわ」
気が付けば、さっきまでの沈んだ気持ちは少しだけ軽くなっていた。




