20
夜会の余韻が残る静かな夜、リリエットは寝室の窓辺に佇んでいた。
星の光が静かに降り注ぐ中、彼女の心は穏やかでありながらも揺れていた。
クラウディオが他の令嬢たちの誘いを断り、ただ自分だけを見つめていたこと。
彼の腕の中で踊りながら感じた、久しぶりのときめき。
それは決して過去の甘い夢ではなく、現実のものだった。
――でも、それだけで信じるには、まだ足りない。
彼の変化を認めながらも、長い間積み重なった感情のしこりは、そう簡単には消えなかった。
翌朝、食卓の席には家族が揃っていた。
母が優雅に紅茶を口にしながら、リリエットの表情をじっと見つめる。
「昨夜の夜会、素敵だったでしょう?」
問いかけに、リリエットは少し戸惑いながらも頷いた。
「ええ、とても……」
「クラウディオ様と、とてもお似合いだったわ」
その言葉に、リリエットは思わず視線を落とした。
――私は、本当に彼と釣り合っているのかしら。
「お前の気持ちはどうなんだ?」
エドガーが重く口を開いた。
リリエットは、兄の真剣な瞳を見つめる。
「……まだ分からないの。だけど、もう少し彼を見ていたいと思うわ」
その言葉を聞いて、エドガーは静かに頷いた。
「無理はするな」
「ええ、分かってるわ」
母も父も、それ以上は何も言わなかった。
学園では、クラウディオの変化がより顕著になっていた。
学業も剣術も、以前にも増して優れた成績を収め、学園内での評価はますます高まっていた。
彼はこれまで以上に完璧だった。
だが、それ以上に変わったのは、リリエットへの態度だった。
以前のように冷たく距離を置くことはなく、かといって急に親密になるわけでもない。
彼は、慎重に、そして誠実にリリエットと向き合おうとしていた。
それが、リリエットの心を少しずつ揺らしていく。
「リリエット、今日はサロンに行かないか?」
ある日、クラウディオがそう提案した。
驚いたが、断る理由はなかった。
「……ええ」
クラウディオのエスコートでサロンへと向かう。
そこには、彼がわざわざ手配したという純白の花々が華やかにテーブルを飾り、リリエットが好きなデザートも用意されていた。
「これ、あなたが?」
「君が好きだと言っていたからな」
彼はそう言って、さりげなく花に触れた。
――こんなふうに私の好きなものを覚えてくれているなんて。
それが、かつての彼にはなかったものだった。
それでも、まだ完全には信じられない。
「クラウディオ様は、私のことを知ろうとしているのね」
リリエットはそっと言った。
「……今まで、知ろうとしなかったからな」
「後悔してるの?」
クラウディオは静かに頷いた。
「もちろんだ」
その言葉が嘘ではないと、リリエットは感じた。
「……ちゃんと考えてくれて、嬉しい。ありがとう」
彼はその言葉だけで十分だと言うように、ただ微笑んだ。




