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「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」  作者: もちもちほっぺ


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19/22

19

夜会の会場は華やかな装飾と煌めく燭光に包まれていた。


リリエットはクラウディオの腕を取り、彼とともに会場へと足を踏み入れる。


彼が贈ってくれたドレスは上品な色合いで、繊細な刺繍が施されていた。ドレスと合わせた装飾品もまた、彼が選んだものだという。


――これほどまでに私のために何かを選んでくれる日が来るなんて。


かつての冷たい彼を思い出しながらも、今こうして堂々と自分の婚約者としてエスコートする彼の姿は、確かに変わったのだと実感させられた。


だが、それは彼女だけでなく、周囲の目も惹きつけていた。


――近頃のクラウディオは、ただの美貌の持ち主ではない。


社交界の誰もが知るほどに立ち振る舞いが洗練され、婚約者を大切にする姿勢を見せ始めた彼は、ますます人々の注目を集めていた。


当然、彼に近づこうとする令嬢たちも少なくない。


「クラウディオ様、今夜もお見事な装いですわ」


「もしよろしければ、一曲ご一緒していただけませんか?」


次々と舞踏の誘いが舞い込む。


リリエットは静かにその様子を見つめていた。


彼は、この誘いをどうするのかしら。


――なにしろ、以前は私を別人と勘違いしてダンスに誘った前科があるのだから。


そんな考えが頭をよぎり、思わず視線を逸らしそうになった。


けれど――。


「申し訳ないが、今夜のダンスはすべて婚約者と踊る予定だ」


クラウディオは穏やかに微笑みながら、やんわりと令嬢たちの誘いを断っていった。


「まあ……」


「そう、残念ですわね」


名残惜しげな声が聞こえるが、彼は一切揺らがない。


そして、そのままリリエットの手を取ると、優雅な所作で舞踏の輪へと誘った。


「リリエット」


低く穏やかな声が、彼女の名前を呼ぶ。


彼の瞳がまっすぐにリリエットだけを映している。


その瞬間、リリエットは自分の胸がわずかに高鳴るのを感じた。


――久しぶりに、彼にときめいた。


彼の変化を目の当たりにして、ようやくほんの少し、心が溶けていくような気がした。


クラウディオの手に導かれ、リリエットは舞踏の輪の中へと進んだ。


音楽が優雅に流れ、会場の中央で二人はゆっくりとステップを踏む。


クラウディオの手は確かに彼女を支え、もう一方の手は軽やかにリリエットの腰へと添えられている。


「踊ってくれてありがとう」


彼は微笑みながら、静かにそう言った。


「あなたが誘ってくれたのだから、断る理由はないわ」


リリエットは淡々と返すが、その心は先ほどのときめきに戸惑っていた。


――今まで、こんな気持ちを抱いたことがあったかしら?


彼の瞳は穏やかで、これまでの冷たい態度を思い出せないほどに優しげだった。


「リリエット」


ふと、クラウディオが呼ぶ。


「何かしら?」


「……今夜の君は、本当に美しい」


彼の言葉に、リリエットの足が一瞬だけ止まりかけた。


クラウディオは変わった。


それは分かっていた。


だが、こうして真正面から自分に向けられる言葉が、あまりにも不慣れで、どう受け止めていいのか分からない。


「ありがとう」


リリエットはあえて微笑みながら答えた。


「でも、あなたは他の令嬢にもそう言うのではなくて?」


少しだけ試すような言葉を返す。


すると、クラウディオはくすっと小さく笑った。


「俺が?」


「ええ。今夜だけでも、何人もの令嬢があなたを誘っていたわ」


「それは……」


クラウディオは少し考える素振りを見せたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。


「今夜の俺が目を向けるのは、君だけだ」


その言葉に、リリエットの鼓動がまた僅かに跳ねた。


――まったく、ずるい。


彼の言葉が本心なのか、それとも貴族らしい礼儀の一環なのか、リリエットにはまだ分からなかった。


けれど、今だけは――この瞬間だけは、彼の腕の中で踊ることが心地よく感じた。


音楽が終わり、最後のターンを終えると、クラウディオはリリエットの手を取り、優雅に一礼した。


「素晴らしい踊りだったよ、リリエット」


「……ええ、そうね」


自然と微笑んでしまった自分に気づきながら、リリエットはそっと目を伏せた。


今夜の彼は、確かに自分だけを見ていた。


――この変化を、信じてもいいのかしら?


心の奥で揺れる気持ちを抱えたまま、彼女はそっとドレスの裾を持ち上げ、優雅にその場を後にした。

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