アカウミガメのスープ
「はー、食料がもうねぇーよー」
一人の男が呟いた。
「適当に捕まえて凌ぐしかねぇけど、もっと美味いもの食いてぇよなー」
隣の男がそれに相槌を打つ。
「オメェら! 今日は良いモンが手に入ったぜ!」
三人目の男が、厨房から料理を持って出てきた。
男たちは一斉にテーブルに付き、垂れたヨダレも吹かぬまま、料理の方を凝視した。
「ほれ、ウミガメのスープだ」
その言葉を聞いて、男たちは戦慄した。
「いや……ほんとにウミガメなのか?」
「こういう時に出るウミガメのスープってガチかわかんねーよ」
『ウミガメのスープ』という話は男たちも聞いたことがあった。
人の肉をウミガメの肉と偽って食べさせたという話だ。
もちろん僕らはウミガメの肉も、人の肉の味も知らないので、確かめようがない。
しかし食わなければ飢え死にする。
恐る恐るその肉を口にした。
……思ったより美味しくない。
肉の臭みが多く、味も淡白で期待外れな味だった。
「まあ、文句言ってはいられないよな」
これが人肉だったとしても生き延びれるのならそれでいい。男たちは生き長らえるため、必死で食らいついた。
そうして男たちは生還した。一人の犠牲があったが、偶然にもヘリコプターが通りがかり彼らを助けてくれたのだ。
その後救助された男の一人が、同僚とレストランに来た。
「お待たせしました。アオウミガメのスープです」
出されたものは以前の記憶にあったものとは異なっていた。
臭みはなく、食感はプルプルとしていてコクのある味わいだった。
「以前、海で遭難したときウミガメのスープを食ったんだが、やっぱそれとは違ったな。やっぱりあんときのは————」
人肉だったのだろうか。そう言おうとしてやめておいた。食事中に言うことじゃない。
薄々予感はしていたが、やっぱりそうだったか……という落胆が大きい。
この味を噛み締めつつ、もう一口運ぼうとしたその時だった。
「そのウミガメ、どこで食べましたか?」
同僚が質問してきた。
「あ、えっと……渥美半島のあたりだけど————」
そういうと同僚は鼻から息を漏らすようにして笑った。
「じゃあ多分それ、アカウミガメですよ。ここら辺じゃあアオウミガメは食べられないですし」
なんだか拍子抜けの解答だった。
でも確かにそれは納得な話だ。あの話に引っ張られすぎて、ウミガメか人肉かの二択で考えてしまっていたが、普通に考えてみればウミガメにだって種類はあるのだ。
思えばあの話だって別の種類のウミガメを食べて勘違いしていただけなのかもしれない。
何事も疑いを思い込みにすり替えてはいけない。
そんなことを教訓にして、男は仕事を続けるのだった。




