鎖に繋がれた聖女が隣国の公爵に嫁いだわけ
私はフィーネ・ピアラ。
アストリア王国の聖女をしています。
聖女と言っても……司祭様がお金を稼ぐための道具として使われているだけで、本当に困っている人の助けにはなれていません。
普段は教会の塔に幽閉され、教会に高額の寄付を行った人にだけ癒しの力を与えています。
私の癒しの力は、どんな怪我や病気でも治せるのです。
本当はこの力で困っている人みんなを助けたいのに、そんな事をしたら教会の稼ぎが減ってしまう、と数年前に幽閉されました。
表面上は、癒しの力は教会内の方が強まるから私を塔に住まわせているのだと説明されているようです。
ですが、今日から一週間は塔の外へ出られます。
毎年この時期に行われる、国王主催の狩り大会に出席するためです。
国中の貴族や商人だけでなく、他国からも強い権力を持つ人の集まる場ですから、大きな怪我をする人が居てはいけません。
毎年この時期になると私は大会の中心地で癒しの力を使い続けています。
逃げないように足を鎖に繋がれているので、自由はありませんが。
しかも鎖は頑丈な割に見えにくくて、事情を知らない人からすると私は自分の意思でここに居るように見えてしまいます。
「……久しぶりの太陽。綺麗な空気! これから一週間、良い天気で在りつづけてくれますように!」
狩場である森に囲まれた草原に降り立ち、胸いっぱいに空気を吸い込むと、自然と笑顔になれます。
豪華なだけの塔の中より、こういった自然が私は好きなのです。
特に私はこの草原が好きです。聖女になる前はよく草原で遊んでいましたから。
それにここは、私の髪と同じ色の若草が生えていて、目の色と同じ薄青の花も咲いています。
自然と同化するみたいで、心地良いのです。
そうして迎えた狩り大会一日目。
私は一時間に一回、草原に膝をつきお祈りをします。
怪我をした人が居れば治るように、命辛々逃げ出した獣達が、逃げた先で生きていけるように。
私が祈ると、半径1kmくらいの人や生き物の怪我は治っていくのです。
一日中でも祈っていられるのですが、追い詰めたそばから獲物が回復するようでは狩りにならないので、祈りは一時間に一回です。
あるいは、治療を求める合図として笛が吹かれたらお祈りをします。
お祈りをしていない間は自由です。
鎖の届く範囲で走り回ったり、花かんむりを作ったりして遊んでいたのですが――
「ガルルルルルルルルル」
突然低い唸り声が聞こえたと思うと、大きな獣が私の方へ飛び出して来ました。
真っ黒い毛並みの大きな狼です。
大柄な男性くらい有るのではないでしょうか。
私の居る辺りは隠れる場所の無い平地なので獣がやって来ることは少ないのですが、時々獣が迷い込んでしまいます。
本来なら警護の者が居るのですが――獣が迷い込んで来るなんて滅多にない事だから、離れたテントで司祭様とお茶をしています。
「お……狼さん、落ち着いてください。私は食べても美味しくないです、お座り、お座りです」
刺激しないように、目を見て、ゆっくり後退します。
……後退しますが、鎖に繋がれているので逃げ込める場所が有りません。
狼はジリジリと距離を詰め、私が逃げられないと分かると勢い良く飛びかかって来ました。
「きゃあああっ!」
その場にしゃがんで目を瞑り、痛みに備えます。
が、恐れていた痛みは有りません。
それどころか、キャインと狼の鳴き声が聞こえ、逃げて行く足音さえ聞こえました。
「……?」
恐る恐る目を開けると、短剣を持った男の人が私を守るように立っています。
「大丈夫か?」
褐色の肌、灰色の髪、赤い目。
長い髪を一つにまとめた、背が高くて活発そうな男の人――が、心配そうに私に問いかけました。
――――――――――
「アストリアの聖女様とは知らず失礼な態度を――」
「あわわわ! やめてください、そんな大層な身分じゃありませんから! 気軽に、気軽にお願いします!」
お互いに怪我が無いことを確かめ合い、私が自己紹介をした所、とても丁寧に頭を下げられてしまいました。
確かに聖女というのは肩書きとしては凄いものですが、私は貧民街の孤児院育ち。
この会に呼ばれるような貴族の方には遠く及ばぬ身分です。
「そうですか? ……じゃあ、お言葉に甘えて」
どことなく真面目な雰囲気を纏っていたその人は、いたずらっぽく笑いました。
私よりも歳上に見えるのですが、その表情は子供みたいで、見ているだけで気持ちが明るくなります。
「俺はアレグロ・ヴォルフ。隣国、ルミエール王国から来た公爵だ」
「えっ、あっわ! そうとは知らず失礼な――」
「ああぁそういうの気にしないで良いから! な? 誰も見てないし」
「そ、そうですか?」
「うん。苦手なんだよ、堅苦しいの」
どうもその言葉に嘘は無いらしく、服の胸元を緩めながらヴォルフ様は空を仰ぎました。
公爵、というのは守りが堅くて中々表情を崩さない方が多いのですが……態度からも表情からも素直さが伺えます。
「ヴォルフ様、改めて助けていただいた事感謝申し上げます」
「ん! 怪我がなくて良かった」
今も、とっても爽やかな笑顔で私を見ています。
私が貴族じゃないから、余計な腹芸は不要と考えたのでしょうか?
「聖女様はなんでここに?」
「お祈りのためです、ここが狩場の中心地ですから」
繋がれてなければ、護衛を付けて森の中を歩き回りたい所です。
一人一人直接癒した方が強い効果が出るので。
「なあ聖女様」
「フィーネで構いません」
「じゃあフィーネ、狩りの休憩にここ来ても良いか?」
「構いませんが……」
「ありがとう!」
この狩り大会は、一番大きな獣を狩った人に国王陛下が望むものを一つ与えてくださります。
そから、今まで関わることの無かった人と交流する事もできるチャンスでもあります。
なのに一人でこんな所に居て良いのでしょうか……?
「司祭がずっと俺に取り入ろうとしててな。それが面倒で面倒で……あっ」
私の心配を察してか、事情を話してくれたヴォルフ様はハッとしたように私を見ました。
聖女にとって、司祭は上司ですから。
「お気になさらないで。司祭様ってば教会の利益になると思った方にはすぐ取り入ろうとするんです」
「ふはっ、やっぱりそんな感じの人なんだな」
楽しそうに笑うヴォルフ様。
キラキラした日差しに照らされて、とても美しい人だと思いました。
――しばらく二人で話していると、優しい風が吹き、優しい花の香りが辺りに漂いました。
「あ、お祈りの時間ですわ。少しだけ祈らせてくださいね」
膝をつき、手を組んで祈ります。
この香りは、1時間が経過した事を報せる合図として流される物です。
自然の香りなので、笛と違って獣が警戒して逃げてしまう事もありません。
「怪我が治りますように。みんなが無事に戻りますように」
願いを口にして、お祈りは完了です。
本当は格式ばった呪文が有るのですが、格式通りに祈るよりも心を込めたいと私は思っています。
「終わりました」
「……初めて見た」
「癒しの力は珍しいみたいですからね」
「いや、そうじゃなくて……こう、こんなに心のこもった祈りは初めて見た」
ヴォルフ様は驚いたような顔で私を見ています。
心を込めたことを褒めてくれて、嬉しいです。
「お祈りは気持ちが大切ですから!」
「そうかもな。おし、なんか元気になった! ありがとう。狩り頑張ってくるわ」
「応援していますよ、ヴォルフ様!」
太陽の光に照らされ、ヴォルフ様はニッと笑いました。
「ありがとう! アレグロって呼んでいいぜ」
「はい! ……アレグロ様!」
「おう!」
――その日の夜。
テントに戻された私は司祭様からアレグロ様がこの日一番の獲物を狩ったと聞かされました。
「今年の優勝者は彼で決まりかもしれませんなぁ……」
髭を撫でながら司祭様は一点を見つめています。
彼があの顔をする時は、何か良からぬことを企んでいる時です。
この人は自分や教会に利益のある人と見ればすぐに取り入ろうとします。
ですが、それが難しいと分かれば強硬手段をとります。
私を幽閉したのもその一つ。
アレグロ様が危険に晒されるかもしれません。
早くお伝えして、アレグロ様を守らないと。
ほんの少しお話しただけですが、彼は良い人なんだと思います。
司祭様の良いようにはさせたくありません。
――――――
そうして迎えた翌日。
お昼頃にアレグロ様は私の元へやって来ました。
相変わらず護衛は司祭様とお茶をしていて、草原に居るのは私とアレグロ様だけです。
「司祭様がよからぬ企みをしているかもしれません」
「企み?」
「えぇ。アレグロ様が大会で優勝するのを阻止して、教会にとって利益のある方を優勝させようとしているのだと思います」
突飛な話ですから、信じてもらえるかは分かりません。
「……確かに、可能性はある……か。念の為、根拠を聞いても良いか?」
アレグロ様は少し悩んだようですが、真剣な顔で私の話を聞こうとしてくれました。
「司祭様はご自身と教会の利益以外に興味が無いのです。教会に寄付をする貴族ばかり優遇して、貧しい人々が怪我や病気になっても興味を示さない、そんな方なのです」
「……なるほど」
もう一押し根拠が有れば――そう考えた私の手に、鎖が触れます。
よく考えたら、幽閉や拘束も立派な異常行動です。
「これを見てください」
鎖を手に取り、アレグロ様へお見せします。
アレグロ様は初め、この鎖がどこに繋がっているのか分かっていないようでしたが――
「もしかして、繋がれているのか?」
「はい。私が勝手に民の治療をして、利益を下げないようにと司祭様は考えています。彼は利益の追求のためならどんな非人道的な事でもする方です」
「……分かった。忠告ありがとう」
事態の深刻さが伝わったようで、アレグロ様は険しい顔をしていました。
「……結果なんてなんでも良いと思ってたが、そうとも言っていられないな。……フィーネ、俺は絶対優勝する!」
アレグロ様は立ち上がり、頼もしい笑顔で私を見ています。
「応援しています!」
「おう! ありがとう!」
アレグロ様がどうして優勝を目指すようになったかは分かりませんが、彼がそれを目指すなら応援したい、叶えてほしいと思いました。
光に照らされたアレグロ様はキラキラ輝いていて、見ているだけで心が晴れていくようですから。
――――――――――
こうして狩り大会は続いていきました。
アレグロ様は毎日最大記録を更新していて、優勝は間違いないと言われています。
それに対して司祭様は焦っているようでした。
司祭様には悪いですが、アレグロ様が活躍しているのはとても嬉しく思います。
「いよいよ最終日! 今日も大物を仕留めて絶対に優勝するからな!」
「はい! 応援しております!」
功績を収めながらも、アレグロ様は毎日私の元へ来てくれて、お話をしてくださいます。
「アレグロ様はどうして大物ばかり見つけられるのですか?」
気になって尋ねてみると、アレグロ様はニィっと笑いました。
「貴族は木登りしないだろ?」
「えぇ。……まさか!」
「そのまさかだ。高い木に登って、獲物を探すんだ。それで大きい獲物を見付けたら狩る。こうするだけで優勝は狙える」
「すごいです!」
「それに俺はちょっとだけなら魔法が使えるからな!」
楽しそうに語るアレグロ様は少年のように明るい表情をしています。
話を聞いている私も、つられて笑顔になるんです。
アレグロ様と話す時間は、今まで生きてきたどんな時よりも楽しいのです!
「初日にフィーネを襲った狼を倒せたら良いんだが……アレは凶暴すぎて俺でも狩りきれるか怪しいんだ」
「そうなのですか? すぐに逃げて行ったように思うのですが……」
「逃げさせるだけなら驚かせば良いが、狩るのは難しいんだよなぁ……」
「そういうものなのですね……」
狩りも奥が深いようです。
しょんぼりと顔を伏せたアレグロ様を見ながらしみじみと思いました。
その時です。
「グルルルルルルルルルッ!」
聞き覚えの有る唸り声が、聞こえてきました。
アレグロ様は咄嗟に立ち上がり、短剣に手をかけます。
件の黒い狼が、勢いよく森から飛び出してきました。
「嘘だろう、どうして……」
いまさっき、倒すのは難しいと話していた狼。
それが敵意いっぱいの顔でアレグロ様を見つめています。
「フィーネ逃げ――ッ!」
私に逃げるように言おうとしたアレグロ様は鎖の事を思い出したようです。
私は逃げられません。
「アレグロ様こそお逃げ下さい!」
「嫌だ! 逃げるものか!」
アレグロ様は狼に向き合い、戦うつもりのようです。
私が居なければきっとすぐに逃げてくれたでしょう。私が足手まといになっている。
悔しくてたまりません。
「グルルルァァアアアア!」
おぞましい雄叫びを上げ、狼はアレグロ様に飛びかかりました。
飛びかかられた拍子にアレグロ様が狼の懐へ潜り込み、狼のお腹に短剣を突き立てますが、大きな狼相手に短剣を刺しても大したダメージには繋がらないようです。
「あがッ!」
それどころか、狼はアレグロ様の肩を紙でもちぎるように切り裂きました。
「アレグロ様ッ! お願いします、アレグロ様の怪我を治して!」
必死に叫び、祈りを捧げます。
見る間に傷は癒えますが、それでも依然として狼の優勢は変わりません。
短剣をお腹に突き立てられたまま、狼は大きく後退しました。
アレグロ様は他に弓を持っているようですが、この距離ではつがえることもできません。
「アレグロ様逃げて!」
必死に叫びますが、アレグロ様は狼へ立ち向かいます。
狼もすっかり怒っているようで、これでもかと毛を逆立ててアレグロ様へ飛びかかりました。
「アレグロ様ぁっ!」
目を伏せることもできず、アレグロ様の戦いを見ていた私は、自分の目を疑いました。
狼の体が突然燃え上がったからです。
“それに俺はちょっとだけなら魔法が使えるからな”
アレグロ様は確かにそう言っていました。
でも、何の準備もなしに生き物を燃やす魔法は――
「ちょっとだけの範疇を超えていませんか……!?」
地面に横たわり動かなくなった狼を見て、アレグロ様も驚いたような顔をしています。
「フィ……フィーネ! すごいぞ! なんかな、フィーネに名前を呼ばれたら強くなった気がして、魔法を使ってみたらいつもよりも炎が出て!」
身振り手振り、元気いっぱいのアレグロ様が説明するのを見て、私は思わず力が抜けてしまいました。
「なんですかそれ……ふふふ、アレグロ様……」
「ははっ、なんだろうな」
「ふふふっ……なんにせよ、ご無事で何よりです」
「フィーネこそ。ありがとう」
――――――――――
その後、アレグロ様は大きな狼を提出し、見事優勝を果たしました。
授賞式には私も参加していたのですが、アレグロ様が現れた時の司祭様の顔は忘れられません。
――授賞式の直前まで、アレグロ様は現れませんでした。
測定の時間はとっくに過ぎているのに現れないアレグロ様に、皆様は不安を口々に話していました。
司祭様は口でこそ心配していましたが、表情からは隠しきれない喜びが溢れていました。
司祭様と繋がりの強い、我が国のヴィルトール公爵様が前日のアレグロ様の記録を上回ったため、優勝は彼として決まり、授賞式が始まる――まさにその時、狼を抱えたアレグロ様が現れました。
「おぉ、ヴォルフ公! 無事だったか!」
国王様が安堵の声をかけると、狼を地面に下ろしたアレグロ様は深々と頭を下げました。
「時間に遅れたこと、大変申し訳ございませんでした」
「良い。気にするな。そなたは準優勝者だ。ささ、式を始めよう」
「はっ。しかし、恐れながらご報告がございます」
「なんだ、申してみよ」
この会話の最中……いえ、アレグロ様が現れてからずっと、背後から司祭様がわなわなと震えている気配がしていました。
振り返って顔を見上げると司祭様は顔を赤くしたり青くしたりして、アレグロ様を見つめています。
「この狼をよくご覧になって頂きたい」
「ヴォルフ公! 時間に遅れた上式の進行を遅らせるおつもりか!」
声を裏返らせ、司祭様は怒鳴りました。
しかしアレグロ様は涼しい顔をしています。
「これはこれは司祭様。申し訳ございません。ですが、私には報告せねばならぬ事が有りますので」
「そっ! そんな物は後で良いだろう!?」
「アストリア国王陛下の許可は得ております。それとも何かな? 知られては困る事が有るのですかな?」
「そ……れは」
司祭様の顔色が見る間に悪くなっていきます。
アレグロ様は、普段私の前ではコロコロと表情を変えるのに……ここではまるで、知らない方のように堂々としています。
「それでは報告させていただきます。先程私を襲ったこの狼を調べた所、誰かに操られていたような痕跡が見つかりました」
アレグロ様がそう言うと、会場はにわかにざわつきました。
「そしてその狼の足跡を辿ったところ、住処にてこんな物を発見したのです」
「それは! 教会の紋ではないか!」
「これだけではございません、こちらもご覧下さい」
「ヴィルトール家の家紋!?ではまさか――」
生き物を操る魔法というのは存在します。
しかし、その魔法の発動にはいくつかの条件が有ります。
その中の一つに、術の使用者が何者かを示す物をその生き物の住処に置いておかなければいけない、という物が有るのだと聞いた事があります。
「更に、アストリア王国の聖女であるフィーネ・ピアラ様の護衛が狼の住処を守っていたのです」
「そ、それはまことか!?」
「えぇ。おかしいですね。いつの間にかアストリア王国の聖女は狼になられたのでしょうか?」
司祭様の呼吸がおかしくなります。
「私の知るフィーネ様は森の中心に鎖で繋がれ、祈りを捧げ続ける女性だったのですが」
「っあ!?」
司祭様が上擦った声を上げました。
「何!?フィーネよ、それは本当か?」
「えぇ、国王陛下。事実でございます」
会場はざわつき、司祭様は今にも倒れそうです。
よく見れば、ヴィルトール公爵様も真っ青な顔をしておられます。
「……私からの報告は以上でございます」
アレグロ様がそう言って締めくくっても、会場の空気が変わる事は有りません。
皆が国王陛下に注目し、司祭様達へどのような裁きが下るのか、期待しています。
「そうか。……よく分かった」
国王陛下はゆっくりと考え込んだ後、私を見ました。
「フィーネ。今までそのような事になっているなど知らず、すまなかった。教会からの解放と保護を約束しよう」
「……! ありがとうございます」
「それから……」
国王陛下が司祭様を見ます。
「教会とヴィルトール家への裁判は後日執り行う。覚悟するように」
「ひっ……」
司祭様は短く悲鳴をあげ、バタンとその場に倒れました。
ヴィルトール様もその場に座り込んでいます。
「それから、ヴォルフ公」
「はっ」
「望むものを言ってみよ。今回の狩り大会、優勝者はお主だ」
短い歓声が会場に響きました。
「では、恐れながら――」
アレグロ様は国王陛下を見、そして私を見ました。
「私は――フィーネ様との婚姻を望みます」
会場を、大きな歓声が包みました。
――――――――――
時は遡り、狼を倒した少し後の事です。
呪文の痕跡に気付いたアレグロ様は証拠を集めると言って森へ向かおうとしていました。
しかしその直前、私の方を向いて彼は言いました。
「フィーネが嫌なら断っても構わないのだが……」
アレグロ様は少し照れている様子で、ほんのりと褐色の肌に赤みがさしているようでした。
「その、狩り大会で優勝したら、フィーネが欲しいと願おうと思っている」
「わ、私ですか!?」
「あぁ。初めはフィーネを自由にさせられたらそれで良いと思っていた。でも……」
言葉を区切り、アレグロ様は深呼吸をした後私の手を握りました。
「俺はフィーネと二人で幸せになりたい。どうか、俺と婚約してくれないだろうか!」
アレグロ様の手は暖かくて、光に照らされなくても彼の目は輝いていて。
答えなんて、一つしか有りませんでした。
「えぇ、喜んで!」
――私はフィーネ・ピアラ。
もうすぐ、アレグロ様の元に嫁ぐ事となる、元聖女です!
褐色は性癖です。褐色ヒーロー大好きです。もっと流行れ……!






