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夜話

作者: お金寄越せ

多くの人が集まるこの町は、なぜだか孤独を感じてしまう。そんな馬鹿なことを考えながら、僕はコーヒーを口の中に流し込んだ。

僕は学生時代から、勉強はできる方だった。中学でも高校でも、テストの成績は1位を争ってきた。けど、勉強は所詮勉強で、しっかりと意味をこめた努力なんてした事が無かった。その結果、大学を卒業しても、やりたい仕事が見つからず、営業で上司に振り回される日々、学生時代に積み上げた努力の結果が、この社畜のような自分を作っていると考えると、なんとも皮肉な話だと思う。そんな事を考えながら、1人、公園のベンチでコーヒーを飲んでいると、ふと声を掛けられた。

「おにーさん、隣良いかな?」

顔を上げてみれば、黒のレザージャケットに黒の、ショートパンツ、黒い長髪の、まさにオールブラックといえる女性が居た。

なんで話しかけられたかも分からないまま、隣に座ったその女性は僕に話し続ける。

「おにーさん、そんな顔して、何かあったの?」

...どうやら、赤の他人に心配されるほど酷い顔をしていたようだ。

「まぁ、残業三昧で疲れが溜まったって感じかな..」

「それにしては、思い詰めてる顔してるけど?」

「...このまま社畜みたいな生活をしてていいのかなって、考えてたけど、やりたいこともないし、どうしようかなって」

「ふーん。おにーさん友達居ないんだ。」

、、、

初対面の男になんてことを言うんだこの女性は。

「どうして、その発想になったかは、分からないけど、初対面の人にそんなことは失礼じゃないかな..?僕にだって友達はいるよ、、。」

「じゃあ、なんで友達に相談せず、初対面の話しかけてきた女性なんかに相談したの?」

「何かあったのって聞かれたから、僕は仕方なく答えt」

「それにしてはすらすら出てきたよね?やっぱ色々溜まってたんでしょ。」

「...」

「分かった。じゃ、週に1回、この公園で話そうよ。私もちょうど話し相手が欲しかった所だし。」

「ちょっと待っt」

「じゃ、決まりね。」

「...はい」

そうやってちょっと変わった関係が始まった。

お互いに名前も知らないし、仕事も知らない。何も知らない関係だけど、次第にお互い、くだらないことでも、なんでも話すようになった。

「私さ、最近料理にはまっててね、プリンを作ってみたんだよ。そしたら、材料は変えてないはずなのに、甘くもないし、食感もざらざらで、カラメル部分は苦いし、本体の味は木綿豆腐みたいになっちゃって笑。」

「なにそれ笑。僕も作ったことあるけど、そこまではならなかったよ。ちなみに失敗の原因は何だったの?」

「分からない」

「分からないんだ」

「うん」

こんなくだらない話をしてると、人は次第と明るくなってくる。友達のことを聞いてきたのはもしかしたらそういうことだったのかもしれない。

そんな日々が1ヶ月経ったその日、いつもの日にち、いつもの時間で待っていても、人が来る気配がない。そうして3時間も待ってしまって、もう帰ろうとしたその時、その子が来た。いつもの時間から3時間も過ぎたことを少し言ってやろうと思った時、気づいた。



いつもの服に、大きいリュックとスーツケースを持っている。


「そっか、最後なんだね。」

「...うん。」

「俺さ、仕事辞めることにしたよ。」

「...そっか」

「だからさ、感謝してる」

「それは...良かったよ。」

そこからは、いつも通りくだらない話を10分だけして、最後の時間が来た。

「じゃ、もうそろそろ行くね。」

「うん」

「これ、最後に渡しとく。」

そうして少し縦長な箱を渡された。

「じゃ、またね」

「うん」

そうして、彼女と別れた後、公園で静かにコーヒーを飲んでいたが、そんか感傷に浸る時間も、夜明けによって終わりを告げられた。


そんな奇妙な関係から1年が過ぎた。最後に渡された箱の中身は、1枚の手紙と、少し高級な、ワインだった。手紙には、

「いつもコーヒーばかりのんでて、飲めるか分からなかったけど、まぁ、飲めなかったら友達にでもわけてね。まぁ、友達がいたらだけど、」

最後の最後で煽りを入れてくる性根を褒めてやりたいところだったが、その後の文章でそんな気持ちは吹き飛んだ。

「私の名前は叶。どこかであったらまた話そうね。」

そういえば、名前知らなかったなぁ。

よく考えてみれば名前も知らない女性と1ヶ月つるんでいたのか、そう考えてみると、中々面白い1ヶ月だったなと、そう思った。


そんな僕は、今では新しい会社に務めて、そこそこ頑張っている。忙しいことはあるけど、前の会社みたいに毎日が残業なんてことはない。けど、その日は仕事が重なり、残業になってしまった。

夜遅くに残業から解放された僕は、1年以上も前によく通っていた公園のベンチに座る。

多くの人が集まるこの町は、なぜだか孤独を感じてしまう。けど、そんな孤独を感じる人は、きっと僕だけじゃないだろう。

そんな馬鹿なことを考えながら、1人、コーヒーを口の中に流し込んだ。

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