31. 用意周到な相手にその場凌ぎは通用しない
「はぁっはぁっ…」
「黒田くん、もう1回いきましょう!」
夏の夜、オレと白石は運動に勤しんで汗を流している。
正直バテていて終わりたいが、白石は許してくれない。
どうしてこうなったのかというと…
「先日はプールに行ってたんですね」
「あぁ、そっちこそ蒼井と出かけてたんだってな」
いつも通り白石がうちに来て食事、そして一息。
ルーティンと化したこの一連の流れ。
2人とも無言を嫌うわけではなく、互いに好き勝手過ごしていることが多いが話題があればそれについて話すことが多い。
今日はその日だ。
オレが佑人達とプールに行った日、同じく部活がオフの蒼井は仲良くなった白石と出かけていたらしい。(佑人に聞いた)
「はい、お買い物してゆっくり話せて楽しかったですよ」
「そうか、それは良かったな」
あれ以来随分と仲良くなったらしく、昼間などは定期的に予定が合えば会っているらしい。
もはや佑人にバレているためオレらのことを言ってしまっても文句は無いのだが、律儀に黙ってくれている。
バレたらバレたでウザそうだからありがたいが、窮屈に感じていなければいいのだが。
「それでその時話したことの一つに体育祭の話題が挙がりまして」
体育祭か。
9月の初週の土曜日に行われるため、開催まで1ヶ月を切っている。
応援団などはそういう部活動主体で行われるため、生徒側が名乗りを挙げることもなく、練習の必要はほとんどない。
そのため、話すことなんてほとんど無いように感じるが。
「どんな話をしたんだ?」
「それはもちろん競技についてです」
競技か。
オレは何となく嫌な予感がしつつも続きを聞く。
「蒼井さんと赤城君も二人三脚に出るのですが、定期的に練習してるそうですよ」
「そうか。まぁあの二人は公認カップルだからな」
何となく流れを悟ったオレはそれとなく言ってみる。
オレたちも練習したいと言うのだろうが、オレと白石が2人で練習している所なんか見られてみろ。
考えるだけで恐ろしい。
「そういうと思ってました。私にも考えがありますよ」
オレの返答は予想済みなようだ。
「考えというと?」
「この夜も遅い時間ならこの近所で同じ学校の人と会うことはほとんど無いと思います」
「場所は?」
しっかり走れる場所は限られてくる。
「近くの川沿いがランニングコースになっています。そこならば走っていても不思議じゃありませんし、顔もよく見えないでしょう」
既に用意はしているということか。
確かに二人三脚は互いの呼吸を合わせる必要があり、練習の必要はあるだろう。
もしも本番、白石と組んで最下位など取ってしまったら嫉妬している男子共に殴られかねん。
それは言い過ぎだとしてもいい感情は向けられないだろう。
無難な順位、最悪1位を取っても注目は白石に向くことを考えれば練習の必要はある。
それはわかるのだが、いかんせんやりたくない。
面倒だからだ。
だが、ここまで用意されてしまえば仕方ないだろう。
退路は絶たれたというやつだ。
というやり取りが行われたのが昨日。
そして現在は白石と二人三脚の練習が実施されているというものだ。
2人の短距離走のタイムは男子であるためギリギリオレの方が早いが大して変わらない。
が、身長はオレの方が高いため、一旦どの戦術がいいか色々試している最中。
当然普段運動などしないオレがノンストップで何本も走ればバテる。
そんなオレを見た上で白石はもう一本と言う。
ひどいやつだ。
その上何故か白石が余裕そうなのは不思議だ。
こいつも部活には所属していないはずなのだが。
もう一本、ということでオレの左脚と白石の右脚を紐で繋ぐ。
そして走る時互いの腰に手を添えるため、距離も近く触れなければいけないため結構心臓に悪い。
女の子特有の柔らかな感触に、汗をかいているにも関わらず甘い香りも相まって全く集中できない。
最近毎日会っていて意識していなかったが、こいつは学校でもトップレベルの美少女。
そんな彼女とこの距離感、というかゼロ距離だというのだ。
走るのに集中しろというのは酷な話だと思う。
正直暗くて助かった。
自分の顔がどうなってるか分からないが想像くらい付くというものだ。
これも本番までには慣れる必要があるな。
そうして何本か走った後、白石も流石に疲れたようで練習は終わりとなった。
「今日はこのくらいにしておきましょうか。次回は、そうですね…、明日と言いたいところですが疲労をとるのも大事なので追々決めましょう。どうせほとんど毎日会いますしね」
ということだった。
良かった。毎日とか言われたら流石に無理だ。
家で土下座のひとつくらいしてでも断るまである。
それにしてもスプリント複数回はしんどい。
明日は筋肉痛確定だな。
その後は互いに汗だくということもあり、オレの家には寄らず、普通に解散した。
オレは家に帰るや否や、冷たいシャワーを浴びてなかなか鳴り止まない鼓動と火照った身体を鎮めることにした。




