29. 夏の魔物
現代日本において、娯楽というものは数多く存在する。
外に出ればゲームセンターやカラオケ、ひとたび気合いを入れれば動物園や水族館、遊園地と1日遊べるところもある。
最近では家の中でも豊富なサブスクリプションに動画投稿サイト、もちろんゲームや漫画といった生まれながらに普及していたものもある。
時間を費やそうと思えばキリがないほどだ。
オレは当然家の中で楽しめる読書やサブスクリプションを好んでいる。
漫画やアニメも嫌いではない。
そんなオレも外に出て娯楽を楽しむことが往々にしてある。
映画だ。
上記で言えばゲーセンやカラオケはこの間の打ち上げしかり、人に誘われれば行かないこともないが、動物園や水族館は好んでは行かない。
行けば楽しいのかもしれないが人が多くて歩く場所は嫌だ。
疲れるから。
そんな中映画館は例外で、自主的に外に出る理由の一つだったりする。
サブスクリプションを待てばいいという声もあるが、悪いがそんな長い期間待てない。
映画の予告ってやけに興味を持たされると感じてしまうのはオレだけだろうか。
あの予告とオレの関心が合致してしまったら映画館で見る所まで確定してしまうのだ。
そういうわけで意気揚々と映画館に向かう。
正直歩いて行ける距離にあるのはありがたい。
遠かったら面倒くさがるからな。
映画館は駅と一体になっている商業施設にあり、中には本屋も入っている。
これもまたいい。
映画を見終わったあと、面白かったらだが、原作を購入して違う視点で楽しむというのも乙なのだ。
いかんな。
柄にもなくテンションが高い。
これが夏の魔物というやつか。
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最高だった。
まさかあんなトリックがあったとは。
これは原作でどのように描写されているのだろうか楽しみだな。
意外かもしれないが、オレはミステリーを好んでみる。
特に犯人や犯行のトリックが思いもよらないものだったときは震える。
だが、動機が単純な嫉妬や恋愛絡みといったチープなものは好きではない。
共感もできなければ、面白くもないのだ。
ガ〇レオシリーズみたいな知恵比べを見せてくれたら別だが。
今日の映画は当たりだったこともあり、オレは気分よく施設を闊歩している。
この後も本屋で原作を買い、人の少ない喫茶店か涼しい家で読むという楽しみも控えている。
今日はいい1日になりそうだ。
もう昼過ぎだが。
「おや、奇遇だね黒田君。なんだ、そんなに嫌な顔をしなくてもいいだろう」
本屋で出迎えてくれたのは映画の原作本ではなく、夏の魔物だった。
なんでも、我が校では最も権威のある生徒で知的なクールイケメンメガネといった出で立ちに反して意外にもノリがよく燥ぐことも多い先輩だ。
「いえ、こんにちは会長」
生徒会長だ。
「こんな所で会ったのも何かの縁だ。少し時間はあるかい?」
会長は当然のようにオレを誘う。
別に親しい間柄ではないのだが、何か話があるのだろうか。
「あぁ〜…、実は忙しくて」
もちろん断らせてもらう。
こんな往来の場で会長と一緒にいるところなんて同じ高校のやつに見られたらどう思われるかは想像に容易い。
よく知らない先輩ならまだしも、クラスメイトとでもなればまた変な視線を浴びてしまう。
「そうか、それは残念だ。君のために話があるというのに」
オレのため?
オレは少し考えた。
……。
「すいません。勘違いでした。是非ご一緒させてください」
手のひらクルンクルン。
「そうかそうか。それは良かった。ではそうだな。君も人目に付く場所は嫌だろう。カラオケなんかはどうだい?」
「ご配慮ありがとうございます」
オレとしてもありがたいので礼を言う。
「さて、何か頼もうか」
カラオケに着いて部屋に入るなり、タブレットを手に取って注文を聞いてくる。
カフェみたいな使い方するな。
奢りと言われたので遠慮なく頼むが。
「それじゃあ黒田君、聞きたいことがあるだろう?」
会長は分かってる、とオレに質問を促す。
まぁそういうことだ。
わざわざオレに思い出させてくれるとはありがたいことだが。
「白石に生徒会の勧誘をしたんですね」
そう、この間の白石の話だ。
いけにe…、代役として推薦した白石だが、オレが入らないなら断ると言っていた。
その言葉で動揺して忘れていたが、白石が生徒会に入らないならオレの件は全く解決しないということだ。
正直困ったが、わざわざオレにそんな忠告をしてくれるということは勝機はあるのだろう。
「あぁ、でも反応はあんまり良くなくてね。恐らく入ってくれないだろう。そうなったら君を任命するしかないかな?」
冗談ぽくそんな言葉を飛ばしてくる。
いや、恐らく冗談なのだろう。
わざわざ言う必要のない忠告。
白石にすぐに声をかける行動力。
生徒会長という人脈の広さ。
まさか他の候補者がいないわけはない。
と、いうことはだ。
「会長はオレに何をお望みですか?」
オレのこの発言に、会長は待ってましたと言わんばかりにニンマリ笑う。
「実はな…」
そうして会長は望みを話した。
「実際に行うのは二学期で構わないというか夏休みの内は無理だろうしな。過程やその結果起こることにも基本的には目を瞑る。なんならできる限りは協力する。これを成功してくれたら生徒会の話は無かったことにしよう」
と、いうことらしい。
正直大変だが、会長からのタスクをこなして平穏を取り戻そうじゃないか。
その後、オレは気を取り直して改めて本屋に向かった。
それとこれとは別というやつだ。




