23.才能を隠すのには才能が必要だが、それを上回る才能には見つかってしまう
終業式。
学校などにおいて学期が終業することを祝う式典のことを指す。
我が校では体育館にて全校生徒及び教師陣を集めて行われる。
普段ならば校長先生の無駄に長い話には興味が湧かないし長いことに腹を立てることすらあるが、今日ばかりはそれも笑って見逃せる。
体育館で総勢約1000名が集まっていて熱くても、生徒会からの注意喚起や誰かも分からない先輩の表彰式が行われていても、壇上の生徒会長とやたらと目が合うような気がしていても気にならない。
そのくらい機嫌がいい。
この午前中で終わる拘束期間が過ぎ去れば、およそ40日にも及ぶ自由時間が与えられるのだ。
暑い中外を歩いて学校に向かう必要も、朝も早くに起きる必要もない。
こんな幸せなことがあっていいのだろうかと思える日々が待っている。
夏休みだ。
一応8月の頭とお盆明けに登校日が設けられていて、8月末には模試も控えているが、そんなもの些細なことである。
この一学期という4ヶ月近くもの日々を過ごしきったご褒美というものだ。
これを味わえるのも学生のうち。
存分に満喫してやろうというものだ。
聞き流していた式典も終わり、あとは教室でHRをして解散というものだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ほいそれじゃあ、テスト結果と通知表配るぞ〜」
最終日もいつも通り気怠げに話すのは担任の橙堂先生。
今日は終業式ということでいつもの白衣ではなくスーツ姿だ。
入学式の時はそんなこと思わなかったのに、今では似合っていないように見えるから不思議だ。
「ちなみに赤点のやつは成績表の点数が赤くなってるからな」
我が高校では赤点は晒されるということは無く、個人のテスト結果が書いてある成績表の数字が赤くなっていることで知らされる。
まぁ答案の時点で察してるはずだが。
オレは今回は期末で科目数も増えるということで平均75点くらいを目安に得点した。
だが、勉強するやつはしっかりするらしく、順位としては中間より下がって50位という結果だった。
評定の方もほとんど4でたまに5というすごく高いわけではないが、それなりに高いラインだった。
目立つことないちょうどいいラインというやつだろう。
今のところそのつもりはないが、推薦で大学受験に望むと決めた時にシフト出来なくもない成績だ。
2年の後半とかになると間に合わなさそうだが。
「それじゃあ一学期もこれにて終わりだ。次会うのは登校日だな。古典が赤点のやつは来週の月曜から補習だから忘れるなよ〜。それじゃ、解散」
橙堂先生がそう言って締めると、クラスは騒がしくなる。
夏休みの予定を話していたり、テスト結果や通知表がどうのこうのと言った話だ。
部活組は本日も部活動があるようで、昼食を持参し、部活動に備えている。
そんな部活組である祐人が近づいてきた。
帰りの挨拶でもするのだろうか。
律儀なことだ。
「あ、真。なんかキャプテン…生徒会長が生徒会室に来てくれって呼んでたけど、真って面識あったの?」
爆弾を携えて来やがった。
正直全く祐人は悪くないのだが、今だけは無視して帰りたい。
まぁ目の前に来て目もあっているのにそれは無理か。
「面識は無いぞ?それより、それって聞かなかったことに出来たりするか?」
オレはダメ元で聞いてみる。
「気持ちはわかるけど、そんなことしたら僕が怒られちゃうよ。それに何かやらかしたとかないでしょ?きっとそんなに大変じゃないよ」
流石に無理なようだった。
まぁ祐人としては部活の先輩から直接頼まれてるわけだしな。
断れないだろう。
非常に不本意だが、今日は機嫌がいいからな。
それにオレの我儘で祐人に余計な苦労をかけるのもな。
「わかった。生徒会室だな?」
オレは了承して渋々生徒会室に向かうことにした。
「僕も同席したいんだけど、部活があるから…」
「いや、オレに用があるんだろ?気にする必要ない」
ほんとに祐人は気にする必要がない。
何の用かはわからないが、オレをご指名であり、たまたまオレと会長を繋ぐのに最も適していた祐人がこうして間にたっただけ。
祐人に非は全くない。
オレは嫌な予感を無視して生徒会室に向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「1年A組、黒田真です。何やら会長が用があるようで出向かせてもらいました」
オレは生徒会室に入り、会長しかいないことを確認すると棘を含む挨拶をさせてもらった。
「やあ、待ってたよ黒田。立ってないでそこに座りたまえ」
オレの皮肉に気づかなかったのか、それとも意に介してないのか、全く触れずに椅子に座るよう促す。
早く帰りたいが、従わない理由もないため会長の目の前に座る。
「昼食もまだだろうし、手短に済ませるつもりだから安心してくれ」
オレの帰りたいという意思が伝わったのか、会長がそう言ってくれる。
「お気遣いありがとうございます。それで、用件って何ですか?」
「そうだなぁ…。この学校の生徒会選挙がいつかは知ってるか?」
「はい、11月の頭ですよね」
「そうだ。そしてそれまでに体育祭、文化祭といった行事も含まれている」
「そうですね」
オレは適当に相づちを打つ。
「当然次の生徒会には今の2年生だけでなく1年生も加わる必要があるな」
「そうですね。そうじゃないとその次が大変でしょうから」
「その通りだ。だが、今のままでも良くないのだが、何故だか分かるか?」
「11月に発足される新生徒会。任命された1年生は未経験で慣れるまでに時間がかかりますね」
「そういうことだ。毎年11〜2月にかけては運営に苦心しているというのが現状だ。俺が会長になってからも苦労した」
会長は昔を懐かしむように語る。
「で、だ。今年からは有望な1年生には早めに声をかけて9月までには生徒会に入ってもらうという試みをすることが決まった」
「9月、ですか。となると体育祭から生徒会として運営に関わっていくということですか?」
「いや、流石に体育祭は現生徒会と放送部を中心にやらせてもらう。だが、その次の文化祭には文化祭実行委員の取りまとめ役として俺に同行してもらうつもりだ。それに日常の業務には参加してもらうしな」
「つまり、早い段階で生徒会の仕事を間近で観察、体験することで新生徒会への引き継ぎをスムーズに行えるということですか」
「そういうことだ。理解が早くて助かる。そしてその候補に上がったのがお前というわけだ」
なるほど。言いたいことはわかるし、納得もできる。
秋口に生徒会として任命されて、「はいそれじゃあこれやって」となったとしても慣れるのに時間がかかる。
2年生も役職が変わったり引き継ぎ作業があったりして面倒を見きれる余裕がない。
だが、活動になれていて3年生もいる、1年生も合わせて最も多い時期ならば作業を教える余裕も手間も作れるだろう。
だから会長のこの試みは納得できるし、非常に効果的だ。
が、
「なぜオレなんですか?他にも素晴らしい生徒はたくさんいるでしょう」
そう、オレに話を持ってきたことだけは不可解だ。
「生徒会長とはいえ、俺だって万能じゃない。フィクションみたいに生徒全員の顔と名前、能力を知っているわけも当然ない。だからこそオレの目に留まった生徒から選ぶしかないわけだ」
「オレがお眼鏡にかなう理由を聞いても?」
「クラスマッチ、見させてもらった。あの試合は一見祐人のやつが無双して勝ったように見えたが実態は違う。颯太のチームにはレギュラーではないとはいえサッカー部が4人も居た。いくらなんでも祐人と秀俊2人で崩せるわけはない。そんな中で颯太のチームを丸裸にして弄んで見せた奴がいたな」
会長は思い出しながら視線を上に向けて当時の状況を説明する。
が、視線がオレの方に向いて言い放つ。
「そう、お前だ。見事にウィークポイントを突いただけでなく、精神状態まで把握して完璧な試合運びを見せていた。俺らとの試合では実力を見せなかったわけだがな」
理由もわかっていると言いたげな顔だ。
つい先日に引退したとはいえサッカー部のキャプテンだった会長が部内の問題を知らないはずがない。
そして、オレの動向から察したということだろう。
「偶然という線は?」
「無いな。いや、偶然だったとしても構わない。生徒会としてはその洞察力というよりは実行力が欲しいからな。確かに計画を立てるだけならできる生徒は他にもいるだろうが、それを遂行してみせることができるのは1握りだ」
なるほどな。
確かにそれなら偶然でも構わないわけだ。
たまたま弱点を突く形だったとしても作戦を立て、実行した事実は残る。
そしてそれが重要であると言われたらお手上げだ。
「今すぐ色良い返事をもらえるなんて思ってない。ただ、生徒会はお前を歓迎しているということを知ってもらえれば充分だ。夏休みの1ヶ月が経って後ろ向きじゃなければ検討してほしい」
今日はそれを伝えたかったと言って話を締める。
正直入る気はサラサラ無いが、任命されてしまったら断れない可能性がある。
手は尽くさないとな。
「いくつか聞いていいですか?」
「構わない。俺だけ一方的に話すのも不公平だしな」
「ありがとうございます。まずは、オレの他に声掛けした生徒はいるんですか?」
「いいや、お前が1人目だ」
《《1人目》》ということは誰か候補自体はいるのだろう。
もしかしたらこの後か登校日などの後日にでも話の場を設けるつもりではないだろうか。
ならばまだ諦めるには早い。
「そうですか。今回の件ですが、もしも他に先輩のお眼鏡にかなう人がいたらそちらにも声掛けはするつもりですか?」
「そうだ。が、正直ハードルは上がっているからそうなる可能性は低いと言わざるを得ないな。あまり人数が増えすぎるのも生徒会の格が下がる。そうなるとお前が断るとしたらあと2人までだな」
「まぁ誰でもいいならこうやって人選する必要はないですもんね」
そうなると紹介する人選は慎重に行うべきか。
それに、オレの魂胆は見え見えだったようだな。
まぁこんなこと聞くなんて理由は1つしかないし、仕方ない。
悪い顔されないだけ十分としとくか。
「2つ目です。1つ目と被る部分はありますが、浅野や祐人は考えなかったんですか?」
浅野はオレの作戦を実行できたし、オレよりも人脈、人徳に優れている。
祐人もそうだ。
さらに、生徒会は生徒の顔だ。
友達も多く、生徒会長と同じくサッカー部で容姿も整ってる。
見え方としては目立たないオレよりもいいはずだ。
格が上がる。
「秀俊はともかく、祐人はダメだな。あいつは生粋のストライカー。運営よりも斥候の方が向いてるだろう。そういう意味では秀俊は悪くないかもしれないな。献身的だ」
伊達にキャプテンというわけではなさそうだ。
2人の特徴をしっかりと把握している。
「では、浅野も候補に加えると」
「可能性としてな」
オレの汚い大人のような揚げ足取りは悠々と躱される。
手強い。
「では、この2人も逸材なので考えてみてくれるといいと思います」
そう言ってオレは2人の生徒を挙げる。
会長は一考して
「そうだな。教師の評判なども大事だから聞いてみるが、お前の話が本当なら勧誘だけでもしてみよう」
そう答えた。
「だが、今のところの本命は黒田、君だ。次会う時までにしっかり考えておいてくれよ?」
そして、話は終わりだと会長は席を立った。
オレもそれに倣って生徒会室を退室し、会長とは別れた。
はぁ…。
困ったことになってしまった。
生徒会なんぞに入ってしまったら日々の生活が忙しくなってしまう。
せっかく色々片付いて平穏に過ごせそうなんだ。
こんなすぐに失っていいはずがない。
オレは抗うすべを考えるべく思考に耽た。




