閑話 感じられる成長 (白石美優視点)
最近、見える景色が変わったような気がします。
相変わらずクラスの皆さんは私に仲良くして下さり、毎朝挨拶をしてくれるのですが、以前のようにあたふたすることは無くなりました。
それに、ニュースなどを見ている時、以前はその出来事が起きたことを事実として確認する、言ってしまえばただ眺めてるだけでした。
ですが今は、どうしてそうなったのか、どういった人がどういった思考でそれが起きたのかなど周辺についても考えるようになりました。
すると、その出来事に対する見え方、感情は変わってきました。
これがいいことなのかは分かりませんが、私は悪い事だとは思えないのでよしとしましょう。
変わった要因はハッキリしてます。
黒田くんです。
黒田くんは物事を大局的に見ていて広い視点から考えを固めています。
雑談ひとつとっても私には到底考えつかない可能性を示してくれるのです。
そんな黒田くんと関わるようになってから私もそういった思考を意識するようになったのかもしれません。
それに、黒田くんといると新しい自分に出会えます。
黒田くんの家で二人でいると凄く落ち着きます。
人の家であんなに落ち着けるなんて初めてでした。
それに、黒田くんには凄く頼ってしまいます。
同級生に頼りがいを感じるのも初の経験です。
もしかしたら気づいてないだけで他にもあるのかもしれません。
そんな黒田くんと関わり始めて2ヶ月、クラスマッチが行われました。
チームメイトの蒼井さんとも仲良くなることができましたが、これも黒田くんのアドバイスのおかげでした。
そんなクラスマッチの中、黒田くんが出場した試合ですごい光景を目の当たりにしました。
優勝候補と言われているチームを圧倒していたのです。
それもこの力ではなく、先述で、です。
試合中やハーフタイム中、チームの中心は間違いなく黒田くんでした。
あの場の何人が気づいたのか分かりませんが、チームメイトの視線や蒼井さんの
「黒田のやつ、イカついことしてるわね」
という一言で確信できました。
普段は大人しく目立たなく過ごしているのにチームメイトの信頼を得るというのは簡単な事じゃありません。
少なくとも私には出来ないことです。
そんな黒田くんが遠い存在に見えて、寂しさを覚えました。
そして黒田くんのチームは勝利を収めました。
試合後の黒田くんを見ていると、目が合ったので咄嗟に笑みを浮かべて何とか誤魔化したのは気づかれてないといいですが。
蒼井さんが泣いていて、赤城くんが抱き寄せていたのを見て、黒田くんが奮闘した理由が分かりました。
しかし、それと同時に何か羨ましいというような感情が浮かびました。
黒田くんを見ていると何か分かりそうでしたが、焦って微笑んだので結局分からずじまいです。
そして、迎えた1-Fとの試合。
前半こそ蒼井さんとの連携で善戦できましたが、内容を見ると後半は手詰まりといった状況でした。
あの時は負けを覚悟しましたが、見に来てくださった黒田くんが視界に入り、黒田くんならどうするかを考えたら何となく相手チームの戦術が見えた気がしました。
実際、策は大当たりで無事に勝つことができました。
ですが、自分でチームメイトに説明する勇気はなく、結局蒼井さんを頼ってしまったのは不甲斐ないばかりです。
ですが、黒田くんと関わる前の私なら自分でどうにかしようとして自滅していたような気がします。
そして試合後黒田くんを見て、自分の感情に気づけました。
私は黒田くんに憧れていたのです。
常人を上回る思考で解決策を導き出すところ、それを自分のためでなく他人のために使えるところ。
いい所を挙げ出すとキリがありません。
そんなあなたのように私もなりたい。
あなたに並び立てるようになりたい。
それを自覚した瞬間、黒田くんに見て欲しくて、見てもらっていた事実が嬉しくてつい笑顔をうかべてしまいました。
柄にもなくはしゃいでしまったのです。
これも恥ずかしいのでバレてないのを祈ってます。
そして今日。
体育祭の種目決めが行われました。
出来れば黒田くんと一緒の競技に出たいですが、黒田くんは男女一緒のリレーや二人三脚には参加しないようでした。
それなので、私も様子を見つつ徒競走と借りもの競走に立候補しました。
ですが、チャンス到来です。
なんと黒田くんが二人三脚に出ることになったのです。
本人は騎馬戦を希望してたようなので喜べることではありませんが。
しかし、クラスマッチ以降黒田くんはクラスメイトの女の子から注目されています。
元々、授業中に当てられてもクールに何でも答える賢い生徒として見られていたのが運動までできるということで何人かの生徒は意識しているようなのです。
その証拠に二人三脚の男子が黒田くんに決まった途端、数人が自分が行こうかという素振りを見せ始めました。
私はいてもたってもいられず、すぐに手を挙げ、
「はい、私が二人三脚に出ます」
と言いました。
こうしてしまえば後からは言いづらく、間があったことにより、誰もいないからやるといった自然な流れに持っていけるからです。
蒼井さん曰く、この思考は黒田くんぽいそうですが。
黒田くんならもっと完璧にできたような気もします。
実は、こうして公の関わりを作ることで学校でも話す糸口にするつもりだったりもします。
黒田くんは目立ちたくないからって私と学校で話すのを嫌がってますが、もういいでしょう。
赤城くんや蒼井さんだけでなく、浅野くんや席の近い女子生徒とも話してるではありませんか。
ペアになれば練習を理由に会う口実にもなりますし。
そして放課後、私は黒田くんの部屋に来ました。
正直いつもは無視されたくなかったから用件を持って黒田くんの家に行っていましたが、夏休みになるとそんな用件も尽きてしまいます。
ですが、もっと黒田くんと関わっていたい私は思い切って言ってみました。
「夏休みになってもこうして遊びに来てもいいですか?」
黒田くんは了承した後に席を外しました。
ですが、良かったです。
こんな顔を見られるわけにはいきませんから。
私は黒田くんが戻ってくるまでに顔の熱を冷まし、表情筋を意識して努めて冷静になろうとしました。
そして、足音が聞こえます。
黒田くんが戻ってきたのでしょう。
黒田くん、私は成長できているでしょうか。
そして、いつかあなたに並び立てるでしょうか。




