22.不意打ちが1番強い
無事(?)競技決めも終了し、帰宅してほっと一息。
気持ちを落ち着けるために淹れたハーブティーの香りを楽しむ。
「カモミールティーですか、落ち着くいい香りですね」
目の前には当然のように来ている白石。
こいつが割と頻繁に来るため、茶の種類が豊富になった。
何なら好みの物を探したりするのを楽しんでたりする。
何となく気づいたことだが、コイツは何か事が起こった後に家に来ることが多い気がする。
テストや模試のあとの復習や、クラスマッチの種目決めの後といった時だ。
逆にあいつらみたいにテスト前に教えを乞いには来ない。
そこは自力で頑張ろうという意志があるのだろうか。
そして、来る時は連絡こそ寄越さなくなったが、必ず何か要件を持ってくる。
先述の復習や種目決め後も聞きたいことを携えて来た。
今さら暇つぶしのためにやって来たとしても怒ることは無いのだが。
面倒で居留守を使う可能性は高いがな。
そういう意味では要件がある時にやって来るのは対オレという観点で効果的だと言える。
用があるなら無下にはしづらい。
今日の要件はまだ聞いていないが、体育祭の件だろう。
「で?今日は何の用だ?」
わざわざオレが聞くのも様式美。
「体育祭、二人三脚で一緒に出ることになりましたね」
白石は笑みを浮かべつつ、今日起こったことを話す。
「そうだな、立候補してくれたのは正直助かった」
オレは正直に思ったことを話す。
女子と組まなければならないなか、こうしてクラス内でも蒼井を除けば最も親しい人間といえる女子と組めたのは幸いなので感謝はしてもし足りないのかもしれない。
「いえ、誰かがやらなければならないことですから。それに黒田くんは知らない人じゃないですし」
白石は当然といった様子でオレの感謝を受け取る。
白石はオレより社交的で男子人気も高いから誰とでも組めそうなものだが。
むしろ最初から白石が立候補してくれてれば他の男子がこぞって立候補してくれてオレは出なくて済んだのでは…?
いや、これは意味の無い思考か。
誰もやる人がいなかったから白石は立候補してくれた。
つまり白石が最初から立候補した世界線はありえないのだ。
純粋に感謝だけしておこう。
「あの、用件ですが、いくつか質問がありまして…」
「1つ目なのですが、クラスマッチの見に来てくださった試合の時、あのパス回しを捨てて中だけを守ることにして結果勝てたのですが、黒田くんならどうしてましたか?」
クラスマッチの話か。
確かにクラスマッチ以降はテストがあったため、オレの家に来ていない。
学校では特に関わりがないため、聞く機会が無かったといえばその通りだ。
「オレも同じことをしていた。あの洗練されたパス回しは脅威だったが、練習できる期間なんて1ヶ月足らず。ミドルレンジや3ポイントなんて練習する時間はなかったはずだからな。まず入らないはずだ。それに、紫条は賢い。練習しても成功率がほとんど上がらない遠くからのシュートを練習するくらいならゴール下を確実にする。フィニッシュの制度が高いなら乱打戦になっても勝ちきれるからこの戦術を取ってるかもという疑問にも信ぴょう性が増すし、ほぼ間違いないと思った」
オレはあの時思ったことをそのまま口にする。
白石は一瞬嬉しそうな顔をしたが、オレの話を聞いていくうちにだんだんと落ち着いていった。
「そこまで考えていたのですか。私は何となくそんな気がしただけでしたのでまだまだというわけですね」
残念そうな顔で自信をそう評する。
が、5月の頃とは段違いだ。
直感だったとしてもそうかもしれないと感じるにはある程度以上の洞察力が必要。
しかもオレは外から見ていて紫条の能力や性格をある程度把握している。
一方白石は紫条については学年1位ということしか知らないだろうし、対戦相手としてプレーしていて大局的に見るほどの余裕はなかった。
そんな状況下で「そんな気がした」と感じられるのは充分に凄い。
もしもあの時にこれだけの能力が備わっていればオレがでしゃばらなくても自分で解決出来ていた。
たったの2ヶ月でここまで変わるものか。
もしかしたら…。
「そして2つ目の質問ですが…」
思考に没頭するオレを現実に戻したのは2つ目の質問だった。
「なんだ?」
オレは思考を止めて聞く。
「夏休みになってもこうして遊びに来てもいいですか?」
オレの頭は一瞬真っ白になった。
そんな中、顔に血液が集まっていくのがわかった。
「あ、ああ。それは別に構わない、ぞ?」
オレは必死平静を装って答える。
「本当ですか!?嬉しいです」
白石は今日一嬉しそうに反応する。
「悪いが、少しトイレに行ってくる。どうやらハーブティを飲みすぎたらしい」
そう言ってオレは頭を冷やすために席を立った。
トイレに入るとドアにもたれかかり、そのまま力が抜けて腰を下ろす。
20秒ほどそうしていると冷静になってきた。
が、クリアな思考で先程の言い訳がわざとらしすぎるのを思い出し、また顔を熱くさせて戻るのにもう30秒ほど時間を要した。




