20.嘘は真実によって隠されることがある
クラスマッチの翌日、土曜日だ。
クラスマッチを木、金に設定しているのは疲労を次の授業に残さない配慮か、はたまた振替休日というものを作りたくないという思惑からか。
きっと考えない方がいいのだろう。
そんな土曜日、正直筋肉痛で動きたくなく、ベッドの上に1日居たいのだが…
「真、今回の件本当にありがとう。正直真が居なかったら勝ててなかったよ」
「ほんとにあんたに頼んで良かったわ。私からもお礼を言わせて」
祐人と蒼井が家に来ている。
クラスマッチの件の礼がしたいとのことだった。
流石に礼と言われれば断りづらく、義理堅いこの2人のことだ、後日という形で結局機会が訪れるだろう。
なんなら教室で堂々と言われて、この話が他の生徒に漏れるかもしれない。
この2人がそんな迂闊なことをするとは考えにくいが悩みの種が無くなった今、浮き足立っていても不思議ではない。
そういうわけで家に招き入れたわけだ。
「いいいい。気にしないでくれ。オレとしても親友のピンチをほったらかすなんてしてられるわけないだろう。むしろ蒼井が知らせてくれて助かったくらいだ」
そう、これは本心。
何度でも言うが、祐人が嫌がらせを受けていると聞いた時は本気で潰してやろうと思っていたくらいだ。
まぁ次はオレが標的になるみたいな面倒事になるのも嫌なので穏便な解決策を模索したわけだが。
「でもあの時瑠奈から話を聞いた時は本当に驚いたよ。まず何で知ってるんだろうって思ったし、真を巻き込みたくなんてなかったし、でも真なら何とかしてくれるんじゃないかって複雑な気持ちだったね」
「私も祐人ならそう感じると思って秘密裏に黒田に伝えるつもりだったんだけどね。黒田が協力の条件に祐人にも話を共有することを言われたのよ」
「流石に祐人の協力は必要不可欠だからな。サッカーというチーム競技においてオレ1人でどうにかするっていうのは無理だ。他のチームメイトも巻き込む必要がある。それには祐人の求心力が必要だったし、戦術も立てにくい」
これが祐人と大友先輩のタイマンならオレに協力を求めなかっただろう。
が、その場合はオレの介入もできなかったわけで、穏便にそして正当に勝負が行えたか怪しい。
だがこれは実現しなかっただろう。
勝負をどう見ても有利なクラスマッチで挑んでくる時点で先輩は心のどこかで祐人に対する敗北意識のようなものを持っていたのかもしれない。
後はそれを浮き彫りにしてあげる必要があったのだ。
まぁ終わったことをどうこう言っても仕方がない。
「ということでこの話は終わりだ。ところで大友先輩は大丈夫そうだったか?」
本気で叩き折るためとはいえ、正直やり過ぎた感は否めない。
最悪大友先輩が部活を辞めるとか言い出してもおかしくないのだ。
祐人や浅野ならともかく、サッカー部でもないオレや加藤にすら点を入れられてるわけだし。
あの試合、大友先輩には何もさせていないわけだしな。
自信喪失していなければいいが。
試合中のあの姿勢、そして性格を鑑みるに、努力を惜しまないタイプのようでかつての自分と重なったところはある。
オレは折れてしまったが先輩はどうか無事であってほしい。
そのためにもオレは目立たないようにしていたところもある。
サッカー部でもないやつに完膚なきまでに負けたとあったら気が気でないかもしれない。
単に目立ち過ぎて面倒ごとに発展するのが嫌だったのもあるが。
「それは心配ないよ。あの後先輩からL○NEが送られてきて、謝罪と、宣戦布告を受けたよ。「今度は正々堂々とボジション争いでレギュラーを奪う」ってさ」
「それは良かった」
オレの想定よりも強い精神を持っていたようだ。
「と、こ、ろ、で」
話も終わり、蒼井が別の話をするぞと楽しそうに転換してくる。
「やっぱり黒田って美優と仲良いでしょ」
美優、か。蒼井は随分と白石と仲良くなれたらしい。
そしてやはりその話か。
バスケの試合の後、何か言いたげだったからな。
だが、素直に頷くのも癪なので
「どうしてそうなった。それに前も答えただろう」
「だって試合の後美優ったら黒田の方を見てたじゃない」
「オレじゃなくて他のやつかもしれないだろ。現にあの場にはオレ以外にもたくさんいただろう」
「でも、僕らの試合の後も応援に来てた白石さんが真の方を見てたよね」
チッ、余計なことを
「それにあの試合、前半はジリ貧だったけどハーフタイムに美優が作戦を考えてくれたの。それがハマって勝てたんだけど、あれって黒田の思考と似てるのよね」
「僕も思った。あの相手の戦術を観察して弱点を突く考え方、真の常套手段じゃないか」
2人揃って楽しそうに口撃してくる。
ニヤニヤしやがって、そんなに楽しいか。
だが、ここまで確信を持たれて誤魔化すのは無理があるだろう。
ここは1つ手札を公開するしかないな。
「お前らの言いたいことは分かった。だが、オレと白石は別に仲がいいというわけではない」
「この期に及んでまだ否定する気?」
「真、諦めも肝心だよ」
オレが悪足掻きしていると思ったのか2人は呆れたような顔をする。
が、次の言葉で目の色を変える。
「5月に白石が冤罪にかけられる事件があっただろ?」
「「っ…」」
2人が思い出したかのように息を呑む。
「あの時、祐人は特に察してたようだが解決したのはオレだ。そしてその手法を白石には流石に話してある。だからオレと似たような考え方が備わったんじゃないか?」
これは真実だ。
そう、オレはひとつの真実を公開することで残りの事実を隠すことを試みた。
真実なだけあって話に粗などない。
それを感じ取った2人はそれ以上何か言及しようとはしてこなかった。
まぁこの話には穴があるのだが。
流石にたった1度でオレのような思考力が身につくわけがないだろう。
特に蒼井は白石の性格を知っているはずだ。
オレなんかとは似ても似つかない。
が、この真実というカードの効力は強くオレが素直に観念するかのように話すことでその思考には至らないようだった。
1の真実で10の嘘をつけると誰かが言っていたがまさにその通りだろう。
別に隠さなきゃいけないことじゃないが、今クラス内で目立ち始めている状況で白石と交流があることまでバレてしまうと敵を作ってしまうかもしれないからな。
もう少しだけ我慢してくれ。
後は楽しそうにからかってきやがったのが腹たったというのも無くはないが。
お詫びと言ってはなんだが、再来週の期末テストの対策、手伝ってやるよ。




