閑話 浅野秀俊の独白
小さな頃から勝ち組だった。
自分で言うのもあれだが、恵まれた容姿に身体能力、頭脳においても優れていた。
1番というわけではなかったが、勉強も上位、運動も上位で中学の時はサッカー部のキャプテンも務めていた。
コミュニケーションも苦手でなく、たくさんの友人に恵まれ、女の子にもモテていた。
部活動も流石にクラブチームには劣るが、それらが参加しない総体においては全国大会を目指せるほどのチームでちょっとやそっとじゃ負けないし、負けても惜敗といった形になるから完敗といった敗北感はあまりなかった。
そんな順風満帆な中学生活を送っていた中学2年生の時。
夏の大会が終わって3年生も引退し、新キャプテンとして初の大会。
この大会はクラブチームも参加するため毎年強度の高い試合ができる大事な大会だ。
1回戦はシードとして免除され2回戦が緒戦だ。
対戦校は無名の中学。
1人トレセンで見かける赤城君が居るが、それだけのチームだ。
赤城君のプレースタイルは知っているし封じるのは難しくないため負ける要素などない。
チームの皆も同様のようで悪く言えば弛んでると言われても仕方ない雰囲気ではあった。
そうして試合が始まる。
当初の予定通り赤城君に執拗にマークをつけて、攻撃を封じ、攻める時は練習量の差でパスワークの違いを見せるように攻めるといった形で行うことにした。
実際最初は予定通りにいっていた。
いや、そう感じていただけだった。
「おい、そこ何度目だよ!見え見えじゃないか!」
まただ。
途中までは相手に触らせもせずにボールを相手陣地に運べているのだが、このパスが通ればというところでカットされる。
初めのうちはマグレだと思っていたが、その言葉で片付けられる精度ではない。
こちらの攻撃は必ずあの6番にシャットダウンされてしまう。
そうして何度目かのカウンターで、
「おい、9番がフリーだ!」
6番から赤城君へ決定的なパスが通り先制点を許してしまった。
そしてその後、得点する必要がある俺たちは果敢に攻めたが、攻撃は通用せず、逆にカウンターを食らってしまい、結果的に3-0で負けた。
ここまで何も出来なかったのは初めてで悔しいと同時に、全ての起点になっていたあの6番が何者なのかと気になって仕方がなかった。
結局3点とも赤城君が決めて彼は県のトレセンの常連でもあるため、傍から見ていた者は彼が凄いのだと思っていただろうが、実際に対戦した俺たちはそうじゃなかった。
結局彼らのチームは破竹の勢いで勝ち上がったが、準決勝でクラブチームに負けてしまいベスト4といった成績だった。
無名チームがそこまで勝ち上がるのは凄いことだ。
大会得点王を取りベストイレブンにはあのチームからは赤城君のみが選ばれたのだが、対戦したチームは6番の姿が脳裏から離れなかったと思う。
俺がそうだったからだ。
その6番は黒田真と言って、俺たち世代の1部では『軍師』、『現代の黒田官兵衛』と密かに囁かれていた。
俺たちは緒戦敗退という悔しさをバネに、黒田真にリベンジすることを目標として気合いが入り、例年よりも練習するチームになり、完成度も頭1つ抜けた年になったそうだ。
そして、満を持して訪れた最後の大会。
幸か不幸か緒戦はあのチームだった。
俺たちは早速リベンジの機会がやって来て、一層気合が入った。
だが、いざ試合が始まると、黒田真の姿は無かったのだ。
赤城君に聞いてみても理由は話してくれず、俺たちは6-0と圧勝こそしたが不完全燃焼のまま最後の大会を終えた。
もしかしたらケガか何かをしてしまったのかもしれないが、俺たちの悲願のひとつを叶えられなかったのに変わりはない。
その蟠りを抱えたまま残りの中学生活を終えた。
だが、ここで幸運なことが起きた。
何と、同じ高校に黒田真が居たのだ。
俺は今度は同じチームであの『軍師』とプレーできるのかとリベンジの機会が無くなったのは残念だが、それ以上に嬉しくなって声をかけてみた。
「俺、浅野って言うんだ。よろしく、ところで部活動は何に入るのか決めた?」
俺はあくまで初対面を装い、黒田君に聞いた。
が、
「いや、部活に入るつもりはないんだ」
望んだ答えは得られなかった。
理由を聞いて見ようとしたが、黒田君の顔が訳ありといった感じで聞くのは躊躇われた。
確かに残念だったが、事情があるのでは仕方がない。
切り替えてみたけどふとした拍子に聞いてしまいそうなので、意図的に黒田君を避けるようになってしまった。
幸いにも高校でも多くの友達に囲まれて教室内で退屈をすることはなく、だんだんと落ち着いてきた。
そして初夏、クラスマッチの競技、チーム分けが行われた。
何と黒田君もサッカーに出場してくれるらしかった。
俺は嬉しさを押し殺しつつも楽しみで仕方がなかった。
一緒に練習を重ねていくうちに、クラスマッチでサッカーに出る動機にも気がつけて、話す機会も増えた。
そして本番の2日目、予め作戦で聞いていたとはいえ、あの黒田真の凄さを改めて垣間見ることができた。
確かに実行するのは大変だったけど羨望の感情が勝ったね。
さらに、あの試合を通して、祐人に向ける視線や大友先輩への視線からなんとなくだけどサッカーを辞めた理由の1つがわかった気もする。
それを無視してまでサッカー部に勧誘するつもりもないし、最後に一緒にプレーできて満足してるところもある。
まぁあっちが話してくれるならもちろん聞かせてもらうけどね。
今回のクラスマッチで、俺の中の蟠りも無くなり、黒田君がいい人だってこともわかった。
本人に言っても否定されそうだけどね。
正直黒田君への興味は尽きないし、もっと仲良くなりたい気持ちが湧いてきたまである。
なるほど、祐人がずっと一緒にいるのも納得だ。
俺は加藤君の歌を退屈そうに聞いている黒田君に声を掛けに行く。
「黒田君、次一緒に歌わないかい?」
まずは黒田君に友達として認めてもらうところから始めよう。




