19.結局は個人の実力
ワァァァァァッ!!
紫条との会話から数時間経ち、今は体育館にいる。
クラスの女子チームの試合の応援に来ているのだ。
というのも、次の準決勝、3年生の生徒会長がいるチームと当たったのだが普通に負けた。
いや、祐人の頑張りのおかげで惜敗ではあったのだが内容を振り返ると負けるべくして負けたという感じだ。
相手は生徒会長ともう1人のサッカー部の3年生の個人技を中心とした攻めを行ってきた。
こうなるとディフェンスが本職ではないオレや浅野も太刀打ちできず簡単に失点を許す結果となったのだ。
2-Dとの試合もこの戦法を取られたら危なかった。
あの試合は研究して戦術を立て、冷静さを先に奪えたから良いものを3年生との試合はノープランだ。
そもそも地力で上回れていたら難しいし、オレは前の試合でクタクタだったのもある。
日頃運動などしていないためスタミナなど落ちているに決まっているのだ。
そういうわけでうちのクラスでまだ勝ち残っているのは女子のバスケのみとなり、クラス総出で応援に駆けつけているというわけだ。
そんな我がクラスと戦っているのは1年F組、紫条のクラス。
準決勝に1年生が2クラスも残っているのは異例の事態と言えるが、我が校の女子バスケ部は人数が少なく、上級生の1クラスに固まっている。
昨日のグループ分けの運も相まってこのようなことが起こっているわけだ。
現在試合は前半が終わろうとしているところでなんと12-12の同点。
こちらのクラスは蒼井と白石の2人を中心とした攻めで得点を重ねている。
一方相手チームは紫条の指示の元、全員でパス回しをして空いた人がゴール下でフィニッシュといった形で流動的な攻めが効果を与えている。
スコアこそタイだが、どちらが優勢かは一目瞭然だ。
対策を打たないことには結果は見えている。
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(白石視点)
ブーッ
ここで前半終了ですか。
蒼井さんの頑張りのおかげでここまで持ち堪えていますが、後半はもっと苦しいでしょう。
現にこちらは疲労も溜まっていて私も蒼井さんも運動量は確実に落ちています。
しかし、あちらはまだ全員顔色も良く、疲れている様子はあまり感じられません。
このまま後半に臨んでも勝てないでしょう。
こんな時、黒田くんなら…。
…っ!
もしかして…
確証はありませんが試してみる価値はありそうです。
「あのっ…」
私はチームメイトの皆さんに思いついたことを話しました。
「それ、本当?」
蒼井さんが少し期待感を持って私に聞いてきます。
「恐らくですが、少なくとも前半の6ゴールは全てそうです」
「よし、信じてみる。皆も協力してくれる?」
蒼井さんが皆さんに聞くと全員が賛同してくださりました。
男子は赤城くんと浅野くん、女子は蒼井さんがクラスのリーダー的存在を担ってくれています。
黒田くんは私もそうだといいますが、今回のように肝心な時には蒼井さんが皆さんに指示を出すというのが現状です。
5月に冤罪にかけられそうになった時の疑いがまだ晴れていないというわけでもなさそうなので、蒼井さんほどのカリスマが私には備わっていないのでしょう。
男子の朝の試合において、黒田くんはチームのリーダーをしていました。
詳しくは聞こえませんでしたが、外から見てても皆さんが黒田くんに耳を傾けているのがハッキリと分かったのです。
日頃クラスで大人しく過ごしている黒田くんの方が現状私よりも信頼されているということです。
黒田くんと並び立つためには私もクラスのリーダーになるくらいはやってみせる必要があります。
ただ、今回の案が当たっていれば私は黒田くんに1歩でも近づけたということ。
黒田くんに並び、追いつき、そして…
私はそんなことを胸に後半戦に向けてコートに向かった。
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(黒田真視点)
後半戦、当初の予想とは裏腹にうちのクラスが押している。
ハーフタイムで打開策を見つけたのだろう。
実際、ディフェンスの陣形が変わっている。
前半はマンツーマンでマークに付いていて巧みなパス回しに翻弄されていたが、後半はゾーンディフェンスといってスリーポイントラインの内側、ゴール下は特に固めていてパスカットを狙うことをしていない。
そして遠くでシュートを打たせて外させるという戦法だ。
前半戦を見るに相手チームはゴール下でしか決めていない。
恐らくパス回し→ゴール下のフィニッシュという流れを徹底的に練習していたのだろう。
バスケという小さなゴールにおいてはそれが一番効率的なのも事実だ。
外からのシュートは身につけるのが難しく、初心者が身につけるには時間が足りない。
「リバウンド!」
また紫条が外からスリーポイントシュートを狙ったが、リングに嫌われる。
スリーポイントはプロなら別だが、高校生レベルだとめちゃくちゃ上手いやつでも実戦での成功率は5割ほどだ。
専門的にやっていない紫条ではいくらこのコート内で1番上手いといえど2割も入らないだろう。
そこを見抜いた白石達は外のシュートは打たせてカウンターという形だ。
これはサッカーにおいてもそうだが、オフェンスとディフェンス、疲れるのは当然ディフェンスだが、そのディフェンスを半分くらいはサボっている状況。
疲労もほとんどなく攻めに転じられている。
こうなってしまえば紫条達は何も出来ない。
あれ以外の練習をしているわけではないだろうし、そもそも点が取れないのでは逆転も不可能だ。
ブーッ
1年A組 30-12 1年F組
結局後半は1ゴールも許すことなくそのまま勝ちきった。
うちのクラスの戦術勝ちだ。
そうしてうちのクラスは決勝にコマを進めた。
白石はこちらを見て、やってやったぞと言わんばかりに笑顔を見せた。
それが自分に向けられたものだと感じた他の男子はまた沸いている。
しかし、隣にいる祐人と、白石とこちらを交互に見比べている蒼井は何かを察したような顔をしてこちらに顔を向けてきた。
が、ここで追求する気はないようで一旦はこちらから視線を外してくれた。
蒼井と白石は抱き合って喜び、祐人もほかの男子と何かを話している。
気を遣ってもらったが、蒼井何かはすぐに詰めてきそうだ。
白石との関係は1度疑われているわけだし。
まぁ蒼井はこのクラスマッチを経て白石と仲良くなったっぽいし最悪バレたらバレたで構わないのだが。
何聞かれるんだろう。
めんどくさいなぁ…
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「それでは各競技、優勝チームの発表を行います。女子の部、テニス3-A、バスケ3-E、男子の部、バレー2-B、サッカー3-Eという結果になりました。各クラスの代表の方は前に登壇してください」
閉会式だ。
結局女子も決勝で3年生の生徒会長のクラスに負けた。
男女揃ってあのクラスに負けたというわけだ。
どんなに戦術を練っても優れた個の集団には勝てないことを改めて思い出した。
まぁ女子の方は本日3試合目ということもあり、疲労も溜まっていただろう。
結果としては1年生にして上位まで(オレらは多少ズルをしたが)残ることができたのは上出来だ。
賞品は惜しいが、祐人の件を解決できただけでも良しとしようじゃないか。
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閉会式も終わり本日はそのまま解散となった。
「なぁ、この後打ち上げやろうと思うんだが黒田も来るよな?」
後ろから加藤が声をかけてくる。
今日は疲れたし打ち上げなんて当然めんどくさいので断らせてもらおう。
「いや、オレは…」
「え〜?今日の勝利の立役者が来ないとか有り得なくない〜?」
「黒田君が来てくれないとなると盛り上がらないだろうねぇ」
オレが断りを入れようとすると、福島と浅野が外濠を埋めに来る。
「そうだそうだぁ〜」
「よっ、今日の主役!」
他のクラスメイトも乗っかって囃し立てる。
オレは最後の望みを持って祐人を見る。
「…(ぷぃっ)」
諦めろと言わんばかりに目を逸らされた。
どうやら退路は絶たれたようだ。
「分かった…。オレも参加させてもらう」
オレは祐人に期末テストの手助けをしないことを誓って打ち上げ根への参加を表明した。




