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11.ランドにはいない熊


いろいろと片付いた週末。

紫条との約束で模試の結果で勝負することになったため、珍しく自主的に勉強することにした。

別に勉強が嫌いというわけではないが、一人暮らしを始めるまでは散々やらされてきたため休日に自主的にやろうとは普段は思わない。

休日は何をするでもなくダラダラ過ごすに限る。


そういったわけでテキストに意識を向けているのだが。


「黒田くん、この問題がわかりません」


対面には白石が座っている。さも当然のように。


事の発端は数十分前、インターホンが鳴ったことから始まる。

いや、遠回しな言い方はやめよう。

普通にオレの家を尋ねてきたのだ。

同じマンションだからオートロックにも引っかからないため、直接やってきた。

この間のことがあるからオレも断れず家に入れたというわけである。

まぁ断る理由もないし別にいいのだが。


オレは面倒事が嫌いなのであって、元来人嫌いというわけではない。

同じマンション内で外に漏れる心配がないなら特に嫌なこともないのだ。

白石は話してて楽だしな。


元々今日は勉強すると決めていたので白石には悪いが、勉強させてもらうと伝えると白石も乗っかってきたというわけだ。

模試までそんなに時間ないし。


「どの問題がわからないんだ?」

「問2です。この文、主語が書いていないのに誰がおこなったかなんてわからないです」


古文あるあるだな。すぐに主語を省く。

少しは英語を見習えって感じだ。


「これは、尊敬語が使われてるだろ?地の文で尊敬語を使うのは位が上の人間に使われるものだ。ここなら帝がそれにあたるだろう。ということで答えは帝とか天皇だ」

オレは白石にそう教える。

「そういう事なんですね。ありがとうございます。それにしても、単語も多いのに敬語も考慮する必要があるなんて古文は難しいですよね」


まだ高一の一学期なので敬語はほとんど習っていないし、単語についても単語帳が配られたくらいだから解けなくてもいいと思うが。

一応、高校入試でも古文は出題されているし、次の模試にも出るだろうから出来るに越したことはない。

「その上、文法も大切だからな。フィーリングで読むのはやめたほうがいい」


「そうなんですね。そういえば黒田君、この間の中間テストで手を抜きましたね?」

白石はふむふむと頷いた後、訝しむ目つきでこちらに問うてきた。


表情豊かなこと。


というかなぜ知っているんだ。

順位は公開されないはずなんだが。


「何でそう思った?」

とりあえずいつもの質問で返してみる。

否定しない時点でそうですと言ってるようなものだが、この際仕方ない。

「クラス順位が1位だったんですよ私。ですが、答え合わせした時黒田君は全問題が分かってたじゃないですか。」


「じと〜」という効果音さえ付きそうな顔でそう言ってくる。

白を切っても面倒なだけだな。


「手を抜いたことは悪かった。だが、次の模試はちゃんと受けるつもりだから安心してくれ」

何故謝っているのかわからないが、とりあえずそう言っておく。

別に悪いことはしていないはずだが。


「それなら良かったです。楽しみにしてますよ」

白石は微笑んでそう言った。

何が楽しみなのかはわからないが、嬉しそうだしいいだろう。


「そろそろ1度休憩にするか」

きりは良くなさそうだが、集中も切れただろうし休憩を提案する。


「あ、それなら私お菓子を持ってきました」

待っていたかのように白石は自身のバッグから箱を取り出す。


シーの方でしか手に入らないクマが描かれた缶の箱だ。


「チョコレートか」

「はい、頭を使った時には糖分が1番ですから」

「でもいいのか?少し高そうだが」


ディ○ニーのお菓子は少し値段が張るイメージだ。

それをこんな所で空けていいのだろうか。


「いいんです。1人で食べても仕方ないですし」

「そうか、ならありがたくいただくとしよう。」


オレはキッチンに行って、いつもよりいい茶葉を棚から出すことにする。

正直持て余してたからちょうどいい。

紅茶を淹れ、白石とオレの前に置く。

これがいい茶葉か。香りから違うものを感じる。


「紅茶で良かったよな?」

「はい、ありがとうございます。それにしてもいい香りですね」

「持て余してたからな。せっかくの機会だし開けさせてもらった」


それこそ、1人で飲んでも仕方ないしな。


「そうだったんですね。それではチョコレートの方も食べてください」

「美味しいですよ」と言いながら白石はチョコレートを頬張っている。

幸せそうだ。


「じゃ、失礼して」


オレも1つ手に取る。

美味いな。いつもの安いものとは濃厚さが違う。

もちろんもっといいものもあるのだろうが、高校生にはこれでも贅沢というものだ。


それにしても、こうして白石が家に来ている状況なんて誰にも言えないな。

クラスメイトの反感を買ってしまう。

それに、白石は嘘が下手だからな。どうにか黙っててもらえるように説得を試みよう。


そう思いながらチョコレートで甘い口の中に紅茶を流し込んだ。

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