白い犬
日常に潜む不思議な体験
曖昧で、しかし身体の感覚が覚えている確かな恐怖
きっと、思い出さない方がいいだろう。
思い出せば、寂しがり屋がついてきてしまうから。
都市伝説 一つ目 「白い犬」
夏休みの朝方、自転車で友達の家に向かう途中、ソレは居た。
「なんだあれ」
野犬だろうか。進行方向の遥か先、薄暗い朝方の山道で、真っ白なものがポツリと見えた。
「ん...?なんか....」
違和感。
何かがおかしい。だけど、何が。
違和感の招待を探ろうと、ソレにじっと目をこらす。
....あぁ、そうだ、歩き方がおかしいんだ。
遠くから歩いてくるソレは、まるで四足歩行に慣れていないようだった。
右の前足と左の後ろ足が同時に上がって、同時に落ちる。次は左の前足と右の後ろ足が同時に上がって同時に落ちる。
「...気持ち悪」
山道の道路を下ってくるソレの顔は、白い布で覆われていた。布と同色の白い毛皮のせいか、この距離では、顔だけモザイクが掛かっているように見える。
このまま走れば、アレに遭遇してしまう。
自転車のハンドルを切って、元きた道を走り出す。
アレが何かを考える前に身体が動いた。
薄暗い朝方の澄んだ空気が、身体を冷やす。
普段より早いペースで走っていることに、この時は気がつかなかった。
ーシャン。
息を切らしながら走っていると、ふいに、聞こえるはずのない音がした。
ーシャン。
やけにくっきりとした鈴の音だ。
こんな何もない山道で、あんな音が鳴るはずが無い
ーシャン、シャン、、シャンシャンシャンシャン
本能的に振り返ってはならないと感じた。
次第にけたたましくなっていくその音に、強い恐怖を感じる。
逃げなきゃ、逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ。
「はぁ、はぁ!!はぁ..!!」
がむしゃらにペダルを漕ぎ続けて、20分。
気付けば、音は聞こえなくなっていた。
「なんだったんだ、あれ」
完全にパニックだったから、どこから聞こえなくなったのかはわからない。
だけどアレが、遭遇しちゃいけないものだという事だけは、今でもはっきりとわかる。
しばらくは放心状態だった。
とりあえず友達に連絡入れて、自販機で水買って。
ベンチでぼーっと座っていた。
今となってはそれが本当にあった事かどうかもわからない。
ただ、あれ以来、あの道を自転車で通ったことは無い。