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どうやら転生先は、いずれ離縁される“予定”のお飾り妻のようです  作者: Rohdea


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22. 不器用な夫

 


(んー……何だか温かい)


 とても、優しい温もりに私の身体が包まれている───幸せ!


(これが……本当の幸せっていうのかな?)


 ───ずっとずっと私の心はどこか満たされないままだった。

 お母さんの顔色と機嫌だけを窺って生きていた子どもだったあの頃。

 伯爵家に引き取られてからは「使えない」「ダメな子」「役立たず」散々、罵られた。

 少しでも褒めて貰えるようにと頑張ったけれど、なかなか思うようにはいかなかった───


 全ての記憶が繋がってから、私にとっての幸せだった時を思い出そうとすると、そこにはあの男の子───カイザルがいる。


(初めてのお友達……)


 正直、愛とか恋とかはよく分からなかった。

 それでも、私はカイザルと会っていたあの短い日々が楽しくて大好きだった。


(ありがとう、カイザル───)


「……眩し…………え、朝?」


 そんな幸せな気持ちで私は目を開ける。

 陽の光がかなり眩しい。

 もしかしてこれは結構いい時間なのでは?

 

(今、何時かしら? どうして誰も起こしてくれなかっ───)


「ん?」


 そこで自分の身体に巻きついている腕が目に入った。


「ひっ! 腕!? なに……人間の腕、よね?」


 最初に私は自分の腕の確認をした。

 間違いなく私の腕──はここにある。


「これは…………ハッ!」


 そこで、ようやく昨夜のことを思い出した。

 初夜が延期になったはずなのに、カイザルは部屋に戻らず私をベッドに押し倒してきて──


(たくさんキスをされた気がする! それで、私……どんどん頭の中がトロンとして……)


「え……まさかの寝落ち?」


 そうとしか思えなかった。

 だってそこから先の記憶が無い。

 そうなるとこの巻き付いている腕、それとこの温もりは───……


(まさか一晩中、抱きしめてくれていたのかしら?)


 そう思ったら私を包むカイザルの温もりが、とにかく“私のことを大好き”と言ってくれているみたいで幸せな気持ちになれた。


「うっ……ん…………」

「は! カイザルもお目覚めかしら?」


 私は慌てて後ろを振り向きカイザルの顔を見ようとした。


「…………コ、レット…………シェイ、ラ……」

「…………」


 すごいわ。

 ベッドの上で私という妻を抱きしめながら、二人の女性の名前を寝言で呼んでいるんだけど?

 とっても不誠実な発言のはずなのに、ただの一途になっているという……


 私はそっとカイザルの頬に手を触れる。

 そしてそこに自分の顔を近づけてチュッと彼の頬にキスをした。


「カイザル───ありがとう」


 シェイラのことを強く想ってくれて。

 そして、コレットを見つけてくれて───



────



「……ん? コレット?」

「───おはよう、カイザル」


 どうやらカイザルの目も覚めたらしい。

 だけど、少し寝ぼけているのかどこか焦点の合わない目で私をじっと見てくる。


「可愛い可愛い俺のコレットがいる……」

「カイザル?」

「夢の中でもコレットが俺の腕の中にいたのに、目が覚めてもコレット……」

「はあ……コレットです」


 私がそう答えると、カイザルがへにゃっと笑った。


「──!?」


 これまで見たことのないその笑顔? に私は大きく戸惑った。

 あと、そのへにゃ顔が可愛い!


(……もう! 本当にカイザルがわけ分からないわ!)


 小説では、愛してもいない私を娶りお飾りの妻として冷遇するはずのカイザル……

 今はこんなにヘニャッヘニャの笑顔を見せている。

 小説と現実は違うのだと、すでにたくさん実感させられてきたけれどやっぱり思うのは……


(……あの妙に無口な日々はなんだったの?)


 そのことも聞きたいと思っていたのに、まだ聞けていなかったことを思い出した。


「ねぇ、カイザル!」


 私はカイザルの身体を揺する。


「ん~? コレット?」

「……っ! もう!」


 カイザルがへにゃっとした笑顔のまま私の名前を呼ぶ。

 ちょっと今聞いても大丈夫かな? と不安に思ったけれどやはり忘れないうちに聞いておこうと思った。


「聞きたいんだけど! ……どうしてあなたずっと無愛想で無口だったの?」

「……無口?」


 カイザルが目をパチパチさせている。


「そうよ! 私の記憶の中のカイザルも、それに昨夜のあなたもよく喋る人だったわ」

「……よく喋る?」

「なのに、結婚してから……いいえ、顔合わせの時もよね? あなたはびっくりするくらい無口だった。どうして!?」


 私がグイグイ近付いて勢いよく訊ねると、カイザルはしばらく考え込んでから、ボンっと顔を赤くした。


「え……」


 私は目を見張る。

 何故ここで顔が赤くなるの?


「そ、そ、そそそれは……」

「それは?」


 真っ赤になったまま躊躇うカイザルに私は更にグイッと迫る。


「……っ」

「カイザル!」

「う! ………………から」


 ようやくカイザルは観念したのか、ポソッと言った。


「シェイラが……」

「シェイラ? どうしてここで私?」

「────シェイラが言ったじゃないか!」

「ん?」


 私は首を傾げてカイザルの次の言葉を待った。


「しつこい男や口うるさい人は嫌われる……」

「え!」

「男の人は少し無口でミステリアスな人がカッコイイと!」

「…………あ!」


 そう言われてカイザルとの会話を思い出した。

 あの頃は“ミステリアス”がよく分からなかったけど確かにその話をカイザルとしていた。


 ───よく分からないが、男は無口な方がカッコイイ……というわけか

 ───そうみたい

 ───ふーん……


(も、もしかして、あの時のカイザルの「ふーん……」は……興味のないふーんではなく……)


 私はハッと気付く。


「え! そ、それで……なの?」

「……」


 私がびっくりしてカイザルの顔を見たら真っ赤な茹でダコになったカイザルが頷く。

 そしてすぐに必死な顔になって私に言った。


「───す、好きな人には少しでもカッコイイと思って貰いたいじゃないか!」

「!」

「シェイラ……いや、コレットに少しでも俺をカッコイイと思ってもらって、それで俺を好きになってもらいたかったんだ!!!!」

「~~~~!」


(────やだ、とんでもなく可愛い!)


 そんなカイザルの言葉に私の胸が盛大にキュンとした。

 カイザルが望んだカッコイイではなく可愛い……でだけれど。


「そ、それで私にあんな態度を?」

「…………ミステリアスだっただろ?」

「……」


 いや、ただのコミュ障だったわよ……とは言えない。

 だけど、なんてなんて不器用な人なの?

 そんな無理しなくても私は───……


「……カイザルのことが好き」

「え?」

「無口だろうとお喋りだろうと関係ないわ? 私はあなたが好きよ」

「コレット……」


 驚いたのか、カイザルの目が大きく見開かれる。


「シェイラも…………あなたのことが好きだったわ、カイザル」

「シェイラ……も?」

「ええ! 恋愛とは少し違ったかもしれないけど……それでも毎日毎日あなたに会えるのが楽しみだったわ───」


 と、そこまで言ったらカイザルがギュッと私を抱きしめ、あっという間に唇が塞がれた。


「んっ……」


(カイザルは可愛い。けれど、手が早い……)


 キスをされながらそんなことを思った。



───



 そんな熱いキスをこれでもかとたくさん贈られた後、カイザルは私の耳元で言った。


「いいか、コレット。医者の許可がおりたら覚悟しておいてくれ。俺を煽ったのは君だ!」


 ────と。

 その言葉に今度は私が茹でダコになって頷く番だった。


 そして───


「ちょっと……カイザル……擽ったい」

「だめか?」

「んん……ダメじゃない、けどぉ……!」


 何故かとっくに朝のはずなのに誰も部屋に起こしに来ない。

 なので、カイザルからのキス攻撃が止まらない。

 お互いの気持ちを確認しあえたことから、カイザルの中に遠慮という物が一気に無くなった気がする。


(は、話を変えるのよ……)


 イチャイチャな雰囲気じゃない話に!

 そうすれば……

 と、そこで私はもう一つ浮かんだ疑問を訊ねることにした。


「そ、そうよ! カイザル」

「んー……?」


 私は迫ってくるカイザルを避けながら必死に声を上げた。


「あ、あなたが! シェイラにくれようとしていた、た、誕生日プレゼントって何!?」


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