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どうやら転生先は、いずれ離縁される“予定”のお飾り妻のようです  作者: Rohdea


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20. 本当の夫婦に……

 


「ご、ご主人様、奥様……その大丈夫……ですか?」


 ノックと共に顔を出したのは使用人。

 何かあったのかと心配そうな表情で現れた。


 どうしたの? と思ったけれど、時計を見て気付いた。

 ずっとこの場で話し込んでいたせいでお父様が部屋を出て行ってから、それなりに時間が経っていた。

 更に言うなら、カイザルは病み上がり……というよりも目が覚めて即この部屋に駆け込んで来たらしいから、医者にも診てもらっていない……のでは?


(それは心配になって無礼でもなんでも覗きに来るわーーーー)


「え? あ……これはイチャ……?」


 そうして現れた使用人は、私とカイザルの姿を見てハッとし、声を失う。

 さらに頬を赤く染めると「し、失礼しましたーーー!」と言って慌てて回れ右をした。


(……え? なぜ?)


 どうしてそんな急に顔を赤くして慌てた──?

 それに、イチャって何? と思った所でハッと私も今の自分の状態に気付いた。


(わ、私……今、カイザルの腕の中に抱き込まれているじゃないの!)


 カイザルからの熱い告白を受けてから、チューだのギューだのずっと自分たちが密着状態だったことに今更ながら気付く。


「~~~!!」

「え? コレット? 急にどうした? また顔が真っ赤……」

「み、密着……見られ、た」

「ん? 見られた? どういうことだ?」


 カイザルには私の恥ずかしい気持ちが全く伝わっていないようで、不思議そうに首を傾げている。

 そうして、使用人の後ろ姿と私の顔を交互に見てからようやく、あっ! と気付いてくれた。

 そして、何故かさらにギュッと私を抱き込む。


「ちょっと!?」

「ははは、そんなの照れずにたっぷり見せつけておけばいいじゃないか」

「なんで!?」


 見せつける───!?

 そんなとんでも発言に私が聞き返すとカイザルはにっこりと笑った。

 そして、私の顎に手をかけて顔を持ち上げる。

 笑顔のどこか嬉しそうなカイザルと私の目が合う。

 

「───だって俺たちはもう、夫婦なんだよ? コレット」

「え? で、でも……まだ……」


 一度も閨を共にしていないわよね!?

 真っ白~な結婚よね!?

 そう言おうとした私の言葉はカイザルの唇によって塞がれた。



───



「……んっ」

「……」


 カイザルのキスはとても長かった。

 苦しい! と思えば少し離してくれて、でもまたすぐ塞がれて。

 そうして角度を変えて何度も何度もチュッチュと……


(長いってば!!)


「カイザ……ん、そろそろ、困っ」

「───俺たちが仲睦まじい夫婦だと伝わっていいだろう?」

「んっ」


 使用人がそろそろ困っているのでは?

 そう言いたかったのに、カイザルはなかなかキスを止めてくれない。

 しかも唇だけじゃなく、額、頬、目元……と、たくさんのキスの雨を降らせてくる。


(カイザルってそんなにキスが好きだったのかしら?)


 苦しい……そう思いながらも、私もカイザルからのキスは甘くてフワフワで幸せでもっと……なんて思ってしまう。

 けれど、さすがにそろそろ……と思って離れようとする。

 それを察したカイザルが、キスを一旦止めると私の耳元で囁いた。


「仕方がないな────だが、コレット。今夜からは一緒に寝よう」

「ぅ……へ!?」


 ものすごい間抜けな言葉が自分の口から飛び出した。


(寝る!? 一緒に寝る…………ですって!?)


 その言葉の衝撃に大きなダメージを受けていたらカイザルは私にとどめを刺して来た。


「そうだ───あの日に出来なかった初夜のやり直しを……今夜こそ……」

「しょ……!!」


 初夜……という言葉にボンッと私の顔が真っ赤になる。


「……コレット」

「……」

「俺の愛しい、コレット……」


 カイザルの甘くて蕩けそうな声が私の耳元で何度も名前を囁いてくる。

 とんでもなく甘い口撃だ。


(もう! これは誰? 誰なの!? 本当にあのカイザルなの!?)


 こんなにも甘く迫ってくるカイザルなんて知らない!

 甦った記憶の中のカイザルとも、覚えている範囲の小説の中のカイザルとも違う。


「コレット。君がうんと頷いてくれるまで……離さない」

「──!」

 

 ───それは困ります!

 だって私も使用人も、もう限界よ!!

 そう思った私は“初夜のやり直し”の提案に頷くことしか出来なかった。



(……今夜、カイザルと)


 想像するだけでトクントクンと私の胸が高鳴る。

 今夜……本当に私はカイザルの妻になるんだわ……!

 そう思ったら私のこの胸の高鳴りはなかなか治まってくれなかった。



 ───なのに。

 その夜、寝室でドキドキしながら夫の訪れを待っていた私。

 そうしてようやく私の部屋を訪ねてきたカイザルが……


「~~っ! コレット、すまない!」

「え! ど……!?」


 床に手をついてものすごい勢いで私に頭を下げてきた。

 それは、前世でもなかなかお目にかかれなかった、とても綺麗な見事な土下座だった。


(ど、土下座……この世界にあるのね……?)


 なにごと!? という思いと同時に小説でのエピソード、初夜の「君を愛せない」を思い出してしまって私の頭の中が一瞬クラっとする。

 もしかすると小説内のあれもカイザルは、このように土下座していたのかもしれない。

 カイザルは必死に頭を下げながら言った。


「───コレット、すまない……俺は……今夜、君を抱けない! だが、君のことを愛している!」

「は?」


 もう一度、私の頭の中がクラっとした。



──────……



「……」

「す、すまない……コレット」

「……」

「頼むから、そ、そんな可愛い顔でむくれないでくれ……いや、ずっと見ていたいくらいめちゃくちゃ可愛いんだが!」

「……」


 私はプイッとカイザルから顔を逸らす。

 残念ですが、可愛いなどと言われて絆される私ではないのよ!


「お、俺だって! 俺だって今夜こそ……コレットと初夜をやり直すつもりだった! だ、だが!」

「……」

「おじ……医者のストップがかかったら何も出来ん……!」


 カイザルはそう言ってぐぁぁぁと頭を抱えた。

 さすがにこれ以上興奮させてはいけないと思い、私はカイザルの方に顔を向けた。


「……ごめんなさい。ちゃんと分かっています」

「コレット……」


 カイザルが頭を上げる。

 目には涙まで浮かんでいた。

 そんなに残念だとカイザルも思ってくれていた……それだけで胸がキュンとした。


「ただ、今夜……カイザルの本当の妻になれる……そう思っていたから、ちょっと……残念で」

「ぐうっ……せっかくコレットからそんな言葉が聞けているのにーー……」


 私の言葉を聞いたカイザルは悔しそうに唸った。



 ──そう。

 カイザルは先程までおじいちゃん先生の診察を受けていた。

 先生は頭と全身を強く打って意識不明だったのに、目覚めるなり飛び出して行ったことをそれはそれはお怒りだったらしい。

 しばらく安静にしとらんとどうなっても知らんぞ! と脅されてしまい、当然……

「子作りなど以ての外じゃあ!」

 とそれはそれは強く怒られてしまい禁止されたという。


 そういうわけで、私たちの初夜のやり直しは延期となってしまった。


(分かっているのよ……ただ、期待した分のショックが大きかっただけなの)


「困らせてごめんなさい、カイザル」

「コレット?」

「寂しいけれど……でもあなたを無理させるわけにはいかないもの、ね」

「……」

「さ、カイザルは部屋に戻って? もうお互い休みましょう!」


 ちゃんとカイザルの気持ちは分かっている。

 私ももう変な誤解はしたりしない。

 だから大丈夫、本当の夫婦になれる日まで待てるわ。


 そんな気持ちで微笑みを向けたら───


 ポスンッ


「……え?」

「……」


 何故か腕を取られて、私はそのままベッドに押し倒された。

 そして、カイザルは私の上にのしかかる。


(────!?!?)


「カ、カイザル……さん?」

「……」

「え? あっ…………ん!」


 カイザルの顔が近づいて来たと思ったら、そのままキスをされた。


(どうして!? 話は終わったはず───今夜は解散……では!?)


「コレット……」

「んっ!」


 名前を呼ばれてビクッと私の身体が震えた。

 また、耳元で甘く甘く囁かれる。

 どうやら私はカイザルのこの甘い声に弱いらしい。

 そして、カイザルは私の手を握ると指を絡めながら言った。


「───確かに今夜の……俺たちのやり直しの初夜はお預けだが……」

「?」

「コレットと一緒に眠ることまでは禁止されていない」

「え? ちょっ……ちょっと、待っ……」


(一緒? 眠る……!?)


「待たない」

「え、カイザ……」


 そう言って熱っぽい目で私を見つめるカイザルの顔が再び近づいて来た───


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