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第4話 白騎士さま!?


「でもレオン様、リシェスなんてそんなに何回もいけませんよ? 高いんですから」


 桃源郷の二丁目あたりをさまよっている騎士様に、私は注意喚起しておく。


 王都コーヴに居を構えるリシェスは、美味しいって有名で、爵位持ちの貴族の令夫人や令嬢たちだって目を輝かすんだ。


 それはすなわち、価格の方もかなりのものだってこと。

 あの人たちが庶民的なお菓子になんか興味を示すわけがないもの。


 一介の騎士の娘が、ほいほいといけるような場所じゃないんですよ。


「大丈夫だ。問題ない」


 どんと胸を叩くレオン。

 会計はすべて俺に任せろ、と。


「いやいや……それはちょっと……」


 私だって騎士の娘、一応は富裕層の末席のあたりにはすわってるんで、他人様におごっていただくというわけにはいかない。


 この託児所に提供しているおやつだって、私の自腹から出てるわけだしね。

 こういうのも貴族・騎士階級の義務なんです。


「ちゃんと名目は立つのよ。メグさん」


 くすくすとポレットが笑う。


 心に傷を負った令嬢を慰めるために甘味の名店に連れていくというのが大義名分だそうだ。


 たしかにこれなら筋が通る。

 本当は自分がケーキとかを食べたいだけなんて、外からは判らないからね。


「けど、お金の問題は解決してないじゃないですか」

「そっちも問題ないわ。こんなぼんくらだけど、レオンはそれなりの地位にいるから、良い給料もらってるのよ」

「白騎士をぼんくら扱いするのは、たぶんトゥルーンに叔母さんだけですけどね……」


 ぽりぽりとレオンが右手で頭を掻いた。


「えええっ!? 白騎士さま!?」


 私は思わず大きな声を出してしまう。

 叔母と甥の微笑ましい会話、で、済まされると思うなよ!





 白騎士なんてっていったら、四騎士のひとりだ。

 騎士の中でも一番えらい高い人たちである。


 ロベールが私との婚約を破棄した理由が、十四騎士に出世するからっていうものだったんだけど、四騎士ってのはそのさらに上。

 軍隊のことはよく判らないんだけど、将軍とかそういう役職に就いてる感じかな。


 白騎士、黒騎士、青騎士、赤騎士の文字通り四人で、大臣どころか国王陛下にも直奏できるくらいの権力がある。

 爵位こそないけれど、四騎士の影響力は諸侯に匹敵するんだよね。

 実戦部隊を掌握してるってのも大きいらしいよ。


 で、問題は、その四騎士の一人のである白騎士様が、どうして市井の託児所を単身で訪れてるのかって話ですよ。しかもなんで、甘いものが大好きで名店のリシェスに行きたいからって理由だけで、私の恋人のフリをするのかって話ですよ。


「どうしよう……どこからつっこんでいいのかわからない……」

「いやあ」


 絶望の表情で呟く私に、照れくさそうに笑うレオン。

 褒めてないんですよ? 白騎士様。

 なんで笑ってるんですか。あなたは。


「まあ、些細な問題は横に置くとしてもよ。メグさん」

「どのあたりが些細なんですか。ポレットさん。新しい辞書がいりますよ」


 この人たちってやっぱり血縁だ。

 大雑把で突拍子もなくて、そして悪びれない。


「虫除けとしてレオンほどの適任はいないでしょ?」

「それは認めますけど」


 四騎士のひとりだもん。

 その恋人にコナをかけるとか、物理的な意味で首が飛ぶよ。


 だから私は安全だ。

 この上なく。

 悪い虫なんて、たぶん一匹も寄ってこないだろう。


 同時に、白騎士が見初めた女っていう評判も立つから、ロベールに捨てられたなんて傷はきれいに隠される。


「でも、私なんかと一緒にいたら出世に響いちゃいませんか?」


 白騎士の結婚相手として、ただの騎士の娘というのは要義が軽い。

 だいたい出世ってのは、奥方の実家のチカラってやつがかなーり重要になってくる。

 だからこそロベールにとって、私は必要なかったのだけれど。


「は」

「は」


 レオンとポレットが同時に鼻で笑った。


「女と出世を秤にかけるとは、小さすぎるな」

「できる男は、嫁の家のチカラなんてアテにしなくても出世できるものよ」


 傲然と胸を反らして言い放ってるし。

 似たもの同士の叔母と甥だなあ。


「レオン様が良いなら、私は全然かまわないんですけど……」


 うつむき加減に言う。

 宮廷の名花たちのみたいなに美しさが私にはないから。

 背も低いし、体つきもどっちかっていうとおでぶだし。


「そうか! かまわないなら良かった!」


 私の懊悩もしらず、レオンがにかっと笑う。

 健康的な白い歯が眩しい。


「よろしくな、マルグリット嬢……いや、メグ」


 すっとひざまずく。


「……よろしくお願いします。レオン様」


 おずおずと伸ばした私の右手をとり、そっと甲に口づけた。


「俺のことはレオと呼んでくれ。これからは」

「はい。レオ様」

「レオ」

「……はい、レオ」


 頬が熱くなる。

 恋人のフリだってのは判ってるんだけど。


 そのくらいレオンが格好いいのだ。決まりすぎといっても良い。

 吟遊詩人たちがうたうサーガみたいに。


「よし、それでは明日さっそくいこう。メグ」

「ん? どこにですか?」

「リシェスさ。決まっているだろう」

「…………」


 決まってるんだ。

 はああ、と、私は大きなため息をつく。

 損した。ほんっと損した。格好いいなんて思うんじゃなかった。


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