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婚約者を寝取った悪役令嬢と、なぜか仲良くなってしまいました  作者: 南野 雪花


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第9話 ダウンタウンへ繰り出そう


「メグが大立ち回りを演じたと騎士団でも噂になっていたな」

「いぃぃやぁぁぁ!」


 余計なことを教えてくれたレオンに、私は両手で顔を覆って首を振った。


 なんで噂になるんだよ。

 誰が広めたんだよ。


「言いがかりを付けてきた無頼漢を千切っては投げ千切っては投げしたとか」

「なんで無頼漢が宮廷にいるんですか!」


 笑ってるレオンを睨んでやる。


 伝わっていく課程で面白おかしく脚色されてしまっている。

 ひどい。

 私は無実なのに。


 クロエを叩いたのはイヴォンヌだし、連中は勝手にびびって逃げていっただけ。


「いやあ、メグが暴れたのはダウンタウンの酒場だって話だった。給仕の娘をかばって戦ったとか」

「その設定には無理があります。いまひとつリアリティに欠けますね」


 まず、騎士の娘が無頼漢がいるような下町の酒場に出入りしていたら、親がぶち切れますよ。

 反省するまで蔵とかに監禁されるレベルだって。


「噂話というのは荒唐無稽な方が面白いし、真実味が薄くなるんだ。メグ」


 意味深にレオンが微笑する。


 つまりそれって、あえてまかれた噂だってこと?

 なんのために?


「まず、君を含めた関係者全員の名誉を守るってのが第一義だろう」


 イヴォンヌの名前も、クロエたちの名前も出てこない。

 唯一出てくる私は武勇伝の主人公だ。

 こんな馬鹿な話、誰が信じる?


「情報工作ですか……」

「そうだ。おそらく主導したのはメグの元婚約者だな」


「ロベールが……」

「そしてこの工作は、イヴォンヌ嬢の武勇伝を糊塗するためにおこなわれた」

「そっちか!」


 思わず声に出してしまう。


 くすりとレオンが笑った。

 現時点では目立ちたくないのだろうな、と。


 ようするにイヴォンヌとしては、まだ野心を隠しておきたいわけだ。

 少なくともロベールがレオンと肩を並べられるくらいになるまで。


「でも、ちょっと変ですね」


 私は首をかしげる。

 だったら私など放っておけば良かったのに。

 騎士の娘たちが集まっているようなサロンに顔を出してまで、私を助ける理由などないだろう。


「レオはどう思います?」

「さきに、メグの意見を聞かせてくれないか?」


「すごくお節介な性格をしてるんじゃないでしょうか? 私の婚約者を奪ってやったぜみたいな言い方をしていましたけど」

「悪役をもって任じているくせに、悪には徹しきれないご令嬢、という感じかな」


 私の言葉をレオンが引き継ぎ、ふたりで頷きあう。


 たぶん、私がサロンでいじめられていると耳に入ったから飛んできたんだ。


 たまたま居合わせたとは考えにくいし、ようするに飛耳長目となる人間をあちこちに放っているのだろう。

 情報収集や情報工作のために。


 私がいたサロンにもそういう人物がいたってことだ。

 こわいこわい。





「さて、それでは今日はどこにいこうか。メグ」


 怖い話でひとしきり笑い合った後、レオンが訊ねてきた。


 週に一度の休息日。

 デートという口実でお菓子を食べに行くというのが二人のお約束である。


「レオはなにが食べたいです? さっぱり系? こってり系?」

「こってりだな。どっしり甘いのが良い」


 必勝の作戦を定めた司令官みたいな顔で頷いてるけど、今日いく甘味処のチョイスである。


 この前のリシェス以来、彼は自分の好みと真剣に向き合うことにしたらしい。

 子供舌で何が悪い、と。

 開き直りともいう。


「なら、ダウンタウンに繰り出しますか。ちゃんと守ってくださいね」

「任せておけ」


 冗談めかしていったが、繁華街って場所はけっこう治安が悪いのである。

 ガラの悪い連中だって出入りするしね。


 まあ、騎士の娘を誘拐しようってバカはそう滅多にいないと思うけど、無警戒でいて良いって話にはもっとならない。


「私が昔お世話になった人がやってる店があるので、そこにしましょう」

「ほほう。メグの師匠か、それは楽しみだ」


 師弟関係ってほどじゃないけどね。


 騎士の妻というのは家事全般なんでもこなせないといけないので、そうなることが決定している私には子供の頃から家庭教師がついていた。

 ていうか、いまもついてる。


 ベルトランというパティシエも家庭教師の一人だ。

 私は彼からお菓子作り一般を教わったのである。


 で、ダウンタウンにあるアルブルって店を営んでいるんだ。

 リシェスほど洗練されたお洒落なお店ではなく、もっとずっと庶民的な感じ。客層も中流階級がほとんどだね。


 私は面識もあるし慣れてるから良いけど、騎士の娘は逆に尻込みしちゃうくらいの格式。


「私の作るお菓子をもっと美味しくした感じになりますね。でも方向性は一緒です」

「それなら俺の好みとぴったり一致する」


 大きく白騎士が頷く。


「しかし、世界一美味いのはメグのケーキだがな」

「あ、そういう見え透いたお世辞はいいんで」


 ぱたぱたと手を振ってみせた。

 褒めてもなんにも出ないんですよ。


「世辞ではないというのに……」


 しょぼくれた犬みたいな顔をしない。

 抱きしめて背中を撫でたくなってきちゃうから。


 王国の四騎士なんですよ、この人。こんなんでも。




 そしてアルブルに到着した私たちは、なかなか信じられない光景を目にすることになる。


 数人の無頼漢が店の前にたむろしていたのだ。

 そして店に入ろうとしたお客さんや通行人に迷惑をかけている。


「あいつら……っ!」


 気づいた瞬間、私は走り出していた。


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