不動産屋にて
これまで気になっていた部分を改作します。
最後のエピソードまで行ったら、新エピソードも書いてゆきます。
どうか、暖かく見守っていてください。
20分ほど歩いて、私たちは大通りに面した一軒の古びた建物の前に立った。
「ここが、父に聞いて来たこの街一番の不動産屋さんです。老舗で信用があり、紹介してもらえる物件の数も群を抜いて多いんだそうです。」
「意外に小さいお店ね。でも不動産屋さんだから、お店が大きい必要はないか…とにかく入ってみましょう。」
お店に入ると、奥のデスクで何やら書き物をしていた初老の男性が出て来た。
グレイの髪に柔らかな眼差しが人を安心させる。
「ようこそお越しくださいました。私はこの店の主人で、ジョルジュ・ソルヴィーニと申します。本日はどのようなご用件で?」
「住む家を探しているんです。私と家政婦の二人で。予算はだいたい5000万ルークです。」
「女性お二人ですね。広さや場所のご希望はありますか?」
「場所は、王都から徒歩で1時間以内であればいいかしら。広さというか必要なお部屋は、応接室、寝室が3つ、食堂と調理場、トイレ、お風呂ぐらいかしら。」
「そうですね…ご予算を優先するとすれば、このファイルが価格順に並んでいまして…しかし、お風呂というのは難しいかもしれません。うーん…これと、これと…あと、このぐらいかなぁ。」
「ちょっと見せていただけます?」
私はファイルを受け取って、印を付けられた物件を順に見ていった。
確かに、私が言った条件を微妙に外している。結局、予算が少なすぎるってことか…傭兵とかで体を張って稼げば、一年後ぐらいにはなんとかなるんでしょうけど…、それだと、これまでの暮らしと似たり寄ったりだからなぁ…。
そんなことを思っていると、サラが、ちょっと貸してくださいと言ってファイルを一人で見始めた。部屋数が少ないとか、調理場が狭いとか、ぶつぶつ言っている。あぁ、この子、本気で私と住む気なんだと思うとちょっと嬉しくなった。
「この別のファイルにまとめてある物件って、理由があって格安で出してあるものですよね。ちょっと説明していただけません?私たちだったらなんとかできるかもしれないから。」
サラの言葉ににわかに興味をそそられて、サラが手に取ったもう一つのファイルを見ると、いわくつきと書かれた物件がまとめられていた。
「確かに、そこにまとめてあるのは、みなさんが忌避されるような条件の物件ですね。例えば、持ち主が変わるたびに変死を遂げているとか、川の真ん中の島にあって、川が氾濫すれば流されてしまうとか。女性お二人で住まわれるとのことでしたので、そのような物件は避けた方がよいかと思いまして、紹介は控えておりました。」
持ち主が変死を遂げているのはこれか…うーん、安いけど寝室が1つじゃどうしようもないか。いわくつき物件にしても、私が提示した条件を満足するようなところはなさそうだわ…
「あ、ちょっとこれ」
一つだけ非常に目を引く物件を見つけた。母屋と望楼があるようだ。とても古い物件で、築何年かははっきりしないらしい。母屋については、応接質、食堂と調理場、7つの寝室、2つのトイレ。そして嬉しいことには、温泉が湧いている。
わー、すごく素敵じゃない。とっても古いから安いのかな?それとも、ほかにも何か別のいわくが?
でも望楼があって温泉のある家って、なんか覚えがあるような…。
私は勢い込んでソルヴィーニさんに言った。
「ここ!素敵です。特に温泉。是非見てみたいです!」
「あー、ここですか。確かに敷地は広いし、裏はとても広い国有地の湿原で国はそこを保全する意向ですので、立地的には最高なのですけどね…どうも、不用意に入ると落雷で命を落とすのですよ。どういうからくりなのかわかりませんが。」
「たまたま事故が起こったっていうことじゃないんですか?」
「事故というには頻度がはるかに高いんです。去年も10人は死んでるんじゃないかな?不逞の輩の輩がよく入ろうとするんですがね。敷地に入る橋を渡ったところで、大抵落雷に会うようですよ。」
「それって、橋を渡った人には必ず落雷があるってことですか?」
「侵入を試みたのが何人かはわからないんですけど、あの建物の中の様子を語る人がいないから、必ずってことじゃないんですかねぇ…」
私はここまで聞いてはっきり思い出した。ここってたぶん…昔、私が使ってたお家だ。落雷と言っているのは、上空約20kmに待機している空中基地によるレーザーのはずだ。この家はアスターシャと一緒に住む住居兼私の活動拠点として使うため、こうした防衛設備も整備したのだった。アスターシャが亡くなったことで、彼女と過ごしたこの家に帰るのも辛くて、そのまま私がいなくなったから、それがずっと稼働していたようだ。それにしても300年。何らかのメンテはしていたのだろうけど、よくもったなと思う。
「あの、このお家の来歴ってわかります?とっても古いみたいですけど…」
「三百年ほど前にあった王国の重要人物が使っていて、その方がいなくなってからは、所有権を移転されないままに今の王国が接収したらしいですね。当時から、ずっと人が入れない状態だったと聞きます。」
「私、そのお家の噂、聞いたことあります。人が入ると雷が落ちる呪いの家だって。実際に何人も死んでるんです。だからやめ方がいいですよ。もし住めたとしても、魔女みたいに言われちゃうかもしれないし…」
「セシオラさん、ありがとう。でもさ。私が住んでなんともなければ、逆に私が呪いを解いたって思われるかもしれないじゃない。サラ。あなたはこのお家、どう思う?」
「ちょっと広すぎて管理が大変そうだけど…間取りという面では申し分ないと思います。落雷のことは調べてみないと何とも言えませんね。でも…ルナさん、何か思うところがあるんでしょう?」
いたずらっぽく煌めく瞳は、落雷はあなたのせいでしょって言ってるみたいだ。どうやら私のことは、たいがいバレてるみたい。
「とにかく一度現地を見てみたいわ。落雷のことは何とかなると思いますから。」
「かしこまりました。これから行かれますか?ここからは歩いて1時間ぐらいかと思いますが。」
「そうしましょう。契約書は今ここで確認して、現地を見て気に入れば、その場でサインしたいのですけど。」
「はい、そのように。書類を作りますので、少々お待ちください。」




