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麻薬

リュミエールの話を聞き終わって、ルナが言った。

「なるほど。貴女のお父様の症状で特徴的なのは、ある薬を飲むと体調が即刻改善するっていう点ね。だったら、その薬というのがどんなものなのか、調べる必要があるわ。」

「はい。私もそう思ったんです。ですが、その薬を持ってきた人は特別な薬草が原料だと言うばかりで、薬草の名前も入手経路も教えてくれなくって…」

「お父様のご病気を治療するためでも教えてもらえないの?」

「はい。教えたからといって治るわけではないし、秘密が漏れたらもう二度と手に入らない。それは父にとっても困るだろう、と言うんです。」

「教えたことを内緒にしておけばいいのに、なんだか無理やり付けたような理屈ね。よっぽど教えたくないのか、知らないのか。話し方からは、知ってるけど教えたくないという感じがするわね。もし知らないというのなら、調べてみるぐらいは言いそうだし。ねぇ、その薬草に関連することで何か思い出すことはないの?思わぬことが手がかりになることもあるのよ。」

「はい。最初はその薬の原料である薬草を使ったお酒というのをプレゼントされて、それを父が飲み始めたんです。飲むと体調が良くなると感じたようで、健康のためと言って時々飲んでいました。でも何ヶ月かすると徐々に体調を崩すようになったのです。ですが、薬草酒を飲めば回復していたので、益々薬草酒に傾倒していったみたいです。でもそのうちに、薬草酒ではらちがあかなくなってきて、薬を服用するようになりました。」

「ねぇ。貴女も薬草を取り扱っているからわかると思うけど、今のお話って典型的な麻薬中毒の症状だと思わない?」

「……、えぇ……、」

リュミエールの瞳に見る見る涙が溢れてきて、遂にはワッ!と泣き伏してしまった。

リュミエールの横に座っていたサラが彼女の腕に自分の手をそっとあてがって、ルナたち三人はリュミエールが落ち着くのを少し待った。3〜4分経ったところでリュミエールはようやく話を始めた。

「私も…麻薬中毒の症状に似ていることはわかっていたんです。でも、よくある幻覚症状や支離滅裂な言動は見られなかったから、きっと麻薬中毒とは違うんだって…自分に無理やり言い聞かせて。もっとちゃんと調べるべきでした。」

涙を流しながらも、決意を示すかのようにキッと顔を上げたリュミエールに、ルナは優しく言った。

「まぁ、まだ麻薬中毒と決まったわけでもないし、もしそうだとしても、きっと治療することができるわ。だから、先ずはそのお薬というのがどんなものなのか調べることから始めましょう。薬の実物があると良いのだけど…手に入るかしら?」

「はい。私が今、持ってます。お医者様に相談する際に有ったら良いかもしれないと思って持ってきました。」

そう言ってリュミエールは、薬包紙に包んだ薬をポーチから取り出し、それをルナに渡した。どうやら粉薬のようだ。

「これ一つきり?もし他にも持ってるなら、これは使ってしまって良いかしら?」

「はい、どうぞ。余分にいくつか持ってますから、お薬の素性を知るためなら、どうとでも使ってください。」

それを聞いたルナは、薬包紙を開くと中の白い粉を指に付けてひと舐めした。味を確認するとルナは頷いて、おもむろに粉薬全てを口に流し込み、それをテーブルの上に置かれていた水と一緒に飲み込んだ。一同は、その行動を呆気に取られて見ていたが、やがてクレオパトラが心配そうに言った。

「お、お姉さま。大丈夫ですか?麻薬かもしれない薬を飲んでしまって。」

「心配してくれるのね。ありがとう。でも大丈夫よ。こういう物は、長い間に体に蓄積していくことが一番怖いことなの。この薬一包みですぐに困ったことになるはずはないわ。」

「では、何のために薬を?」

「薬を飲んだことで、私の体にどんな反応が起こるかを知るためよ。過去に色々な薬を飲んだ経験から、この薬がどういったものであるのか、だいたいわかると思う。」

するとリュミエールが疑問を口にした。

「本当にそんなこと、できるんですか?色々と言っても数は限られてるでしょうし、その時の反応と比べると言っても記憶には限りがあると思いますけど…」

「飲んだ薬の種類数は1000種類ぐらい。その時の私の体の反応は別のところに記録して保管してあります。ただ…証拠を見せるわけにもいかないので、結局は私を信じてもらう他はないわね。」

「そうですか…でも、お医者様に診ていただける目処もないですし、ルナさんの見立てを信じたいと思います。」

「もしこの薬がある種の麻薬だとして、その後の対応なんだけど、体内から薬が排出されるまでの期間、絶対に薬を与えないようにしなければならない、というのが普通の対応よ。でもそれには大変な苦しみを伴うから、ご家族や友人と一緒では、つい薬を与えてしまうことになると思う。なので、療養はご家族や友人のいないところで厳しく管理する必要があるのだけど…なんならウチで療養させましょうか?私は、麻薬中毒からの回復にも経験があるから役に立てると思う。」

「そうですね。麻薬中毒からの脱出には大きな苦しみが伴うことを私も知っていますから、ルナさんのお家で療養するのが良いかもしれません。相応のお礼はいたしますので、麻薬中毒ということがはっきりしたら、父の療養をお願いします。」

ルナは明日の14時頃、リュミエールが宿泊している宿を訪れ、薬の素性に対する見解を伝えると約束し、もし麻薬中毒である可能性が高いと判断できた場合は、早急にテレーゼ・テルメに出向き、リュミエールの父を引き取ることを申し出た。


リュミエールと別れたあと、ルナはサラとクレオパトラに相談をもちかけた。

「実際、リュミエールさんのお父様を説得してウチに連れて来るのは結構骨が折れると思うわ。もういっそのこと、薬で眠らせて連れてきちゃいましょうか?」

するとサラは難しい顔をして意見を言ってくれた。

「それは、リュミエールさんの信頼を損ねる行動になるかもしれません。それに、ルナさんもお気づきのこととは思いますが、お父様を隔離することは、麻薬をお父様に渡した者にとっては不都合なはず。合意なくお父様を連れ去ると、その非合法性をネタに奪還されてしまう可能性も出てきますし、もしそうなったら、二度と手が出せない状況に陥ってしまうかもしれません。」

「確かにそうねぇ。じゃぁ、まずは説得できるよう努力してみるか。」

するとクレパトラが心配顔で言った。

「でも…お姉さまの説得だけでは、なかなか難しいんじゃないでしょうか?リュミエールさんのお父様にとってお姉様は見知らぬ他人。そんな人がお父様の服用しているお薬が実は麻薬だったと言っても、きっと信じてもらえないと思います。お姉さまの他にもっと近しい人の賛同とか推薦がないと。」

「そうね。クレオパトラの言うとおりよ。私の考えでは、現地の大地聖教会の神父さんから、私のところで療養することを勧めてもらったら良いと思うのだけど。リュミエールさんが首にかけていたペンダントは、大地聖教会のものだったでしょう?だから、神父さんの言うことは受け入れやすいと思うのよ。幸い私たちには大地聖教会の特別枢機卿という強〜い味方がいるから、神父さんを動かせると思うのだけけれど、どう?」

するとサラが困ったように答えた。

「ルナさん。地方の神父さんを動かすのは、私には難しいかもしれません。何しろ私は聖職者ではないので宗教的な行事で表に出ることはないんです。だから地方の神父さんが私を知る機会はほぼ無いし、特別枢機卿という役職があることすら、たぶん知らないと思います。」

「え!そうなの?大司教クラスには結構知られてるでしょうが。」

「はい。世界中の大司教は、たぶん全員面識があると思います。でも、」

「「えっ、世界中!」」

ルナとクレオパトラは驚いて、思わずサラの話を遮った。

さすがにそれは手を広げすぎてない?とか、サラさんやり過ぎです、といったチャチャが入ったが、サラは二人の声を無視して続けた。

「地方の神父さんは私のことを知らないから、教区の信者を私が言うように動かすことについて簡単には同意しないと思います。」

私は呆れたという表情で暫くサラを見ていたが、やがてサラからフッと視線を外して言った。

「まぁ、先ずはその地方の神父さんに相談してみましょう。ここで心配してても始まらないもの。」

そう締めくくって、私たちは宿屋へ向かう道を三人並んで歩いていった。

道すがら、薬を飲んときの反応の記録はどこにあるのかとクレオパトラが訊いてきたので、そこは説明が難しいから、時間のあるときに絵なども使ってちゃんと説明してあげると答えた。これを説明することは、私がどんな人間なのか明かすことにも繋がるが、クテオパトラとは一つ屋根の下に住んでいるし、今後も長い付き合いになりそうなので、私のことはきちんと知っていて欲しと思った。


次の日の昼ごろ、薬を飲んだ以降のルナの体の反応を分析したヘルメスが、その結果を伝えてきた。それによると、リュミエールさんが持っていた薬は、懸念したとおり、ある種の麻薬と同じ作用を持つもののようだ。確率は70%とのことなのでそうメチャクチャ高いというほどでもないが、成分の化学分析をやっているわけではないので、この程度でもしかたがない。

私は早速、私が得た結果をリュミエールに知らせに行った。判定の理屈は前に説明したとおりで証拠を示すこともできないから、リュミエールが信じてくれないことが心配だったが、得られた結果がリュミエールの懸念を裏打ちするものだったため、すんなりと納得してくれたようだった。

話を聞いたリュミエールは、やっぱり…と呟いて暗い顔になった。

「大丈夫。ちゃんと対処すればきっと良くなるわ。貴女は領に帰り、私のところで療養することを了承してくれるよう、お父様を説得して。説得のときには、できれば一緒に説得してくれる第三者を呼んできて。例えば、大地聖教会の神父さんなんか良いんじゃないかしら。」

「はい、わかりました。ですが、テレーゼ・テルメの神父様は最近交代されたばかりなので、お父様が拒否した場合はルナさんの所での療養をあまり強く勧められないかもしれません。」

「神父さんの他に適任者が居れば良いけど、もし居ないなら、その神父さんに期待しましょう。神父さんへの説明にはサラも同席して貰うわ。サラは自分が特別過ぎて神父さんへの影響力は小さいんじゃないかと思ってるみたいだけれど、でも特別枢機卿を称する者の言うことは、きっと無視できないと思うの。あと、その麻薬をお父様のところに持ってきた人は、もう近づけないで。その人に悪意があったかどうかはまだわからないけど、悪意があった場合は危険を呼び込むことになるから。その人の白黒は別途つけます。」

「わかりました。できるだけ早く準備を整えて、領に戻れるようにします。明後日の朝には出発できると思います。」

「私たちの同行について、貴女の馬車にサラが乗る余裕はあります?なければ私も馬車を準備する必要があるから教えて。」

「サラさんが私たちの馬車に同乗いただくことは可能です。でもルナさんが乗るにはスペースがなくて…」

「あら。私は馬で十分。それに、途中で盗賊などに遭遇した場合は馬の方が動きやすくて良いわ。そうそう。言い忘れていたけれど、お父様を私の家に受け入れた後、できるだけ早い時期に私の家を見に来てちょうだい。そのときに貴女が納得できなければ、療養は中止することで良いわ。」

こうして私たちは、リュミエールと一緒にテレーゼ・テルメへと向かうことになったのだった。

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