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商工会の懇親会にて

懇親会当日の10時頃、リュミエールはティベリオとジュリアーナを伴って、馬車に乗って会場のレストランへと向かった。このレストランはピアチェ・アンドレと言って、王都一とも謳われた極上の料理を出すことで知られた店だった。格式の高いエントランスから中に入るとそこはホワイエで、待ち合わせのためのソファやテーブルが置いてあった。ホワイエの一角にはクロークが設けられており、その受付のデスクの後ろには商工会の職員が居て、今日の出席者の確認を行っていた。リュミエールたちは受付を済ませると、レストランのホールへと入っていった。そこは普段は20卓ほどのテーブルがゆったりと配置される空間なのだが、今日は立食形式のため、5卓の円形テーブルが配置され、壁の一面に料理と飲み物がズラリと並べられていた。

リュミエールは、まず会頭のジュゼッペのところに行って挨拶し、昨日ランベルト医院を訪ねた結果を報告した。

「やっぱりランベルト先生の往診は難しいか。他の良さそうな先生で引き受けてくれる人がいると良いのだが…」

「はい。一応ランベルト先生からは、三人の先生方を教えていただきましたので、今日の午後以降に訪ねてみます。」

「そうか。往診に応じてくれることを祈ってるよ。」

「はい、ありがとうございます。」

報告を終えるとリュミエールはジュゼッペの下を離れ、商売上の関係が深い医薬品製造会社の経営者や輸送関係者、領地に食品や必需品を持ち込んでくれる商人などと挨拶を交わして行った。

開会時間まであと少しとなった時に、扉の開放されていた入り口から、三人の女性が入ってきた。彼女たちの佇まいは三者三様。纏った雰囲気は懇親会に参加している他の人々とは全く異なったものだった。中央の一人は背が高く色白で外国人と思われる彫りの浅い面立ち。濃い眉と切れ長の目に輝くエメラルドグリーンの瞳がとても印象的だ。艶やかな漆黒の髪を頭の後ろで束ね、黒いタートルハイネックのシャツと黒い短かめのスカートに、幅広の銀のベルトを締めており、活動的なイメージである。

その女性の右腕に抱きつくようにして身体を寄せているのは、まだ十代と思しき娘で、褐色の肌にタカのような鋭い眼差し。オアシスに煌めく湖を思わせる大きなブルーの瞳がとても美しい。砂漠の国を思わせる白い衣装は透けている部分が多く、スレンダーではあるがメリハリのあるボディのラインを浮かび上がらせている。最後の一人は一言で言えば、「神々しくも美しい修道女」である。艶のある純白の布地に金と瑠璃の刺繍をあしらった豪華な修道女服に身を包んでおり、その容貌は信じられないほど端正な造りであるのだが、神秘的なアースアイの瞳、ふくよかな紅い唇、頭巾から覗いている淡いオリーブ色の髪の毛は、全体的に暖かい印象を醸し出している。

彼女達が入場して間も無く、会頭補佐のルフィオが開会を宣言し、会頭のジュゼッペが挨拶を述べた。その後、商工会に最近加入した三つの商会が前に呼ばれ、自己紹介の場が設けられたのだった。リュミエールは、先ほど入ってきた三人組の女性のうち黒い服と修道女服の二人が進み出るのを見て、この方たちが会頭の言っていた新しい商会の人たちだったのだと理解した。彼女達はそれぞれの名と簡単な来歴を説明したあと、ルナという女性が代表して、彼女たちの商会が提供するサービスについて説明してくれた。その説明は、ジュゼッペ会頭から聞いていたとおり、天候予測に基づく航海プラン提案と天候予測が外れ損害が発生した場合の補償を提供するというものであったが、それ以外にも、何か相談ごとがあれば可能な限り力を貸すとの話があり、むしろ今後は、そちらの方に力を注ぎたいという意向のようであった。その背景には、ルナという女性はこれまでに様々なことを経験してきているので、その経験がきっと役に立つはずだと確信しているようであった。この説明を聞いて疑問に思ったリュミエールは、隣に立っていたティベリオにそっと話しかけた。

「ねぇ、ティベリオ。彼女はまだ若そうだから、経験といっても限られるはずでしょう?そんなに多くのことには対応できないんじゃないかしら?」

「そうですねぇ…でも、会頭からこの前聞いた話では、普通の人にはできないようなことが色々できるようでしたから、難しい問題でも解決できるかもしれませんよ?それに、大地聖教会の助力が見込めるのは、情報収集という面だけでも大きな強みになるでしょう。」

リュミエールはこれを聞いてなるほどと思ったが、さすがに父の病状は相談しても無駄だろうと、少し残念に思った。


さて、新規加入者の紹介が済んで、会は飲食しながらの歓談に入った。リュミエールはルナ達を観察しながら話しかけるタイミングを見計らっていたが、王都で傭兵部隊を運営する人との話が終わったところで、その機会を得ることができた。リュミエールは、先ずは自分たちと領の産業のことについて説明し、その産業保護のために天候予測のサービスを受けたいとの話を切り出した。

「なるほど。嵐の到来を事前に知ることで栽培している薬草の被害を抑えたいのと、出荷した産品の輸送が悪天候に重ならないようにしたい、というわけですね?」

ルナの確認に、リュミエールは頷いた。

「嵐が到来するという情報は、その到来の何日前に得られれば良いのかしら?」

「最悪4日前に知ることができれば大丈夫だと思います。それだけの準備期間があれば、水の流入を防ぐ土嚢の設置とか、収穫を早めるとか、かなりの対策が取れると思いますから。出荷の方も、同様に4日前にわかれば、人の手配など十分に対応できると思います。」

「だったら大丈夫ね。天候予測はだいたい10日先までできるの。貴女の領はテレーゼ・テルメとのことだから、私の所からは早馬で1日。なので、嵐が到来する8〜9日前には対策を取り始められる。」

「あの…失礼ですが、本当にそんなに早く予測できるんですか。」

「今のところは信じてもらう他はないわね。心配なら1ヶ月単位の契約にして、支払いをサービス提供期間の最終日にしても良いですよ。私の予測に問題があった場合は、支払いについて話し合いをして、折り合いがつかなければ審判で決着させることになります。」

「いえ。1ヶ月単位の契約にしていただけるなら、月初めに料金はちゃんとお支払いいたします。あの…おいくらぐらいに?」

「今回は初めてのケースだから規定の料金というのは決めてなかったのだけど…そうね、日々の天候予測の料金は月5万ルークでどう?早馬を使う状況が発生した場合はその実費を別途いただきます。」

「え、そんなに安く?」

「定点の天候予測は航海スケジュールを提案するよりはずっと簡単ですもの。」

「わかりました。だったら契約します。それと、船舶と同様に、出荷した産品に保険をかけることはできないでしょうか?」

「天候予測が外れたことによって出荷した産品に損害が生じた場合ってことですよね。うーん、それはちょっと引き受けにくいわね。できないわけではないけど、私の手間は船舶であっても馬車であってもあまり変わらない。なのに積荷の量は船舶よりずっと少ないから、商品1個あたりで考えればかなり割高になります。それに陸上では、天候以外にも色々とトラブルに巻き込まれる要因は多い気がするから、保険をかけるよりは、ちゃんとした護衛を雇った方がずっと良いと思います。それよりも、一度領地を見学させていただけないかしら。私は治水についても知識があるから、何かアドバイスできるかもしれない。」

「え、ほんとですか?では、ルナさんたちのご都合を伺って、スケジュールをご提案します。天候の予測は来月からお願いします。」

「わかりました。」

こうして私は、ルナさんの商会と天候の予測に関する契約を結んだのだった。


懇親会は午後2時ごろお開きとなった。

リュミエールは午後の時間を使って、ティベリオと共にランベルト先生に紹介された2名の医者を訪れ、父親の状況を説明して往診を頼んでみたが、結局ランベルト先生と同様、領に一定期間滞在して様子を見るのは難しいとの答しか得られなかった。

意気消沈したリュミエールは、少し一人にしてくれと言ってティベリオと別れ、暮れなずむ王都のカフェでお茶を飲みながら、さてこれからどうしたものかと、ぼんやりと考えていた。するとその時、リュミエールに声をかける者がいた。

「リュミエールさん!」

若い女性の声がして、パタパタと駆け寄ってくる気配。見ると、ルナさんたちの商会に話をしたときに紹介された、クレオパトラという異国の若い子だった。

「お昼はどうも。お一人だったので迷ったんですけど、何か心配ごとをお持ちのようだったから声をかけてしまいました。ごめんなさい。もしお邪魔なら言ってください。」

「邪魔だなんてとんでもない。声をかけてくれてありがとう。優しいのね。確かに心配ごとがあるの。それでどうしたものかと悩んでいたところよ。」

「もしよかったら、お姉さまたちに相談されたら良いと思います。ほら、すぐそこに。」

「お姉さまたち?」

クレオパトラが指差す方を見ると、ルナとサラが近づいてくるところだった。

「リュミエールさん。クレオパトラがお邪魔してしまったようで、すみませんでした。でも、もし良かったら、その心配ごとをお聞かせいただけませんか?ダメで元々。何かの足しになるかもしれません。」

「そうですよ。ここでお会いしたのも、アスタルテ様のお導きかもしれませんもの。それに、ルナさんはダメで元々なんて言ってますけど、何がしかの助言はできると思います。だって、ルナさんは見てくれどおりの年齢ではありませんもの。ね?」

サラは、最後の「ね?」のところでルナの方を悪戯っぽく見ながら、同意を求めてきた。

「ちょっと。私が年寄りみたいな言い方をするのは止めてちょうだい。でも、昼間言ったように、経験は色々と積んでいるから、何かアドバイスできるかもしれません。」

リュミエールはこのやり取りを聞いて少し明るい気持ちになって、自分の心配事について説明し始めた。

「特に隠すようなことでもありませんので、聞いてください。実は、私の父のことで悩んでいまして…」

ルナたちはときどき頷きながら、リュミエールの説明を熱心な様子で聞いてくれた。

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