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会頭からの情報

王都へ着いた翌日、リュミエールは家令のティベリオと一緒に商工会の会頭を訪ねることにした。侍女のジュリアーナも同行を申し出てくれたが、リュミエールはこれを断った。大雨による到着の遅れで王都観光を断念しなければならなかったため、ジュリアーナだけでも自由にさせてやりたいとの想いからだった。

会頭が不在でないことを祈りつつ、商工会に行って受付の女性に来意を告げると、すぐに会頭室へと案内された。会頭室では、会頭のジュゼッペ・ミスティナーゼと、会頭補佐のルフィオ・ファルネーゼが、湯気の立ち上るコーヒーを飲みながら談笑しているところだった。部屋に入って来たリュミエールたちを見ると、ジュゼッペは相好を崩して先に声をかけてきた。

「おぉ、リュミエールにティベリオ。久しぶりだな。二人とも元気にしていたか?」

ジュゼッペは父・エルラドの昔の商売の仲間であり、ファルファレッテ家の家業に対して今でも色々と便宜を図ってくれている人物であった。またリュミエール個人にとっては、彼女が王立ミカエル学園で学んでいた時に彼女のことを色々と気にかけてくれた恩人でもあった。

リュミエールとティベリオは、ジュゼッペとルフィオに改めて挨拶するとともに、リュミエールが父親のエルラドから領地経営学びつつあることを説明した。

「そうか。お嬢さんもいよいよ社会に出ることになるのだな。今回の懇親会への出席もその勉強の一つなんだろう?最初なんだからエルラドも一緒にくれば良いのになぁ。」

そう言われて、リュミエールは表情を曇らせて説明した。

「実は、父は最近体調が思わしくないので、無理をしないように今回は領地で休んで貰っています。」

「そうなのか?体調が悪いとは、どんな感じなんだ?」

「悪い状態になると、身体が重く感じられて動くのが億劫になるみたいです。それに、頭がぼんやりするのだと。少し前までは、そういった状態が3〜4日おきに来ていたのですが、最近知人が持ってきた薬が効いて、それが20日おきぐらいにはなりました。でも根本的な治療にはなっていないので、王都で良いお医者様を見つけ出して、父の具合を診ていただこうと思っています。」

「そうか、それは心配だなぁ。王都で良い医者ということになると…うーん、やっぱりランベルト先生なんだろうなぁ。ルフィオ、お前はどう思う?」

「ええ、私もランベルト先生は第一に挙げられるべき先生だと思います。ただ…あの方は人気がありすぎるので、遠出の往診はまず無理ではないかと思います。」

「そうなんだよなぁ。それに他の良さそうな先生も、事情は似たりよったりだと思うんだよな。王室のお抱え医師だったら、時間は作れるんだろうが、引っ張り出すのはさすがに無理だろうし。」

「なるほど、そうかもしれませんね。でも私、一度ランベルト先生という方をお訪ねして、事情を話してみます。ダメでもともとですもの。」

「そうだな。話を聴いたら何かアドバイスをしてくれるかもしれん。いつ訪ねるつもりだね?その時に職員の誰かに先生の医院まで案内させよう。」

「ありがとうございます。でも地図をいただければそれで十分です。ところで…」

私は明日の懇親会に新しく出席するという、若い女性二人組みの商会について尋ねることにした。

「何でも、かなり先まで天候の予測ができると聞きました。それがもし本当なら、嵐が来る直前に栽培している薬草を保護する何らかの措置を講ずることができますし、それに、薬草の出荷でも被害のなさそうな日を選べるかもしれません。だから信じるに足る人たちなら、天候予測の契約を持ちかけたいんです。ジュゼッペおじ様はその人たちがどんな人かご存知ですか?」

「そうだなぁ…彼女たちがどういう動きをしているかは知っているが、どういう性質の人間かをはっきり判断できるレベルではない、というところかな。」

「おじ様がご存知の範囲で良いので、教えていただけたら助かります。」

「もちろんいいとも。まず最初に言っておくが、彼女達はとても変わった人間ではあるが、私は悪い印象は持っていない。これにはルフィオも同意してくれると思うが、どうだ?」

「はい、同意します。というか、むしろ良い印象を持っていますね。」

「まぁそうだよな。二人とも美人だものなぁ。」

「会頭、からかわないでくださいよ。」

「はは、すまん。彼女たちの名前は、一人がミラーダ・ルナ・イスルギ。そしてもう一人はサラ・セントマリアと言う。ルナの方は東方の遠い島国の生まれということで、顔立ちなど異国人の特徴がある。背が高く、見た目では20代後半といった感じ。最近この国にやって来たのだが、それまでどこで何をしていたかはわからない。だが、普通はできないようなことが色々できるようだな。天候の予測はその一つで、本人は遠方の情報を知る手立てがあるから、その情報を元に予測していると言っている。だがその手立てというのが具体的ではないから、信憑性に欠けるのは否めないな。普通は10日も先の天候を予測するなんてできないだろう?だから、何かカラクリがあるのかもしれないな。それで最初にこのルフィオが試したのさ。ルナが予測した日に雨が降るかどうか賭けをしようと持ちかけたんだ。ルナは全く動じることなく、当然自分が勝つものとして賭けを受けた。ルフィオも最初はルナが負けることに賭けようとしていたらしいが、途中から宗旨替えしてルナが勝つ方に賭けた。結果は、ルナたちが負ける方に賭けた者たちの反感を買う結果になったというわけだ。」

「そうすると、天候の予測は可能なんですね。」

「あぁ、そのとおりだ。少なくとも悪天候に巻き込まれないような船の航海スケジュールを提案できる確信はあるようだな。」

するとルフィオが口を挟んできた。

「俺はこの前ルチアーノの奴と飲んだんです。ルチアーノは最近ルナさんと一緒に航海をしたことで、彼女のことが色々わかったって言ってました。奴に言わせるとルナさんはとんでもない女、なんだそうです。」

「ほう。どんなふうにとんでもないのかな?」

「まず最初に航海ルートの提示を受けたとき、ルナさんが持ってきた地図は、これまでお目にかかったことがない、精密なものだったんだそうですよ。海岸線の凹凸まではっきりわかるようなレベルの。それで、売ってくれと頼んだのだけど断られたそうです。」

「地図か。それは興味深いなぁ。私も一度見せてもらいたいな。」

「それから、航海に出た後なんですが、航路から10kmも離れている島に漂着者が居るから進路を変えろと言い出したんで、行ってみると実際に若い女の子が浜辺に打ち上げられていたんだそうです。きっと、例の遠くの情報を得る手立てを使ったんだろうと言ってましたが、いったいどういう仕組みなのか不思議がっていましたね。」

「そういえば、ステファネッリの審判の時にも、造船所の親方の娘を探し出したことがあったな。それから?」

「航海の目的地がアレクサンドリアだったんですがね。そこで、助けた女の子をめぐるトラブルがあって、その解決を請け負ったんだそうです。その時に見せた運動能力や戦闘能力は人間とは思えないレベルだって言ってました。何がどうなったのかもっと教えるように頼んだんですが、あまり教えるとヤバいとかで、それ以上は聞けませんでした。」

「あのルチアーノがそう言うんじゃ、確かにとんでもないレベルなのかもしれんなぁ。だが、普段話をしているぶんには、気のいい姉さんっていう感じなんだが…」

「不思議な方なのですね。あまりにも不思議だから、ペテン師や詐欺師ではないように思います。もし人を騙そうとするなら、人が信じそうなことを言うはずですもの。」

「まったくそのとおりだ。だが、常識からすると信じがたいよなぁ。」

「それで、もう一人の方は?」

「実はそちらも普通とは言い難いな。名前はサラ・セントマリア。こちらも外見は20代後半といったところだ。大地聖教会の特別枢機卿という触れ込みで、教会の修道女のような服をいつも着ている。そういえば、リュミエールの家は大地聖教会の信徒じゃなかったか?」

「はい、そのとおりです。でも…特別枢機卿っていう役職があったかしら。」

「私も聞いたことがなかったので、調べてみたんだ。すると確かに、大地聖教会には特別枢機卿という役職がずっと存在していることがわかった。わかったんだが…それが何をする役職なのかはさっぱりわからない。本人曰く、教会に所属はしているが聖職者ではないんだそうだ。祈ったり祝福したりはしないらしい。面白いのは、この王都や近隣都市の大司教たちは、調べた範囲では全員がサラに対して並々ならぬ好意を抱いているので、サラが頼めば大概のことはやってくれるらしい。これは大変な権力を持っているのと同じってことだ。それに、どうやらとんでもない金持ちのようだぞ。」

「聖職者なのに?」

「だから違うって本人は言ってる。」

「まぁ!じゃぁ、その二人の組み合わせって、とんでもない力があるってことになりますよね?」

「あぁ、そのとおりだ。だが本人たちは、それを意識している節はないようだな。」

私はこうした話を聞いて、明日彼女たちに会うことが、俄然楽しみになってきた。


リュミエールは商工会を辞すると、もらった地図を頼りに、ランベルトの医院を訪問した。そこは、王都の外れの小高い丘の上に建つ、教会を改装したらしい建物だった。そこに着いた時、リュミエールはジュゼッペたちが言っていたことを実感として理解した。とにかく患者が多いのだ。医院の外にはごく簡素なガゼボが設置されており、20人ほどの患者がベンチに腰をかけて順番待ちをしていた。リュミエールは、とりあえず受付で用件を説明してみるとティベリオに言って、医院の中に入っていった。

彼女は10分ほどで戻ってきて、はぁとため息をついた。

「その様子では望み薄の感じですね。」

「中にも20人ほどの患者さんが居てね。受付の人と話をするのにも少し待ったわ。お昼休みの前に先生に話を聴いてもらうから、それまで待って欲しいそうよ。今から2時間ぐらい先ね。」

「そうですか。かなり待つことになりますね。旦那様の往診の話は、私が可能性を聞いておきましょうか?お嬢様は王都の見物でもしていてください。」

「いえ、お父様の話は私がすべきだと思う。娘の私が直接話をした方が先生にも響くでしょう?そうなったら往診の可能性も出てくるかもしれない。」

「それはそうですね。では、私は商売の関係者への挨拶回りを少しこなして来ます。2時間後にお迎えに上がりますよ。」

ティベリオが挨拶回りに出てから、私は何人かの患者さんにランベルト先生の良い点を訊いてみた。皆の答えはほぼ同じで、先生はとにかく患者さんの言い分をよく聴いてくれる点が良いということであった。これは医者としては重要であろう。患者は事実と自分の推測とを同時に言うものであるから、事実をきちんと切り分けて診療に当たっているのであれば、このランベルト先生はなかなかの医者だと言える。後で先生と話をした際に、この点ははっきりさせておかなければならないと思いつつ、リュミエールは自分が呼ばれるのを待った。


待つこと2時間半。ティベリオも戻ってきて、ようやく昼休みというところで、リュミエールはランベルト先生と話をすることができた。先生は50代後半の精力的な風貌の持ち主であったが、人に対する接し方にはかなり気をつかっていることが感じられた。リュミエールはできるだけ詳しく父・エルラドの体調の経緯を説明した。

「それはさぞ心配でしょう。今のお話で経緯はだいたいわかったのですが、やはりきちんとした診断をするには、発症したときの様子を観察することが必要と思います。今服用している薬もどういう効果があるのか確認する必要もありますし。そのような観察をするためには、症状が出るまでお近くに待機しておく必要があるのですが…残念ながら、お父上の領地で待機する余裕は私にはありません。もしお父上がこの王都に滞在できるのだったら、症状が出たときに私が往診することは何とかできると思います。お父上を連れてくることは可能でしょうか?」

「連れてくるこはできると思いますが、滞在は宿屋になってしまいます。でもそれは父にとっては環境が変わることになって、負担になりそうです。」

「そうですか。そうだとすると私以外の医師を当たる方が良いかもしれませんね。幸い私は、この街の医師のとりまとめ役ということでもありますので、信頼できると思われる医師数名を紹介することはできます。」

リュミエールは先生のこの申し出に感謝して、3名の信頼できる医師の名を教えて貰うと、ランベルト先生の医院を辞した。

ティベリオと一緒に昼食を挟んだあと、リュミエールは3名のうちの一人の医者を訪ねたが、ここもやはり大変な混雑ぶりで、長いこと待った挙句、ランベルト先生と同じようにテレーゼ・テルメに滞在して父の診察に当たるのは無理ということがわかっただけであった。

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