一応の居場所ができました
これまで気になっていた部分を改作します。
最後のエピソードまで行ったら、新エピソードも書いてゆきます。
どうか、暖かく見守っていてください。
外へ出てから3分後
彼らをあっさりやっつけて追い払ったあと、私は元々座っていた席に戻ってきた。固唾を吞んで窓から一部始終を見守っていた宿屋の主人達は、一斉に私のテーブルに駆け寄ってきた。
「だ、だいじょうぶですか?」
目を丸くして尋ねてくる。
「ええ。賭けに負けた腹いせに喧嘩をふっかけて来た罰として、痛めつけてから、この宿屋には二度と来ないように言っておいたわ。万が一来たらそのときは命を落とすことも覚悟しておいてねって。ねぇ、エールを一杯お願いできます?喉が渇いたの。」
「は、はい。今すぐに。それにしても、今のは何だったんですか?かよくわからないうちに、片付いた感じなんですが。」
私の立ち回りを見た人は、確かに、何がなんだかわからなかったろう。私に触れようとした相手はすぐに転がされることになるのだが、側から見ていると、それはまるで自ら転がっているように見える。複数でほぼ同時に仕掛けたとしても同じこと。実は、私の実家は合気道の道場を経営していたため、私も幼少の頃から20年ぐらいは修行をして来ており、成人する頃には既に師範の実力を持っていた。それに今でも鍛錬は欠かさず行っているので、普通の対人戦で遅れを取ることはまず無いのだった。
「合気道って言うの。私が生まれた地域で大昔に創設された武道です。」
「まるで芝居で見る戦いのシーンのようでした。芝居は、動きが予め決まっているから、カッコよく立ち回れるものなんだが…」
宿のご主人は、未だ半信半疑のようだ。一方、給仕の女の子は私の言うことを全面的に受け入れて、目をウルウルさせながら、感極まったように言った。
「お姉さん!何て強いの。」
「だから言ったでしょう?私は強いって。あのぐらいの人たちなら何人来ても軽いものよ。」
私はそう言って、軽くウインクしてみせた。
「それに、腕相撲もすごく強いです。私、前にあのブルーノっていう人が、腕相撲で何人も騎士を負かしているのを見たことがあるんです。でもお姉さんはそのブルーノを子供扱いだった…」
これは、宿屋の帳場に立っていた子だ。感じからして、どうやら宿宿の娘さんのようだ。
「ふふ…腕相撲は立会いで決まるからね。私は反応がもの凄く早いから、絶対に負けないの。」
すると宿屋の主人が私に挑戦してきた。
「理屈じゃそうかもしれんけど…もし良かったら、試しに私と勝負してくれませんか?」
「いいわよ。じゃぁ、真ん中のデーブルでやりましょう。」
「お、おう」
私が構えると、宿屋の主人も遠慮気味に私に合わせてきた。
「じゃぁ、審判は私がやりますね。」
帳場の女の子が、二人の間に仕切り板を差し入れる。
「いいですか?では…始めっ!」
仕切り板が外された。それと同時に私は瞬間的に相手の手を取ってテーブルに押しける。宿屋のご主人は手に力を入れることもできていない。
「ほら、どう?」
「こ、こりゃぁ…確かにどうしようもないな…。」
宿屋の主人はまだ信じられないといった表情で、呆然と自分の手のひらを見ている。
「でも、こんなに強くても腕相撲ではお仕事にならないしねぇ…。これから何をして生計を立てるか、ちょっと悩んでるの。」
「腕が立つみたいだから、用心棒はどうです?護衛任務とか色々あるはずですよ。」
「うーん…そうねぇ。でも、さっきの奴らの同類って見なされるかと思うと、ちょっとやる気がおきないっていうか…私これでも頭脳派なのよ?」
そう言いながら、エールを飲んでは残りの料理をどんどん平らげてゆく。周りを囲んでいた宿屋の関係者はあきれたような顔で、どう見ても肉体派でしょ?という目をして見ている。
「あー、美味しかった。噂どおりの美味しさでした。ごちそうさま。ところで、さっき聞いた給仕の方のお話や、今のゴロツキのこととか考えると、何か色々困ってる人は多いんじゃないかと思うのよね。だから、当面の収入源として困りごと相談をやろうかなと思うの。頭脳派ではあるんだけど、力ずくでの解決も含めて色々提案できると思うから。」
「あぁ、確かに、色々とお困りの方は多いかもしれませんね。でも、そういのって評判とか信用がないと、なかなかお客さんが来ないんじゃないですか?」
「ええ、それはそう。だからね…このお店に宣伝のポスターを貼らせてくれないかしら?何か予定がない場合はこの食堂で晩御飯を食べるっていう条件で。最初は難しいでしょうけど、今日のゴロツキたちの退治について説明するのにも都合がいいし…。それに、万一仕返しがあったとしても、また撃退してあげるわよ?」
「そりゃ…ウチはかまいませんよ。姉さんが有名になれば格好の客寄せになるし、姉さんひとりで4人前は食べてくれそうだから、それなりの儲けになりますからね。ポスターの一枚や二枚大歓迎です。でも、ポスターだけではインパクトが弱いから、何か宣伝になりそうな依頼を1つでも成功させられると良いんですがね。」
「ポスターに、アスターシャ王女ご推奨って書いたらどうかしら。アスターシャ王女は有名でしょう?」
「え、アスターシャ様って、この辺りの上下水道の整備に貢献された?もう、300年ぐらい前の方ですよ?その方がどうやってお客さんのことを推奨するんですか。」
「ごめんなさい。推奨っていうのは言い過ぎだったけど、一応こんなものもあるから、名前を出すのは良いかなって思って。」
私は、常に身につけている首飾りを外してそのペンダントトップを皆に見せた。そこには、彼の王女のレリーフと、「上下水道建設に尽力したことに感謝を捧げます。我が友ルナ・ミラーダへ。アスターシャ・ラ・マパロヴァ」との文言が刻まれていた。
「お客さん、これ、どこから持って来たんですか。あまり見せびらかすと窃盗の疑いをかけられますよ?」
「でも、ルナ・ミラーダは私の名前なの。正式にはミラーダ・ルナ・イスルギですけど。」
「同性同名ってことですね。でもそれを、さも自分のことのように言うのはどうかなぁ。これのことを書いたら、却って信用無くしますよ?」
「しょうがない。アスターシャの名前を使うのは諦めるか…」
同姓同名ってわけではないんだけど…とブツブツ言いながら、私は首飾りを戻した。
「そうしてくださいよ。ところで、もし良かったら、飯を食った後の1時間はウチに居てくれませんかね?できる時だけで良いので。姉さんには華があるから、うちにとっては客寄せになると思うし、姉さんにとってもいろんな人と関われるからチャンスが広がるんじゃないですか?飲み物をサービスしますから。」
「そうねぇ…晩ご飯食べてさっさと帰るっていうのもつまんないかもね。」
「よし、決まった。じゃぁ、今日からお願いします。」
「わかりました。よろしくお願いしますね。ポスターはできたら持ってくるわ。それと、もし何か助けが要るっていう人の話を小耳にはさんだら、私に教えてちょうだい。」
こんな経緯で私は、夕食後1時間はその食堂に詰めることになったのだった。




