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リュミエール・ファルファレッテ

やっと、次のエピソードに着手できました。

書き溜めているわけではないので、今後も散発的に投稿することになりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

テレーゼ・テルメは、王都サン・メルテティーナの北北東、馬車で約2日の所に位置する、清流の集まる山間の盆地に拓けた街である。この地の経済を支える主要産業は清流を活かした薬草栽培であり、特産のザギリア草は、ナポリエール王国全土に発生する赤斑病という風土病の特効薬の原料として知られている。このザギリア草の栽培方法の確立には、領主であるエルラド・ファルファレッテ子爵とその父のリカルドの功績が大きかったと言われている。ザギリア草栽培の成功によりファルファレッテ家の経済は潤い、子爵レベルの貴族の中ではかなり裕福な家であった。

ファルファレッテ家の現在の家族構成は、当主であるエルラドと一人娘のリュミエールの二人だけである。エルラドの両親は既に身罷り、エルラドの妻のリリアーナも、リュミエールがまだ5歳の時に亡くなった。後継者となる子がリュミエール一人だけであったため、エルラドは後妻を迎えて子供を儲けることも考えたが、リリアーナを深く愛していたことや、リュミエールを大事にしたい気持ちが強かったため、結局は男やもめのままでいたのだった。

そんな事情もあり、エルラドは娘の教育には大変熱心であった。幼い頃より複数の家庭教師をつけ、15歳から3年間は王都に屋敷を借りて、そこから王立聖ミカエル学園に通わせた。そして17歳の卒業と共に領地経営を学ばせるべく、彼女を領地に戻して自分と一緒に領地の運営に積極的に関わらせるようにした。また一方では社交界にもデビューさせ、他者との交流スキルを磨かせ、他家との関係を築けるように配慮した。

リュミエールは、砂色の髪に大きな青い瞳の大変な美人で立ち姿も美しく、社交界では嫁にと望む声も多かった。だが、エルラドとしては、彼女は大切な跡取りで嫁に出すわけにもゆかず、また次期領主として学ばせるべきことも多かったため、今日に至るまで婚約を結ぶには至っていない。リュミエール自身も、社交よりは領地経営の方が性に合っていたようで、男性が言いよってきても適当にあしらうのが常であった。

リュミエールが19歳の時、ファルファレッテ家には、薬草の流通の関係で一人の貴族が出入りするようになった。名前をラウル・トリスターノと言う。彼は隣国ロマーノ王国の子爵の次男という触れ込みで、国をまたいでの薬草・薬品の流通を取り仕切り、自らも商隊を組織して輸送に携わるという、ちょっと変わった男であった。年齢は27歳とのことで、金髪碧眼のハンサムな男であったが、彼の部下たちは見るからに素性の悪そうな者ばかりであった。リュミエールには、そのような部下たちを従えるラウルを少し怖いと感じていたし、ラウルが浮かべる微笑も何か胡散臭い気がしていた。このため、リュミエールはラウルをできることなら遠ざけたいと思っていたが、当主のエルラドは、ラウルが商売のついでに持ってくる他国の珍しい品々や話が気に入ったためか、彼との関係を深めていった。ラウルが持ってくる他国のものでエルラドが特に気に入っていたのは、ある特別な薬草酒だった。エルラドは、これを飲むと気分がすっきりして体調も良くなると言って、この酒の定期的な入手をラウルに依頼した。ラウルは、この酒は希少な薬草を使ったなかなか手に入らないものであるが、精一杯の入手努力をするとエルラドに約束し、実際、前の酒がなくなる頃までには必ず次の酒を入手して持ってくるようになった。そんなことがあって、エルラドはラウルを信頼するようになり、両者の関係は友人的関係に進化して、今ではときおり晩餐を共にするようなっていたのだった。

ある日の晩餐の時、エルラドはラウルに最近の心配事を打ち明けた。

「ラウル君、私はどうも最近体調が思わしくないのだ。ときおり、身体が重く感じられて動くのが億劫になる。それに思考もどんより曇ったようになって、気持ちが優れない。君が持ってきてくれる薬草酒を飲むと、その症状がかなり緩和するので、それで何とか仕事ができるという状態でね。そのため、薬草酒の消費量も増えてきているから、もう少し多く仕入れるようにしてもらいたいのだ。できるかね?」

「それはいけませんね。薬草酒の仕入れ量を増やすよう相談してみますが、代金は上がるかもしれません。なにしろ貴重なものを分けてもらっている立場ですので。お仕事はお嬢様に任せて暫く休んで静養されてはいかがですか?お嬢様もかなりお仕事を理解されて来ているのではないでしょうか。」

「お父様。素人判断で薬草酒の量を増やすのはちょっと心配です。一度信頼のおけるお医者様に診てもらって、きちんと診断しそれに適した処置を受けるべきですわ。でも、それはそれとして、お仕事を暫くお休みされるのは良いかもしれません。」

「リュミエール、お前の言うとおりかもしれんが、残念なことに私には信頼のおける医者というのに心当たりがないんだ。変な医者にかかっていい加減な処置を受けると、それが却って症状を悪化させる可能性もあるしな。だから当面は、効果があるとわかっている薬草酒の世話になりながら、良い医者を探そうと思う。それにお前は仕事のことは理解しているとしても、まだ若いから相手に舐められる可能性もあるだろう?私が後ろについて居れば、そういうことも回避できると思う。だから私は完全に休むことには躊躇してしまうんだよ。ただ、今後は自分の負担はできるだけ減らすように心がけるよ。」

「お父様。そんなこと言わずに。私、頑張りますから、どうか静養してください。」

「リュミエール、心配してくれるのは嬉しいが…」

リュミエールの懇願にも、エルラドは自分の考えを改める気持ちは無いようであった。

「はぁ…しかたありませんわね。お父様は頑固だから…本当に無理はしないでくださいね。」

「あぁ、極力お前に任せるようにするから。それより、私にはもう一つ心配事があるんだ。お前のことに関連して」

「私のことに関連して、ですか?」

「あぁそうだ。ファルファレッテ家は領主という立場だから、今後もこの領地を治め、経営して行かなければならない。そのためには後継者を育てる必要があって、これまでお前には領地経営を学ばせてきたわけだが、そろそろ結婚のことも考えてもらわなければならないと思っている。お前は一人娘だから、この家に入ってくれる相手が必要なわけだが、現時点で誰か相手として考えられる人はいるかね?」

「お父様…残念ながら、現時点ではそのような方は居りませんわ。」

「そうか。だが心配は要らん。ここにいるラウル君は、ずっと以前からお前の夫になりたいと申し出てくれていたんだ。ラウル君であれば、信頼に足る男であることはわかっているし、隣国の子爵家ということで家格も釣り合うはず。今すぐ結婚する必要はないが、暫くは婚約者という立場で交際してみてはどうだろう?」

「私からもお願いしますよ。突然の話で驚かれたとは思いますが、私はずっとお嬢様のことをとても愛していたのです。絶対に大切にしますから私の妻になってください。二人でこの領地の将来を輝かしいものにして行きましょう。それに、将来を見通せる状況になれば、お父様も安心してゆっくりとお休みになれると思います。ぜひ考えてみていただけませんか?」

ラウルのことをあまり良く思っていなかっただけに、リュミエールはすぐに返事ができず、この時は、暫く考えてみると答えを濁したのだった。


それから暫くして、エルラドのところに一通の手紙が舞い込んだ。それは、王都の商工会の定期懇親会への招待状であった。ファルファレッテ家は王都に店や別宅があるというわけではないのだが、ナポリエール王国全体に影響を及ぼす薬草の栽培を行なっているため、王都の商工会からは毎回招待状が届いていたのである。

エルラドはこの招待状を見て、今回はリュミエールに出席するように告げた。理由は二つあった。一つは、自分の体調が一向に改善せずむしろ少し悪化している気さえして、王都への旅に耐えられるとは到底思えなかったため。もう一つは、王都の商工会に知己を作ることは、リュミエールにとっても財産になるだろうと考えたためである。特に今回は、最近話題となっている若い女性二人組みの異色の商会も参加するはずだとのことで、年齢が比較的近いと思われるリュミエールにとっては刺激になるかもしれないという思惑もあったのだった。

「懇親会の参加の件はわかりました。お父様の代わりに出席して、交流を深めて参ります。」

「やめてくれ。もう代理ということではなく、お前が当家の代表というつもりで参加するんだ。いいね?」

「お父様。申し訳ありません。きっとその覚悟で参加します。ところで、その女性二人組の新商会は、どのような商売をされているのでしょうか?」

「何でも、天候を予測して安全な航海ルートとスケジュールを提案するのだそうだ。そして、その提案を受け入れたにも関わらず天候が理由で船に損害が発生した場合は被害額を補填する、というような商売だったと思う。」

「天候だなんて…予測したって、当たるかどうかわからないのに。」

「彼女らに言わせると、天候予測が外れる確率は、ほとんどの場合5%以下らしいぞ。時には予測し難い状況の時もあるが、航海スケジュールをずらせない場合はそれなりに補填の金額を下げるらしい。」

この話を聞いて、リュミエールは考え込んだ。薬草の栽培と出荷において、天候というのはかなり重要なファクターである。もし大雨の日が予測できたなら、土嚢を積んで水の流路を変え栽培地の冠水を防止できたり、雨天の日を避けて収穫作業や収穫品の輸送日は設定できたりするのではないか?リュミエールは自分のこの考えにワクワクしてきて、是非ともその女性二人組に話をしてみたいと思うようになったのだった。

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