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クレオパトラの奪還

侵入者騒ぎで疲弊しているミルファーザたちとは違い、ルナたち一行は、食事の後はきちんと宿で睡眠をとることができた。ルナだけは3時間おきぐらいに出かけていっては侵入者騒ぎを起こしていたわけだが、それとても合間には仮眠をとることができたので、朝には普通に活動できる状態であった。

ルナは皆が揃った朝食の席で、今朝方、ミルファーザの家の様子を確認しに行った結果を説明した。

「ミルファーザ達はかなり疲弊している様子だったわ。感じとしては、今日の早い時間にクレオパトラを引き渡そうとすると思う。その時に後をつけて、その行き先に潜入します。」

「潜入か…うまくいくかな。」

ルチアーノさんが心配げに呟いた。

「それは相手がどのぐらい警戒しているかによるわね。でも、向こうはたぶん私たちのことは知らないはずだから、それほど警戒してないんじゃないかしら。それで、引き渡しが終わったら即、私がクレオパトラを奪還します。どこかに連れて行かれたら面倒だからね。ルチアーノさんは私と一緒に来て、引き渡しの場でどんな言葉がかわされたかとか、相手の立ち居振る舞いはどんな様子だとか、一連のできごとをオマルさんに報告できるようにして。他の人は退路を確保。私がクレオパトラを奪還したら全員すぐ撤退します。撤退は潜入した経路と逆のルートで。何か質問はある?」

するとアキリオスが尋ねた。

「奪還の前に俺たちが見つかった場合はどうする?」

「私たちが見つかった場合は、すぐに逃げてください。私はその騒ぎに紛れて何としてでもクレオパトラを奪還するわ。」

「あの子とルナさんを残して逃げるなんて、そんなことできません!」

「シャスタさん、気持ちはわかるけど、人が多ければ多いほど誰かが傷つく可能性が上がるわ。捕まれば人質にされる恐れもある。私だけなら何とでもなるから任せて。」

「娘を奪還したら、その後はどうするんだ?」

「一旦この宿に集まって、全員が揃うのを待ちましょう。誰かが欠けてたら助けに行かないと。」

その時、ヘルメスから連絡が入った。どうやら動き出しそうだ。

「みんな。じゃぁ出かけるわよ。どうやら動き出すみたい。」

「おい、何でわかるんだ?」

アキリオスが訝しげに訊いてきた。他のメンバーも一様に不思議そうな表情を浮かべている。

「詳しくは秘密。私には遠くのことを知る道具があると思ってて。とにかく出かけます。遅れたら置いて行くわ。」


ルナたちが宿を出て、ミルファーザの屋敷から下りてくる坂道の辺りで隠れて待っていると、2台の馬車がやってきた。騎馬の護衛を10騎ほど従えている。ルナは黙ってその馬車を見送った。

「おい、つけなくていいのか?」

アキリオスが訝しんで尋ねた。

「あれは囮みたいね。乗っているのはクレオパトラじゃない。」

「どうしてそれがわかる?」

「今後敵対するかもしれない貴方に言う筋合いはないわ。」

「くそっ!」

10分ほど経ったころ、また1台の馬車が坂を下って来た。今度は騎馬の護衛は4騎だ。今度もルナはその馬車を見送った。馬車が通り過ぎて2分したころ、ルナが言った。

「今さっき通った1台の馬車の方がクレオパトラの乗っている本命だったわ。追いましょう。」

「おい。追いましょうって言ったって、もう見えないじゃないか。何だってさっき言わなかったんだ。」

「気づかれるリスクを冒して隠れながらついて行けばよかったってこと?そんなことしなくても追えるから安心して。今は遅くなりすぎない程度について行けば十分よ。」

そう言いながらルナは、馬車が消えた方向に向かって通りを小走りに進み始めた。

「ルナさん。私も不思議に思うんだが、これはクレオパトラが浜辺に漂着しているのを見つけた時と同じ技術を使ったということかい?」

「ルチアーノさん。似てるけどちょっと違うの。今の方がリアルタイムでずっと精度良く場所がわかると思って。」

10分ほど走って、ルナは高さ3メートルほどの壁で囲われた寺院とおぼしき大きな施設の近くで立ち止まった。追いついてきた他のメンバーは、手を膝に置いて荒い息をついている。

「ねぇ。ここがどこか、誰か知ってる?」

すると、アキリオスの部下のガリアノスという男が、息を切らせながら言った。

「ここは、神聖、シファード教の、中心となる、寺院ですぜ。前に、来たことがありまさぁ。」

「誰が居るか知ってる?」

「シファード教の教主である、ムスタファ・シファードが、居ると聞きました。」

「そう。ありがとう。ムスタファ・シファードを見たらわかる居る人はいない?」

「ムスタファ・シファードならたぶんわかると思う。」

「ルチアーノさん、見届け人として心強いわ。相手が誰かを確認するのは重要ですからね。クレオパトラはついさっきこの中に連れていかれたの。何とかして中に入らないと。ほら。大門の30メートルほど向こうに通用門のようなものが見えるでしょう?あそこを出入りの拠点にしましょう。きっと閂をかけられているでしょうから、私が中に入って閂を外すわ。そしたら、あとは朝の打ち合わせのとおりにして。ルチアーノさんは私と一緒に来て事態を見届ける。他の人はあの通用門の通行を確保する。」

そう言うとルナは、通用門らしき門に近づきジャンプして一気に壁の上に飛び乗り、あたりを確認して、壁の向こうに消えていった。一行はみな、そのジャンプ力に目を見張った。

「おい。あの女、いったいどうなってるんだ?」

一気に3メートルの壁に飛び乗るなんてことは、普通はできそうにない。アキリオスの困惑気味の質問には、誰も答えを返せないでいた。

ルナが塀の向こうに消えて1分も経たないうちに、ズズッという音がして通用門の扉が開き、ルナが顔を覗かせて、皆に来るようにと手招きをした。全員が通用門の中に移動すると、そこは木々に囲まれて周りから見えにくくなっている場所で、地面に伏せていれば、そう簡単には見つかりそうにない感じだった。大門からは幅の広い石畳が、木々の間を縫って奥の神殿へと続いている。神殿の脇には倉庫が建っている。ヘルメスからの連絡では、クレオパトラはその神殿に連れていかれたとのこと。ルナはルチアーノだけを連れて神殿に向かおうとしたが、アキリオスから待ったがかかった。

「ちょっと待ってくれ。こんな場所で待機してるんじゃぁ、事の顛末はわからん。俺も一緒に連れていってくれ。お前さんがオマルの娘を奪還する時にルチアーノを守ることで、役にも立てるはずだ。」

ルナは暫く考えて言った。

「いいわ。一緒に来なさい。」

「ありがたい。恩に着るぜ。」

「貴方にはクレオパトラの拉致に加担したという貸しがあるけど、これでそれがチャラになるとは思わないで。シャスタさん、ガリアノスさん、ここはよろしく。」

こうして、ルナたち3人はクレオパトラが連れ込まれた神殿へと向かったのだった。


神殿は、石造りの厳しい建物で、神秘性を増すためか、太い柱が立ち並ぶ採光の少ない構造となっていた。まだ午前中だと言うのに内部は薄暗く、侵入したルナたちが隠れながら近くのには都合がよかった。クレオパトラを連れたミルファーザは、今まさに神殿の入り口から奥の大広間へと進むところで、ルナたちは、ミルファーザ一行の後を隠れながらついて行った。神殿の大広間の中央には外部の光が当たる部分があって、スポットライトが当たったように、その部分だけが明るくなっている。そして、その明るくなった部分の向こう側には、銀色の法冠と黒い法衣を身に着けた緑の瞳の男が、左右に20名ほどの配下を引き連れて待っていた。

「ルチアーノさん。あの中央の黒い法衣の男がムスタファ・シファードってこと?」

「そうだと思う。あの緑色の瞳は印象に強く残っているし、銀の法冠もその地位を表しているから、まぁ間違いないだろう。」

「そう。ありがとう。」

そんなやりとりを小声でしているうちに、ミルファーザがムスタファの前に立ち、一礼して声を発した。

「我が主、ムスタファ様。ご依頼のあった娘を捕えて参りました。どうぞお検めください。」

「顔を見せよ。」

その声に、ミルファーザの手勢に囲まれていたクレオパトラが引き出され、ムスタファの前の光の当たっている場所に突き出された。ムスタファはクレオパトラの顎をつまむと、グイと上に持ち上げ、色々な方向からその顔を眺めた。

「ふふ…どうやら、オマルの娘に間違いないようだな。時間はかかったが、よくやってくれた。感謝するぞ。」

「ははっ。ありがとうございます。それで、この娘をこれからどう扱われるおつもりでしょうか?」

「この娘は、オマルへの復讐とみせしめのため、我が秘薬の虜としてオマルに送り返してやるわ。」

「なんと!それはなぜでございますか?この娘は特に見目も良く、色々な取引の材料になるやもしれませんが。」

「特別に教えてやろう。オマルのやつは、私が作っている秘薬の危険性をこの国の王に吹聴しおったのだ。その結果、私の秘薬はこの国では使うことができなくなり、布教活動の妨げになってしまった。販売もできないことから、お前のような商人に託して国外からの収益を得ているわけだが、そう大々的に取引できるものでもない。おかげで私は、人的にも資金的にも苦境に立たされたというわけだ。だから私は、オマルを不幸のどん底に陥れたいのよ。」

「ほう。それはなかなかの復讐でございますな。ですが、秘薬の虜となった姿をオマルに確認させた後は、送り返すより私にご下賜くださいませ。密かに愛玩奴隷として使役しとうございます。時々は手紙も書かせますれば、オマルは娘をいつまでも探すでしょうから、復讐が更に効果的になると言うもの。それに、ご下賜いただけました際には、神殿には相応の寄進をさせていただきます。」

「よかろう。では早速、娘を我が秘薬の虜にしてくれよう。おい、この娘を他の娘たちのところに連れて行って、優先して処置するように博士に伝えろ。」

「ルチアーノさん、聞いたわね。全く最低のやつらだわ。これでクレオパトラは奪還します。奪還が簡単になるように、ちょっと外で騒ぎを起こさせて貰うから、心得ていて。」

「騒ぎ?どういうことだ?」

「すぐにわかるわ。」

連れていかれそうになったクレオパトラは、嫌よ嫌よと金切り声をあげながら、思い切り抵抗している。それで時間が少し経つうちに、何かきな臭いような異臭が漂ってきた。

「ん?何か臭うな。」

そこに外から飛び込んできた者が大声で報告した。

「火事、火事です。倉庫が急に燃え出して…」

すぐに消火に向かえ、というムスタファの指示で、周りが混乱の渦に飲み込まれてゆく。

「おい、この火事、お前さんが仕組んだのか?いつの間に…」

火事は、ルナが命じた衛星からのレーザーによる攻撃で起こったものだった。ルナは、質問に答える代わりに、すぐに撤退しなさいと二人に言うと、混乱の中を素早く走り抜け、ムスタファのところに到達するや、持っていた剣で一気に首を切り飛ばした。そしてすぐ、クレオパトラのところにジャンプして、クレオパトラを連れていこうとしていたムスタファの手下を一気に屠り、クレオパトラを抱いて神殿の出口まで戻った。クレオパトラはルナの体に必死にしがみついて、お姉さま嬉しいと歓喜の涙を流していた。

神殿脇の倉庫は、今や轟々と燃え盛り、中に貯蔵していた化学物質が燃えたいやな臭いの煙をモクモクと吹き出していた。ルナは神殿の出口でルチアーノとアキリオスに合流。4人で、入ってきた通用門に向かった。通用門では、3名ほどの神殿関係者が、シャスタさんとガリアノスを見つけ排除しようとしていたが、ルナたちが合流したことで人数的にも一気に優勢となり、全員で通用門をくぐって外に出たのだった。

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