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オマルさんの決断

久々の更新です。時間がかかってしまい申し訳ありません。

アキリオスたちが屯する酒場では、配下の一部がアキリオスに詰め寄っていた。

ルナを放置したまま、ルナからの提案に乗ったことに対して、思いの他反発が大きかったのだ。

「お頭。直接仕事を受けるのはわかりました。だが何だって、あの女を野放しにしてるんですか!家まで連れていった挙句、すっかり丸め込まれた格好ですぜ。まったく、情けないったらありゃしない。今のままじゃぁ、俺たちが腰抜けっていう評判が立ちますぜ。」

糾弾の急先鋒は副長のターリクだ。こいつは猪突猛進タイプで武力行使を好むので、自分たちの被害を最小限に留めようとする俺の戦略は、腰抜けの戦略に見えるようだ。事あるごとに俺がヤツの意見を却下するものだから、いいかげん不満が溜まっているらしい。配下の者の中には、そんなターリクに同調する者も結構居るので、俺としては頭の痛い存在である。今回も、あのゴリラ女はさっさとぶち殺しておいて、それからオマル・シュリーファの娘を力ずくで奪えば良い。どうしてそうしないのか?といきり立っている。

「おいおい、お前たち、あの女がここに来たときの暴れっぷりを見ただろう?ぶち殺すって言ったってそう簡単にはできないぞ。確かにあの女がいなければ、オマルの娘を拉致するのは容易かもしれんが。」

「そりゃぁ、組み打ちとかでは勝てないかもしれないが、武器を使えばイチコロでしょう。取り囲んで、弓でも射かければいいんですよ。」

「お前たち、アレクサンドリアの街で、オマルの娘を攫うついでにあの女を弓で狙ったろうが。あの女は飛んで来た矢を簡単に掴んで投げ返したらしいじゃないか。」

「そんなのたまたまですよ。それに、複数の射手で攻撃すれば、そう簡単に躱せるはずはありませんぜ。」

「そうか?俺には、あの女はまだ実力を全部出し切っていないように思えるんだがね。それこそ、俺たちのアジトなんか簡単に粉砕するぐらいの力がある気がする。あの女にはこれまで見てきた強者とは全く違う得体の知れなさを感じるぞ。」

「ああ、もう!どうしてそうビビってるんです!歯がゆいな。」

「俺の勘は当たるんだよ。その勘に従ってきたからこそ、これまでに色々と危機を回避できてきただろうが。とにかくだ。今はあの女はそっとしとけ。この件が終わってから改めて考えるから。」

俺は、もう議論は終わりだと言ってターリクたちを追い払った。このことが組織の弱体化を招かなければ良いのだが。いっそ、俺に反発の強いやつらは粛清すべきかもしれんな。組織は一時的には弱体化するが、その方が却って組織のためになるかもしれん。それにしても、俺があの女に感じている恐れは一体なんなのだろうか。俺はグラスを重ねながら独り言ちた。


さて、アレクサンドリアに帰たルナは、ここまでの経緯をオマルさん夫妻とクレオパトラ、そしてルチアーノさんに報告した。その内容は概ね次のようなものだ。拉致の実行犯は、アテーナイ近辺の海域を縄張りとしているアキリオス・アスクレピウスという海賊であること。彼らに拉致を依頼したのは、クレオパトラの逗留先としていたアメリオ・ヴィットリーニであること。そして真の依頼者は別に居り、その探索を行っていること。

オマルさんは、ヴィットリーニがクレオパトラの拉致を海賊に依頼したと知って激怒した。今にも報復措置を取りそうだったので、証拠になるものが無いことと、今動けば真の依頼者を警戒させることになることを説明して、今すぐの報復を何とか思いとどまらせた。

クレオパトラからは、真の依頼者はどうやって探すんですか?と問われたので、クレオパトラを拉致しようとした海賊と話をつけて、娘を拉致できたから引き渡すという形で、真の依頼者に接触するつもりであることを説明した。これを聞いたクレオパトラは嬉しそうに言った。

「じゃぁ!また私の出番ですね。」

するとオマルさんが悲鳴にも近い声を上げて、反対した。

「何を言い出すんだ!絶対ダメだ。」

奥さんとルチアーノさんはギョっとして固まっていた。私も思わずため息が漏れた。はぁ…なんてお転婆で向こう見ずな娘なの。

「もちろんダメよ。さすがに危険過ぎる。貴女を拉致する狙いは、オマルさんに精神的打撃を与えることだと思うのだけど、そうすると、生死不明の状態でありさえすれば良いだけだから、貴女の身柄が相手に渡った時点で殺されてしまう可能性もゼロじゃない。まぁ、確率はかなり低いでしょうけど。」

「じゃぁ、どうするんですか?娘を拉致できたから引き渡すわけでしょう?」

「だから私が替え玉になりますよ。」

「でも…手とか縛られて連れて行かれるんですよね? だったら、ルナさんだって危ないってことになりません?」

「私のことを心配してくれるのね?ありがとう。でも大丈夫よ。手を縛るのは一応私の仲間になるはずから簡単にほどけるようにできるし、それに、私は特別ですからね。実際、海賊たちが屯する酒場で10人以上に取り囲まれたけど、無事に切り抜けて、こうして無傷で戻ってきたわ?。」

「でも…私のことで他の人を危険な目に逢わせるのは…」

「なぁ、クレオパトラ。今回はルナさんにお任せして、家でおとなしく待っていておくれ。これは父母としての願いだ。」

オマルさんのこの言葉に、奥様も深く頷いている。

さすがのクレオパトラも、両親としての願いと言われては、それに従うしかない様子だった。

「心配しないで。私は普通の人とはかなり違うから絶対大丈夫よ。」


さて10日後、私は再びアキリオスたちが屯する酒場を訪れた。今度はルチアーノさんも一緒だ。これは、かの海賊を見たいというルチアーノさんの要望と、証人になるような人が同席するのが望ましいという私の要望が合致した結果だった。

酒場では、アキリオスが一人、グラスを傾けていた。

「来たな。今度は彼氏が一緒か。まぁ座れよ。」

「ちょっと。誰が彼氏よ。こちらはルチアーノさんと言って、私が航海のアドバイザーを務める船のオーナーなの。交渉の証人という意味で同行してもらったのよ。」

「お前さんというやっかいな相手を引き入れたのはこいつか。まったく、いい迷惑だぜ。お前さんさえいなければ、もう依頼は片付いて、今頃は美味い酒が飲めてたはずだ。」

「それは済まなかったね。私が今日来た理由は、交渉の証人という意味の他に、アテーナイ周辺の海域をしきる海賊の頭目がどういう人物なのかにも興味があったからなんだ。商船を襲うだけの海賊とは違うんだろう?」

「ふん。お前がアテーナイの港で商売をする気なら、みかじめ料は高くなることを覚悟しておくんだな。」

「まぁ、お手柔らかに頼むよ。」

挨拶?を一通り終え、私は例によってカンパリ、ルチアーノさんはジンソーダを注文して本題に移った。

「で、ヴィットリーニとの交渉はどうだったの?」

「予定どおりといったところだな。お前さんの言ったとおり、拉致事件の黒幕として疑われているぞと言ったら、条件を全て飲んで、コンタクト先を教えてくれた。」

「相手はだれだったの?」

「今の段階ではまだお前さんに教えるわけにはいかないな。勝手に動かれたら困る。」

「それもそうね。じゃぁ場所だけ教えてくれる?何か準備が要るかもしれないから。」

「まぁ、いいだろう。ビブロスだ。」

「あら、意外に近いのね。それは助かるわ。」

「ヴィットリーニの話を聞いて俺が受けた感じでは、そいつは真の依頼人じゃないと思うぜ。たぶんその上だな。」

「それでもいいわ。そいつに辿り着ければ、あとは力ずくでもなんとかなる。」

「力ずく。やっぱりそれが本性かよ。ところでお前さん、連れて行く女はどうするんだ?まさかシュリーファの娘本人というわけにもいくまい?」

「ふふふ、心配しないで。ちゃーんと用意してあるわ。」

「言っておくが、お前さんはダメだぞ?背が高すぎる。顔はメークである程度似せられるから、いつも見ていない限り、偽物かどうかなんてわからない。でも背丈は別だ。シュリーファの娘が大女だなんて噂のかけらもない。違和感満載だぜ。」

何ですって!っと一瞬気色ばんだ私だが、隣のルチアーノさんも頷いていて、納得せざるを得ないことに気がついた。

「わかったわよ。考えてみるわ。」

「時間はあまりないぞ。今、副長のターリクたちに引き渡しの段取りを付けさせてるところだ。とりあえず、替え玉の女を仕立てて、5日後の夜にビブロスの港に来い。そこでターリクたちと合流して話を聴いた上で、引き渡しの場に向かうことにする。」

「話は変わりますけど、オマルさんの娘さんを狙った最初の襲撃のとき、奴隷にした人たちがいるでしょう?その人たちの引き渡し先を教え。」

「おいおい。その稼ぎもぶん取ろうって言うのかよ。」

「買い戻す資金までを要求するつもりはないわ。教えるのを拒否するっていうのなら…」

「別に拒否してるわけではないさ。帳簿を調べて、今度会うときに教えてやる。」

「よろしくお願いします。」


アレクサンドリアへの帰路、対処の方策をルチアーノさんと話し合った。

「忌々しいけど私の背が高すぎるというのは認めざるを得ないわね。」

ルチアーノさんがクスリと笑った。

「やっぱり自分が身代わりになるつもりだったんだ。」

「そうよ。だって、他の人に任せられないでしょう?代わりをどうするかなんだけど…。条件として、先ずはクレオパトラ本人であると思わせる立ち居振る舞いが必要ね。それに、何をされるかわからないから腕は立つ方が良い。」

「立ち居振る舞いは、まぁごまかせる可能性は高いが、腕が立つレベルとしてどのぐらいを求めるかだな。」

「そうなのよ。募集をかけて来てくれた人の中から一番レベルの高い人にお願いするしかなのだけれど、それでも生命が危険に晒される可能性を排除できない。それに、アレクサンドリアに戻ってから1〜2日しか余裕がないでしょう?そうすると、十分に高いレベルの人が応募してくる可能性は低い。」

「替え玉のお嬢様を引き渡すときに、ルナさんが侍女として同行するのはどうかな?真の依頼人にお嬢様を引き渡すまでには、侍女がいて面倒を見させるっていう話なら乗ってくれないだろうか?真の依頼先に到着したら、替え玉のお嬢様はルナさんがさっさと逃すっていう作戦だ。」

「ダメでもともとで提案するのはありね。私が侍女として付いていれば、替え玉お嬢様のレベルはある程度低くても良いことになるはずだわ。逃げ足さえ速ければ良いとか。」

「オマルさんに相談してみるか。何しろ日数がなさすぎるから、応募したくれた人の範囲で何とかするしかない。」


アレクサンドリアに戻った私とルチアーノさんは、クレオパトラを含むオマルさん一家にことの顛末を説明し、クレオパトラの代役について相談した。オマルさんは私たちの意見を容れて、すぐ募集をかけると言ってくれた。

その結果選ばれたのは、クレオパトラをよく知るシャスタという女性剣士であった。二人はボランティア活動で知り合ったらしい。褐色の肌に青い瞳はクレオパトラと同じであり、背丈もクレオパトラより少しだけ高いといった感じである。

オマルさんは、私たちの居る所で正式に依頼するつもりで、このシャスタという女性を自宅に招いた。事件の背景と、今回の依頼には危険が伴うことを説明したあと、今回の依頼をぜひ引き受けてもらいたいと、丁寧に頭を下げた。

「ちょっと待ってください。私の代役依頼は撤回させていただきます。シャスタさん、本当に申し訳ありません。」

驚いたことに、クレオパトラがその依頼に異を唱え、深々と頭を下げ、謝罪の意を示した。

「クレオパトラ!今更、何を言い出すんだ?」

思わぬ娘の反対にオマルさんはオロオロした様子だ。

「前にも言いましたけど、私の代役になる人って、どうしても生命の危険が伴いますよね?

前のときは言い出したルナさんが代役だったので強く反対もできませんでしたけど、代役って最終的には私本人ではないとバレると思うし、バレたら殺されてしまう可能性が高いんじゃないですか?そんな状態で代役をお願いするなんて、私にはやっぱり許せません。」

「そうは言ってもなぁ…」

私はシャスタさんを見ながら言った。

「しょうがないわね。じゃぁ、今回の作戦は中止しましょうか。どうやっても代役が生命の危険に晒されることは回避できない。真の依頼先に到達する方法は別途考えましょう。」

するとクレオパトラはこれにもまた反対の意見を唱えた。

「ルナさん。すみませんが、その考えにも反対です。怯えながら何日も過ごすのは、もうこれ以上無理です。」

そこまで言って、クレオパトラがにっこり微笑んだ。

「だから、私が行きますよ。ルナさん、守ってくださいね。」

この子には全く呆れたものである。クレオパトラを守るための作戦なのに、本人が進んで囮になるなんて。でもまぁ、真の依頼人に引き渡される前は、確かにクレオパトラ本人の安全性は高いであろう。これが替え玉の場合は、偽物ってバレて殺させる心配がどうしてもつきまとう。だが、ご両親の心配も理解できる。どうしたものかしら。

私がうーんと唸っていると、シャスタさんが言葉を発した。

「ふふ…いかにもクレオパトラらしいわ。オマルさん、この子はこういう性格で、心に決めたことは押し通すと思います。偽物という観点で殺される心配はないのですから、真の依頼先に到達したと同時に保護できるのだったら、危険も回避できるのではないでしょうか?何なら私が侍女として付いていっても良いです。これ以上事態を引き延ばすわけにもいかなさそうなので、ここは賭けるのが良いと思います。」

オマルさんと奥様は、この思わぬ展開に目を白黒させるばかりだ。

「ねぇ、お父様。お願いです。私に道を切り開かせてください。シャスタさんもこう言ってくれてますし、ルナ様の不思議な力もあるから、きっとうまく行きますよ。」

「不思議な力って、なんですか?」

シャスタさんの問いに私は、道具を使えばクレオパトラの居どころを検知できることや、クレオパトラの近くで発せられた声を検知できることを教えた。そして異変があった場合は2分以内にすぐそばに行けるよう用意するつもりであることも言った。

「まぁ!それは心強い。オマルさん。ここはやはり賭けるべきでしょう。」

私は、今一度クレオパトラを安全に保護することができるか考えてみた。そして、保護は可能との結論に至った。

「オマルさん。この事件の解決を引き延ばすのは得策ではありません。精神的に参ってしまい、その結果、拉致のリスクを高める結果に繋がると思います。クレオパトラ本人を囮に使うのは、ご両親としては心配でしょうが、私もここは賭けるべきかとおもます。拉致の真の依頼人に接触できた際には、私の能力の全てを使ってクレオパトラを安全に保護することを約束しますから、どうかご了承ください。」

オマルさんと奥様は、クレオパトラ本人、シャスタさん、私の3人から、クレオパトラ本にを囮とする作戦を提案され、しばらくは言葉を発することができない様子だった。しかしやがて、奥様の目をみながら、意を決したように言った。

「わかりました。クレオパトラの気の済むようにさせてやってください。シャスタさん、ルナさんには、娘の安全の最大限確保をお願いしましたぞ。」


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