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海賊との交渉

お読みいただき、ありがとうございます。

ファンタジー要素は限定してますので、ファンタジーがお好きな方にとっては、物足りないかもしれません。

できるだけ隔週で更新するつもりです。よろしくお願いいたします。

私たちがアレクサンドリアに戻ったタイミングで、ヘルメスを通じて、ヴィットリーニが海賊に出した依頼書入手の結果連絡が入った。「成功したが問題あり」というものである。こんな単純化された連絡にな理由は、サラがヘルメスに何かを伝える場合は、衛星で確認できるサイズの印を窓の外に出しておく、といったような手段しか取れないためである。ヘルメスは、この印に対応する予め決めておいた回答を私に伝える、というわけだ。今回の場合は、赤ハンカチが「失敗」、青ハンカチが「文句なく成功」、そして黄ハンカチが「成功したが問題あり」であった。私が何が問題なのかヤキモキして連絡を待っていると、数日経って詳細を記した手紙がサラから届いた。問題だったのは記載された文章の表現である。「お嬢様の身柄をすみやかに確保するよう依頼する」と記載してあるだけで、害意を直接表す言葉は何ら記されていない。即ち、この依頼書はヴィットリーニの弱みにはならず、ヴィットリーニから依頼人の情報を聞き出すのは難しいということである。これでは殆ど失敗と言わざるを得ない。嫌な予感が的中したわけだ。依頼書には宛先と差出人の署名がきちんと書いてあって、証拠としては意味のあるものなだけに惜しかった。さて、どうしたら真の依頼人を探り出すことができるのだろうか?ルチアーノさんとオマルさんにも意見を訊いてみたのだが、二人からは良いアイデアを得ることはできなかった。

翌日、私はこの問題を改めて考えてみた。ヴィットリーニの依頼書は、依頼された当人にとっては、仕事に対する支払いをさせるための強制力になるわけだ。つまり、仕事をしたのにお金を払わないということになれば、この依頼書を公表するぞと脅せば良いわけである。即ち、サラが手に入れた依頼書をうまく活用できるのは、依頼された海賊だけ、ということになる。こう考えていたとき、依頼書とはあまり関係なくなるのだが、ふと気付いたことがあった。海賊当人はヴィットリーニとは比較的話し易い関係にあるはず、ということだ。そこで考えたのは、この海賊に、真の依頼者から直接仕事を受けたいとヴィットリーニに提案させることだ。今回のクレオパトラに対する襲撃の黒幕がヴィットリーニではないかと疑われつつあるとしながら、成功したら報酬の三分の一程度を情報料としてヴィットリーニに渡すと言えば、ヴィットリーニは身の安全を確保しつつ利益を得られることになるから、受け容れるのではないだろうか?海賊が私の思うとおりに動いてくれるか?という問題に対しては、海賊が真の依頼者からの報酬を受け取っても良いとした上で、私の言うことをきかなければ今回の襲撃に対する報復をすると脅せば、言うとおりに動くはずだ。私は頭脳派を標榜してはいるが、実績としては荒事は得意である。


アテーナイは、ナポリエール王国の東南東約1000kmに位置するサファロニア王国の首都で、海運拠点として栄えている街である。くだんの海賊はアキリオス・アスクレピウスと言い、アテーナイから少し離れた漁港であるルス・ポントスに居を構える、いわば海のヤクザである。即ち、商船を襲って略奪するといった通常の海賊行為をしない代わりに、縄張りとした海域を商船で通行しようとする商人から、みかじめ料を取ることを生業としている。彼らの縄張りの海域はアテーナイの港に入る上ではどうしても通行したくなる海域であり、アテーナイの港を利用する商人からすれば、要求されるみかじめ料は、それが海賊の被害を受けないための安心料であるなら、まあ許容しても良いと考える者が多かった。また、彼らは海上での非合法活動を請け負う便利屋の顔も持っており、裏の世界では成功率の高い便利屋としてかなりの知名度があった。

こうした彼らの生業は皆が良く知っているものではあるが、今のところ取り締まりの対象からは外れていた。その理由は三つある。みかじめ料を納める商人たちは、彼らを必要悪とみなしていて被害の訴えが無いことが理由の一つ目。彼らが根城にしているルス・ポントスは王都直轄であるアテーナイ市の範囲外であり、海賊等の取り締まりに責任を持つ地元の警察機構は賄賂によってすっかり骨抜きにされていることが理由の二つ目。裏の世界の便利屋として有用であることが理由の三つ目である。

オマル・シュリーファの娘の拉致に失敗したアキリオスは、このところ鬱々とした日々を送っていた。一度目の失敗は、船室に直結した脱出口があって逃げられたということでやむを得ない面があったが、二度目の失敗は相手から完全にコケにされた形であり、この業界で信用を落としかねないものであった。即ち、船に乗った娘の拉致においては、船速で上回っていたのに、接近した途端に斧で帆を引き裂かれて船足が落ち、相手にまんまと逃げられてしまった。その上帰投してみると、留守の間に何者かによって、根城に残した5人の手下は縛り上げられ、保管していたヴィットリーニからの依頼書は奪われていたからである。この失敗をリカバーしようとして、オマル・シュリーファの娘がアレクサンドリアの街にショッピングに出た際、狭い路地に入った時を狙って、手下4名で拉致を試みたがこれも失敗。一緒に居た背の高い女のせいで、近づくこともできず撃退されてしまったとのことだった。そしてそれ以来、娘の外出時には数名の護衛がつくようになり、拉致のチャンスはますます少なくなったのであった。ヴィットリーニからは早く何とかしろとの催促を2回ほど受けており、そろそろ不味いなと思っているところだ。もし依頼をキャンセルされるようなことがあれば、それこそ信用に傷がついてしまう。今日も馴染みの酒場の個室で幹部たち4人とどう対処をしたものか議論をしているのだが、どうも良い案が思い浮かばない。海に出てきてくれさえすれば何とかなるとは思うのだが、今のところは陸地にいる娘を拉致するように考えざるを得ず、慣れていないシチュエーションに、現実味を持った作戦を立てられないでいる状況だ。議論があまりにも進展しないことに業を煮やして、今日はもう酒を飲みながら振り返りをしようということになった。まぁ愚痴の言い合いである。

「何といっても腹立たしいのは、あの女だ。船で逃げ切られたのも、街中での襲撃を撃退されたのも、あの女のせいだ。」

副長が忌々しそうに言った。個室に居る他の4人の脳裏には、自分たちの船に斧を投げつけてきた、背の高いエキゾチックな顔立ちの女の姿がありありと思い浮かんだ。

「お前、40mの距離から、船の帆に斧を投げて届かせることができるか?」

「いや、全く無理だろう。帆に届かせるとなると上に向けて投げなければならないから、実際は70mぐらい投げないと当たらないんじゃないか?」

「そうだよな。それにマストの位置は船首から20mは後ろだろう?だからたぶん100mぐらいは投げる必要があるはずだ。」

「どんなゴリラ女だよ。顔立ちは綺麗だったのに、とんでもない化け物ってことか?」

「この前の襲撃にしても、手下のハルパロスが言うには、わけのわからないうちに投げ飛ばされて、戦いにすらなっていなかったって言う話だぜ。」

「一度目の襲撃の時に、無人島に漂着した娘を見つけたのもその女らしいな。魔女とかそういうモノじゃないのかよ。」

「魔女なんてお伽話の中でしか聞いたことがないぞ。外国にはそういったやつも実在しているのかね?」

そんなことを言い合っていると、俄かに外が騒がしくなってきた。どうやら、誰かが押し入って来るのを手下たちが止めようとして大乱闘の状態になっているようだ。あまりのうるささにアキリオスは腹が立って席を立ち、個室からホールに出た。やかましいと一喝しようとしたが、思わず声が出せなくなった。何故なら、その乱闘があまりにも奇妙なものだったからだ。手下は次々とかかってゆくのだが、アキリオスの目には手下が勝手に転げているように見えて仕方がない。一体何の茶番だ?と訝っているうちに、10名ほどいた手下全てが床に這いつくばるという事態になった。そして最後に立っていた者は、驚いたことに、今しがた脳裏にありありと浮かんだ女だった。

「お、お、お前は、あの時のゴリラ女!」

「誰がゴリラ女よ!」

その声と同時に、ホールに置いてあった椅子が凄い勢いで飛んできた。

個室から一緒に出てきた副長が慌ててその椅子を両腕でブロックすると、椅子は木っ端微塵に砕け散った。副長の方も相当酷い怪我を負ったようで、倒れ込んで呻いている。

「これは、何の真似だ?」

「貴方に話があって来たのよ。そう言ったんだけど、貴方の手下は聞く耳をもたなくてね。それで、奥に行こうとしたら邪魔してきたってわけ。降りかかる火の粉は払わなければならないでしょう?」

「いったい何の話があると言うんだ。お前は俺とは敵対している立場だろうが。」

「ちょっとここでは言い辛いわね。もしよかったら、貴方のお家でどうかしら?」

「仕方ないな。じゃぁ、ついて来い。」

アキリオスの住まいは、「邸宅」と言っても良いほど大きさと豪華さ兼ね備えた家であった。白壁の2階建てでデッキテラスがあり、庭の木々はよく手入れされていて、リゾート地の別荘といった雰囲気を醸し出している。内部もなかなか品の良い家具や調度品が揃っていて趣味の良さが伺える。私は、応接室と思われるソファとテーブルのある部屋に通された。

「何か飲むか?」

ホームバーがあり多数の酒瓶が並んでいる。私は赤い液体の入った瓶があるのを認めて言った。

「ありがとう。そうね。カンパリがあればいただこうかしら。」

ソファにかけて待って居ると、アキリオスがグラスを持ってきてくれた。中には氷と赤い液体が入っていて、カンパリ独特の芳香を放っている。アキリオス自身は、氷に琥珀色の液体を注いだグラスを持っており、ルナの向かい側に座った。

私は一口カンパリを口に含む。独特の苦味・甘味・爽やかさが舌と鼻に広がる。カンパリというお酒は独特のレシピがあるとされている。私がコールドスリープに入る前の時代から3万年。そのレシピが継承されてきたはずはないから、これはエージェントの誰かが齎したレシピによるものであろう。それでもかなりの長い年月が経っているはずだが、きちんとレシピが伝承されているようで、私は嬉しく思った。

「久しぶりだわ。これは良いお酒ね。」

「それで?話というのは何だ。」

「貴方、ヴィットリーニからの依頼で、オマル・シュリーファの娘さんを拉致しようとしているわね。」

「ふん!お前に邪魔されて失敗ばかりだがね。」

「私はその娘さんが二度と狙われないようにしたいのよ。だから、この件の真の依頼人を突き止めて何とかしたいわけ。」

「何とかっていうのは、殺すっていうことか?」

「そういう選択肢もあるわね。」

「平然と言うんだな。恐ろしい女だ。」

「これまで破壊活動も散々やってきたから、今更綺麗事を言うつもりはないわ。」

「それで?」

「貴方に協力して欲しい。具体的には、真の依頼者から直接仕事を受けたいとヴィットリーニに言って。報酬の三分の一を情報料としてヴィットリーニに渡し、残り三分の二を貴方が取るという条件よ。貴方とヴィットリーニの関係性であれば、少なくとも話を持っていくことはできるんじゃない?」

「ふん。そんなこと、ヴィットリーニが飲むものか。今の報酬の配分は、ヴィットリーニが2であるとしたら、俺たちはせいぜい1ってところだろうよ。」

「それは話のもっていき方次第でしょう。私をダシに使ってくれてもいいわ。オマルさんが雇った相談役が、拉致事件の黒幕として娘の逗留先であるお前を疑っている、とでも言えばいいじゃない。ヴィットリーニはオマルさんから嫌疑をかけられるのは商売にも影響するから、三分の一でも報酬が貰えれば、案外すんなり手を引くんじゃないかと思うの。」

「ゴリラかと思ったが、ずる賢い女狐のようだな。だが、まぁそれなら話をするぐらいは良いかもしれん。だが、何故俺にその役割を期待する?ヴィットリーニと交渉すれば良いんじゃないのか?」

「ヴィットリーニと交渉しても、何のことかわからないって白ばっくれるだけでしょうよ。彼はオマルさんとの関係は保っていたいはずだから、娘さんの拉致に関与しているとは知られたくないはずだもの。ヴィットリーニがダメだとすると、残る関係者は貴方ってことになるわね。」

「なるほど。事情は理解した。」

「ヴィットリーニの了解が得られたら、そこからは貴方が依頼者と交渉して。依頼された娘を確保したから引き渡したいと伝えなさい。引き渡し場所と日時を指定してくるはずだから、実際に娘を連れていって、娘と引き換えに報酬を受け取るようにすればいいわ。」

「お前さんは、その引き渡し場所で依頼者を何とかするつもりだろう?だったら報酬は受け取れない可能性が高いと思うがね。」

「あら。報酬は必ずしもお金だけとは限らないわよ。ミッションは完了する訳だから、頼りになる相談先としての名誉は守れるっていう報酬があるもの。」

「ふん!女狐はうまいことを言う。確かに今の状態だと、受けた仕事をまともに解決できなかったっていう実績が残っちまう。連れてゆく娘はお前さんが用意してくれるんだろうな?どうせ替え玉だろうが。」

「ええ、私の方で用意するわ。ヴィットリーニとの交渉は10日後までに完了できる?」

「往復に要する時間を考えるとギリギリだな。だが何とかなるだろう。」

「では10日後にまた来るわ。」

そう言って私は、アキリオスの家を後にした。


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