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少しだけ実力を見せましょう

これまで気になっていた部分を改作します。

最後のエピソードまで行ったら、新エピソードも書いてゆきます。

どうか、暖かく見守っていてください。

「今晩も来てやったぜ。それにしても、この店はだんだん寂れてくるな。してみると俺たちはこの店にとっての救世主っていうわけだ。ありがたく思えよ。ワハハ!」

なるほど。こいつらが毎日この時間に来るようになったから、それを知っているお客さんはさっさと会計を済ませて出ていったのだ。騒々しゆっくり飲んだり食べたりはできないだろうし、下手をすると絡まれる。

「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」

給仕の子は私に配慮して、今来た6人組を私のテーブルから遠いところに案内しようとした。

「案内には及ばねぇぜ。俺たちは好きな席に着くからな。今日は…ほれ、そこの姉ちゃんの隣がいいなぁ」

図々しくも私のテーブルの隣を手で示している。きっとちょっかいをかけてくるにちがいない。給仕の娘さんは、どうしたらいいかわからなくてオドオドしてしまっている。かわいそうに。私は彼女に向かって、大丈夫というように頷いてみせた。

それがわかったらしく、彼女はその6人組を私の隣のテーブルに案内した。

「エール!それからすぐにウォッカだ。一緒に持ってこい。それにチーズと炙り肉」

料理はたいして注文しないらしい。エールが運ばれて来ると、彼らは上機嫌で一気に飲み干し、すぐお代わりを注文した。

「おい、姉ちゃん、見かけない顔だな?」

馴れ馴れしく話しかけてくる。

「昨夜この街に来たばかりでここに泊まってるの。お料理が美味しいと聞いたのでね。」

彼らの中の一人が私のテーブルの上を見て、あきれたように言う。

「これはまたえらい量だな。姉ちゃん一人じゃ食いきれないだろう。手伝ってやるよ。」

無遠慮に手を伸ばしてくる。私は伸ばして来た手を軽く払いのけて言った。

「大きなお世話よ。一人で食べられるから大丈夫。人のものに手を出さないでちょうだい」

「親切に手伝ってやるって言ってるのに、ずいぶん舐めたことするじゃねぇか!」

失笑を誘うほど、お決まりのセリフだ。

「おい、ブルーノ。こんな女に舐められてるんじゃ、これから商売できなくなるぜ。強面で通ってるおまえが、女に言い返されて大人しくなったとあっちゃぁ、誰もお前を用心棒として雇わなくなるってもんだ。」

どうも要らないことを言うなと思っていると、案の定、このブルーノらしい男が調子に乗ってこんなことを言い出した。

「まったくだぜ。この落とし前どうつけてくれるんだ?謝罪の印に、それなりの金を払ってもらおうか。それとも女にしかできないことでもいいぜ?」

ブルーノという男は、げひひと下品に笑いながら睨めつけてくる。

まったく面倒だ。ちょっと実力を見せてやるか。

「私のものを取ろうとしたから守っただけでしょうが。私が落とし前つける理由は全くないわ。」

「そうはいかねえぜ。俺たちはメンツを潰されたんだ。それなりの謝罪はしてもらわないとなぁ。」

まったく呆れる。これがゴロツキの論理なんだろう。気に入らないことがあるとメンツを潰されたと言って絡む。そうやって金品をたかるわけだ。でも今回は相手が悪かったわね。その商売、二度とできないようにしてあげるわ。

私は後に荒事に発展することは承知の上で、次のような提案をした。

「いいわ。私に謝罪する気持ちは全くないし、それどころか人の食事の邪魔をしたことに対して謝罪して貰いたいぐらい。だから、勝負して負けたら相手の言うことを聞くってことにしましょうよ。勝負は腕相撲で。切った張ったの勝負で死んじゃったら何ももらえないからね。もしあんたが負けたら、あんたが邪魔してくれたお食事のお金、払ってもらうわよ。」

腕相撲で?と疑問に思うかもしれないが、今の時代、腕相撲というのは比較的ポピュラーな勝負として認知されている。旧文明の腕相撲が腕を組み合ってからの力比べであったのに対し、この時代の腕相撲は、立会い有りの腕相撲と言うべきものである。単なる力比べでなくなったことで、体格の劣る者にも勝つチャンスが生まれ、一般的な勝負ごととして認知されるようになったのだった。具体的な勝負の方法は、お互いに肘をテーブルに付けて、腕を組む直前の状態で構えておいて、両者の掌の間に入れた障害物を立会人が取り去ることで勝負が始まる。両者は瞬時に10センチほどの距離を詰めて相手の手を掴み、テーブルに叩きつける。その立会いが悪ければ、一気に押し込まれてしまうので、勝負は一瞬でつくこともよくあるのだ。もちろん、力の強い者が有利ではある。しかしながら、私にとってはこのルールは著しく有利だ。何しろ反応速度と瞬間的なパワーが常人の何倍もあるから、相手が反応する前に勝負を決めることができるし、その気になれば、相手の手首を粉砕することさえ可能だ。これまで、相手がどのような者であっても負けたことがない。それにもかかわらずブルーノは、私の提案を怪しみもせず受け入れた。たぶん自信があるのだろう。あるいは、私を好きにできるという条件に目が眩んだのかもしれない。一応私も、エキゾチックな美人ではあるから。

「おう。いいともさ。俺が勝ったら何でも好きにできるんだな?」

「ばかね。負ける勝負を自分で言いだすわけがないじゃない。私の知ったことではないけど、あなたもう二度と用心棒としてもやってけなくなるわよ?だって、か弱い女に腕相撲で負ける用心棒なんて要らないもの。」

「俺がお前に負けるだって?この女、言わせておけば!いいだろう。お前から提案してきたことだ。後悔するんじゃねえぞ!」

どうやら、そうとう頭に来たみたいだ。顔を真っ赤にして、フーフー言っている。ちょっと可愛いかも。

そんなことを考えていると、男の仲間が調子に乗って言ってくる。

「へへへ…面白い勝負になったじゃねえか。俺たちにも一枚かませてくれよ。金を賭けるからよ。姉ちゃんが勝ったら全部取る。負けたら倍返しだ。なんなら借金の申し込み先も紹介してやるぜ。」

愚か者が、絶対に自分は負けないと思って提案してきている。私にとってみれば、これはお金を稼ぐチャンス。内心ホクホクしているのを隠しながら、少し自信なさげに答えてみる。

「え…それは…」

「なんだよ、自信なさげだな。さっきの勢いはどうした?」

「わかったわよ。勝手に賭ければいいじゃない。でも、お金は先に出して宿に預けといて。私が勝ったときに逃げられたらたまらないから。」

「いいだろう。ほら!」

ブルーノっていうやつ以外は、有り金の全てを出してる感じだ。全部で200万ルードぐらいありそうに見える。意外にたくさん持っているのに私は驚いた。確かにこの金額だったら借金でもしなきゃ払えない人は多いと思われる。

そんなことを考えていると、宿屋の主人が心配そうに私に声をかけてくれた。

「あの…差し出がましいようですけど、やめられた方が良いのではないでしょうか?すごい金額になってますよ。」

「おい!要らないことを言うんじゃねえ。今更なかったことにできるとは思うなよ。邪魔するようだったら、この宿屋、ぶち壊してやるぜ。」

こいつら、私のことよっぽど良い金づると思ったんだな。バカなやつら。

「ご心配いただいてありがとうございます。でも大丈夫。私、腕相撲は強いもの。さっさとやりましょう。ご主人、すみませんけど、空いてるテーブルを貸してくださいな。それと、開始の合図をお願いします。」

宿屋のご主人は私の方に心配そうな目を向けてくれたが、ことここに至っては、言うようにするしかなく、私たちをお店の中央あたりのテーブルに連れていった。

「ところで、勝負は1回勝負で良いかしら?」

「いや、3回勝負にしよう。立会いのまぐれっていうものあるからな。」

確かに、実力差が小さい場合は、立会いのまぐれというものも有り得る。だが、私に限って言えば、まぐれというのは有りえない。

私は椅子にかけて右手を出す。

「ほら、さっさと構えなさいよ。」

ブルーノという男は、私の落ち着いた様子に少し疑問を持ったようだ。少し気味悪そうに腕を構える。ご主人は私たちが構えた手を薄い木の板で隔てる。

「では、よろしいでしょうか。私がこの板を取り去ったら試合開始です。」

宿屋のご主人が私たち二人の表情を確かめ、ゴクリと唾を飲み込む。

「では、行きますよ。始めっ!」

緊張の中で、二人の手を隔てる板が取り去られる。

その瞬間…ガコッという音が食堂に響く。有りえないスピードで、私がブルーノの手をテーブルの上に叩きつけた。その場に居た全員が固まっている。私の動きがあまりにも早かったので、声を出す機会を逃したのだ。私がフーッと大きく息を吐くと、ハッと我に返った宿屋のご主人が私の勝利を告げた。

「第1回戦は、お泊まりのお客さんの勝利です。」

「う…今のは油断しただけだ。次はこんなことには…」

ブルーノの強がりをよそに、ブルーノに賭けた者全員が、これは次もダメだっていう顔をしている。それはそうだろう。今の勝負を見たら、次で勝てそうな要素なんて全く思い浮かばない。でも今頃わかっても遅い。賭け金は私のもの。うふふ…

「さあ、2回戦をやりましょうよ。これで決着ね。」

そう言ってブルーノの顔を見ると、並々ならぬ決意が感じられる表情をしている。何かしかけて来そうだ。さて、何かしら…

「では、お二人とも、構えてください。」

ご主人に促されて二人とも構えを取る。1回戦と同じように、宿屋のご主人が私たち二人の表情を確かめる。

「では、行きますよ。」

その時、ブルーノが不意に突っかけた。始めの声がかかる前に、二人の間を隔てた板を押して私の手にぶつけ、痛めつけにきたのだ。私は瞬間的に構えを解いて、ブルーノの手が板に触れる前にはもう、自分の手を避難させていた。バンという激しい音がして板が吹っ飛び、ブルーノの手がテーブルに激突する。気合いが入っていたようだから、衝撃もひとしおだったはずだ。ブルーノがウッと呻き声をあげる。

実は、こういった早いタイミングの突っかけは、ルール上は禁止されていない。なぜなら、勝負は構えた瞬間から始まっていると理解されているからだ。それに、今のようにつっかけて躱されたら自分がダメージを受けかねない上、勝負自体は立会いからやり直しとなる。従って、意表を突く若干ダーティな行為ではあっても、自分の不利益にしかならない可能性もあるということで、つっかけることは作戦の一つとしては認められている。しかし、私のような反応の早い相手にはあまり有効な作戦とは言えない。自分が怪我をするリスクが高まるからだ。ブルーノとしては、1回目に私との実力差を実感したことで、止むを得ず取った手段ということであろう。

「う、いつつつ…」

ブルーノは、顔を顰めながら、衝撃を受けた右手に左手を添えている。これは、もしかしたら骨折ぐらいはしているかもしれない。

「ふん。どやら続行は無理そうね。」

じろりと睨んで冷酷に指摘すると、ブルーノの表情は痛さに悔しさが混ざったものに変わったが、ダメージがかなりのものだったため2回戦をやり直すこともできず、体を震わせて立ち尽くすばかりだった。

「はい、じゃぁ私の勝ち。賭け金はもらっておくわ。この勝負はきっとすごい評判になるわね。」

ニンマリ笑ってからかうと、仲間の一人がものも言わず私に殴りかかってきた。

最初に考えた展開のとおりだ。こういう輩は、負けておとなしく帰ってゆくわけがない。先に手を出させて正当防衛であることを印象付けた上で、二度と悪さができないほど痛めつけるつもりだ。まぁ自業自得だろう。

私は、宿屋に迷惑をかけないように、男たちをかいくぐると急いで外へ出た。

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